注文5 嘆きの谷 ポーション配達 おわり
「なあ、何をそんなに恨んでいるんだ?」
サーポがデミドラゴニュートに静かに問いかけました。
「お前
サーポは妖精としての感覚からなのでしょうか、そう断言しました。
人の死後、魂もしくは感情が妖精になる事はままあります。
例えばピクシー。
彼らは洗礼受ける前に亡くなった子供の魂が転生すると言われています。
他にもウィル・オ・ウィスプやバンシー等も同様に、人から妖精になったと伝わっています。
「ダンジョンが出来るきっかけになった冒険者の恨みじゃないのか?」
ヘイリーさんがデミドラゴニュートから目を逸らさずに尋ねました。
「その冒険者は恨んでなんかいねえよ。それは保証する。こいつは少なくとも、それ以外の何かだ。それで、お前たちはどこの誰なんだ?何で人を襲う?」
サーポは純粋に疑問を投げかけます。
今まで他の冒険者が気にしなかった、
皆が
黒いつぶらな瞳で真っ直ぐにデミドラゴニュートを見つめて問い掛けました。
「ナゼ、ナゼダト」
今までナイケメンにだけ注意を向けていたデミドラゴニュートは
、初めてそれ以外に意識を割きました。
赤く裂けた目がサーポの黒い目と視線を合わせます。そして牙が並ぶ口を大きく開けて話し始めました。
「ソウダ、オレタチハ、ドラゴンヲタオシタ、ボウケンシャデハナイ。アンナオトコデハナイ!」
ドラゴンを倒した冒険者の話をするデミドラゴニュートは、とても忌々しそうにしていました。そこにはナイケメンに向ける恨みの感情と同じものが宿っています。
「アア!ウラメシイ!オマエタチニハワカラナイ」
「だからそれがどうしてなのかを教えろって、言っているんだよ」
サーポの目に話の通じない相手への呆れが浮かんでいました。
「アノ、ボウケンシャガ、オレタチニナルコトハナイ。シシテナオ、オモワレテイタ。オンナハ、オトコノシゴ、ヒトリダッタ。ショウガイ、モニフクシタノダ」
デミドラゴニュートの言葉は寓話の続きでした。
あの寓話の中で結婚を申し込まれた女性は、冒険者の死の後、その一生を喪に服したのです。生涯誰とも結婚をしなかったのです。
そのお話は町の昔話として残っています。
町の人々は彼女の思いを大切にしました。
春先にある祭りは冒険者の死を悼み、彼女の純粋な思いを讃える為の物です。
愛の為に生きた男の人と愛を守って生きた女の人にちなんで、恋人や夫婦が愛を確かめ合う祭りとなりました。
「お前たちは思われていなかったというのか?」
「ソウダ。オレタチニハアイハナカッタ!オマエニワカルカ、ソノサビシサガ!」
ナイケメンの相槌にデミドラゴニュートは興奮し始めます。
大きく口を開けて叫び、長い爪の生えた手を天に掲げます。
そうして決定的な言葉を発しました。
「ダレヲ、マツリニサソッテモ、スベテコトワラレル。コノカナシサガ、ワカルカ!」
デミドラゴニュートの心の底からの叫びが響き渡りました。
「お前達、もしかして振られた腹いせに冒険者を襲っていたのか?」
サーポが驚いたように言いました。
「つまり何か?こいつはもてないで死んだ奴らの残留思念ってことかい?」
ヘイリーさんも呆然とした顔で聞き返しました。
毎年、何年も長い間、このダンジョンで悩まされていた出来事の原因が、そんなくだらない理由だったとは思いもしませんでした。
心なしか皆のデミドラゴニュートを見る眼が冷たくなっています。
「ソノメダ!オマエタチノ、ソノメガ、ニクイ」
赤い目に狂気の色を乗せデミドラゴニュートは、狂騒状態になりました。
なんだかなー、とばかりに見ていた冒険者達に襲い掛かりました。
「そんなんだから、ふられるんじゃねーの?」
言葉と共にサーポが正面から真っ直ぐ飛ぶと、切りかかります。
鋼鉄すら引き裂く二つの爪が切り結び、赤い
衝突は一瞬でした。
体重の軽いサーポは、直ぐに後ろに押し戻されてしまいます。
「アアアアアア!」
デミドラゴニュートはもう言葉すら忘れてしまいました。只々、叫び声をあげてナイケメンへ突撃を繰り返します。
ナイケメンさんは壊れかけの大盾で砲弾のような突進を受け止めました。
突進を止めた盾にデミドラゴニュートの爪が食い込みます。ただでさえ消耗していた盾についには亀裂が入ってしました。
「ほいよっと」
「ガアッ!」
デミドラゴニュートの動きが止まったタイミングで、ヘイリーさんがハンマーを横から叩きつけます。
大きく太い頭に長い柄を持ったハンマーは、とても重そうでした。それを軽々と振り回しヘイリーさんは戦います。
デミドラゴニュートは何度もハンマーを叩きつけられて、その場に釘付けにされました。
あとはもう冒険者達の総攻撃です。
入れ替わり立ち代わり誰かしらが攻撃を仕掛けます。
十人を超える冒険者の波状攻撃には、さすがのデミドラゴニュートの鱗も耐えきれませんでした。次々と当たる攻撃に罅割れ、砕け、はがれていきました。
鱗のはがれた場所はサーポの青い爪が切り裂きます。
火の属性に偏ったデミドラゴニュートには水の妖精であるサーポの攻撃が思いのほか効きました。
戦いの終りは静かでした。
ついに耐えきれなくなったデミドラゴニュートは崩れるように倒れました。
もう叫ぶことすらなくなり、四肢のさきから砂のように崩れると、
他の
「あっさりと終わりましたね」
「さすがにこれだけ数が居ればなあ。それにアーヴァンクがかなりいい仕事をしてくれたよ」
皆が大手柄のサーポを見ると、本人はなんてことも無さそうに肩をすくめていました。
「これで来年までは安心してダンジョンに潜れますね!」
エリシアは満足そうにしています。
暫くダンジョン内の治安は守られます。
「偶然とはいえ、ここでデミドラゴニュートを倒せたのは良かった。これで安心して行方不明者を探せる。お前さん達も安心して地上に戻れるだろ?」
「ええ。貴方達がいてよかった」
ヘイリーさんとナイケメンさんは頷き合います。
一緒に戦ったことで彼らの中に連帯感が生まれていました。
彼らはその場で少し休憩を取ると捜索を続ける人達と、地上にも戻る人達に分かれました。
「また地上で合ったら酒でも飲もうや。ああ、そうだ。戻るついでに上層にいる
別れ際にヘイリーさんはそう言い、手を振って去っていきました。
エリシアとパーティー・ネンザンの一行は、その役目をしっかりと果しました。
厄介な
その後地上までみんなで戻り、
ダンジョンの中で合ったことを報告すると、皆呆れていました。
デミドラゴニュートの発生理由が、あまりにも馬鹿らしかったのです。
色々な感情が各々の中で吹き荒れる中、アルヒンさんがポツリと言いました。
「ところで寓話の冒険者は結局どうなったの?。女の人と一緒に常世の国へ行ったのかな?」
アルヒンさんの言葉には常世の国で一緒だといいな、という祈りも込められていました。
「いーや、案外二人共妖精になって、一緒に空でも飛んでるかもしれないぜ?」
何処か悪戯っぽくサーポが答えました。
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