帝国編
第8話 まだ見ぬ世界へ!
俺が一〇年かけて制覇したダンジョンは財宝王レノ・フォウゼルが仲間と共に作ったらしい。ダンジョンを作った真意を財宝王が語り始める。
「さっき、アイリスが破壊神の力を使って自分事、創造神を封印したってのは聞いただろ」
「世界の破壊を防ぐ為……だな」
「……だけどな、封印は時間が経てば弱まる。封印が解ければアイリスも復活するが創造神も復活しちまう。アイリスは破壊神と同等の力を持っているが戦闘経験がまるでない。封印が解けたら創造神に殺されると思った……俺が破壊神の力を与えたばかりにな」
財宝王は悔いる様に言った。俺はアイリスを見ると、彼女は首を横に振っていた。
「
「ふっ、まさか死んだ後に、娘に慰められるとはな」
彼は鼻で笑った後に言った。すると財宝王の隣にいる聖女リゼ・フォウゼルが、
「しっかりして下さいませ。あなたがそんな調子ではアイリスが不安になります」
「そうだな……しかし、リゼが俺をフォローしてくれるなんて珍しいな」
「フォローしたつもりはないです」
聖女はそっぽ向く。
「かっかっ、相変わらず正直じゃないな」
愉快そうに財宝王は笑った。とても死人とは思えない。今の俺には分かるが彼らはかろうじて現世に残した魔力で一時的に留まっているだけだ。直に消えてしまうだろ……アイリスを置いて。
財宝王は思い出した様に手を叩いた。
「おお、そうだ話の続きだな。創造神が復活しちまうと、アイリスが殺される上に世界が壊されてしまう。だから俺達は命を投げうってこのダンジョンを作った」
なるほど……つまり、
「創造神を倒すような人間を生み出す為、誰かにダンジョンで強くなってもらう必要があったんだ。しかもその上、創造神を倒させるっていう思惑か」
「そうだ。それにお前が出会ってきた全ての魔物や人間は魔力で辛うじて姿を留めている。お前と全力戦って戦闘経験を身に付けさせて力を奪われる為にな」
「そうか。だから皆、倒されたがってたんだ。でも、姿を辛うじて留めている割にははっきり肉体があった様な……」
「魔導士グリオンと会っただろ。あいつは死霊術を使える。死霊術は死者や霊を介して使う魔法だ。このダンジョンに誰か来た時だけ保存された肉体に魂が宿って動く様に魔法がかけられているんだ」
俺が戦ってた奴ら皆、死人だったのか。しかも、来るかどうか分からない相手を千年も待っていた事になる。最初に戦った
「俺が出会ってきたのが人間だけなら分かるけど、それって魔族の協力が必要な気がするだが」
「当時、破壊神という共通の敵を倒す為、人間と魔族は協力していた。もちろん創造神も世界を破壊しようとしているから共通の敵だったわけだ。まっ、大方、今は共通の敵が居ないから互いに争ってんのが目に見えてるけどな」
俺の疑問は財宝王の言葉で直ぐに解けた。なるほど、自分達の生活を脅かすほどの敵が現れたから、いがみ合っていた人間と魔族は手を取り合ったって事か。
俺は腕を組んで少し考えた後に口を開く。
「つまり俺は今、世界を救わされた?」
「そうなるが、どっちかといえば俺達が望んでたのはな……」
財宝王は頭を掻いて聖女を見る。
「ですね……」
聖女は言う。
(なんだろう? どういう事だ?)
と思っていると聖女が答えをくれた。
「アイリスです。世界は救いたいという気持ちはありますが、何より私達は娘を救って欲しかったのです」
俺アイリスを一瞥しようとすると目が合う。そしてしばらく見つめ合うと、
「アレクシオ様? どうなされたのです?」
「俺は世界を救ったなんて大それた事した実感はないけど、一人の女の子を救ったっていうのは実感している。だから俺もあんたの両親と同じで、世界を救う為じゃなくてアイリス・フォウゼルを救う為に此処に来たんだって思う事にするよ」
「アレクシオ様……」
アイリスは嬉しそうに俺の名を言って、両手を胸の前で組んでいた。
「かっかっか! 親の前で娘を口説く気か?」
「いやいや、思った事を言っただけで」
と財宝王に向かって言ってると
「
アイリスが指摘した通り財宝王と聖女の体は徐々に薄くなっていき、今にも消えてしまいそうだった。
「時間が来たみたいです。アイリス……元気でいるのよ」
聖女が別れを告げるとアイリスは深く頷く。彼女は気丈でいた。最初から覚悟していたのだろう。それとも亡くなったはずの両親と今会えるだけでも奇跡だと思っていたのだろうか。
とりあえず、今は言いたい事がある。
俺は消えかけている彼らを問い詰める。
「アイリスを……置いていくのか? 誰も知っている人が居ないこの世界に」
「お前がなんとかしてくれるんじゃないのか?」
財宝王は不敵な笑みを浮かべて言った。
「確かに俺はアイリスを救う為に此処に居るって言ったしな……それに王族として育ってきて一〇年間ダンジョンに居たから俺も外の世界の事は余り知らない。一人気ままに旅をして世界を知るのもいいけど、二人の方が楽しそうだしな。俺がずっとアイリスと一緒にいますよ」
と啖呵を切ると、聖女は「あら、まぁ」と言って口に手を当てていた。
あれは、どういう反応なんだろ? その上、アイリスは顔を俯かせていて、どんな表情をしているのか分からなかったが頬が赤らんでいた。
「じゃあな、アイリス、それとアレクシオ」
「あなた達に幸運がありますように」
財宝王と聖女は微笑みながら消えていった。すると、霧に包まれた世界は晴れていく。周囲の景色は水晶で出来た部屋に戻っていた。
「行っちまったな」
「アレクシオ様」
「なんだ?」
彼女は未だに頬を赤らめていた。
「いいのですか? その……国に戻らなくても」
顎に手を当てて考える。
「んー、さすがに一〇年も行方不明だったら王位継承権なんて無いだろ。それにそもそも父上が今も帝位に就いてるとは限らないし、俺が戻った事で争いが起きるかもしれない」
「でも」
「というか俺もあんたも神の力を持っちまってるしな。一緒に行動した方がいいだろ。俺じゃ嫌か?」
これで嫌って言われたらかなりショックだ。というか悲し過ぎてご飯も喉を通らなそう。一〇年間、飯なんか食わずに空腹感を聖女の魔法で消されてたけどな。今思えば、本当に魔物を狩るだけの兵器になってたな。アイリスと話してると不思議と人間らしさってのを取り戻してきてる気がする。腹減ってきたし。
「嫌じゃないです! むしろ良いっ……です」
彼女は言葉を詰まらせながらなんとか喋った。
「じゃあ、行こうか! 俺があんたを自由にしてやるよ」
「はい! 不束者ですがよろしくお願いします!」
なんだ、その嫁入り前みたいな挨拶は。少し照れるし。脈ありだと思ってしまう。
そして俺は手を差し出すとアイリスは自然と手を置く。
俺は創造神の能力の一つ――《座標移動/ポイントムーブ》を使ってアイリスと共に一瞬でダンジョンの外へ出た。《瞬間移動/テレポート》と言う魔法は覚えてから一度言った場所なら何処へでも行けるが、ダンジョンに入る前はまだ《瞬間移動/テレポート》を覚えていない。
そして《座標移動/ポイントムーブ》は行った事ない場所でも目安を付けて座標を設定する事で好きな場所へと移動できるのだ。
俺は自分が持っている力の全てを把握していた。正直、出来ない事はないだろう。これから俺は……いや俺達は自由になる。行こうまだ見ぬ世界へ!
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