注文2.5 嘆きの谷 落ちた冒険者達
運が良かったのか、悪かったのか。
パーティーで滑落して何とか中層で止まった人達がいました。
パーティー名ネンザン。四人組の冒険者達です。
「すまない。僕の所為でこんなことになってしまって」
パティーリーダーのナイケメン・コツポンが酷くつらそうな顔で、そう漏らしました。
金色の髪の髪を逆立たせ、白い重装の鎧を身に纏った
最も今は兜をかぶっていて見えないのですが。
彼は周りを見渡して、自分達が落ちてきた場所を確認します。
部屋の中央に大きな石台があります。その上を見える濃度まで凝縮した火の
遠目には紅い花が群生しているのが見えます。あれは
「中層の第四大部屋……か?」
目の前に広がる光景は、彼の記憶にある部屋の配置と一致します。
上層に冒険者達が集まっているからか、此処には人の気配が無く、何処からともなく
本来ならここは、中堅の冒険者が万全の準備を整えて挑戦する階層です。偶発的に落ちて来たので正直な所、長居をしたくはありませんでした。
今日の探索はおかしな事ばかりでした。
他の冒険者達が纏まって行動していたのも疑問に思いましたが、一番おかしいのは遭遇したことのない
筋骨隆々の人間のような容姿。しかし確実に人間とは違う点、竜の頭を持っていました。全身を鱗に包み、人よりはるかに大きい背丈。
半年以上このダンジョンに潜っていた彼らでしたが、こんな
その
ナイケメンは内心
周りに仲間がいなければ、大きな声で叫びあの
でもさすがに仲間の前で、そんな醜態をさらす愚かさはありませんでした。
纏まっている他の冒険者を避けて中層で行動していた彼らは、何度も襲撃を受けその度に逃げていました。度重なる襲撃は確実に彼らの装備と回復アイテムを消耗させていきます。
仕舞にはにナイケメンの消耗品が底をつきました。もうこうなっては探索どころではありませんでした。
今日の探索は切り上げ、帰還しようと上層を目指し進んでいたのです。
ここまで消耗したアイテムが多すぎて、ナイケメンは正直あの
もうすぐ地上に出られるところまで戻ったところで、奴に出くわしました。一体どうやって先回りしたのか、とにかくナイケメンを狙っていました。
「ウラメシイ。オマエタチガウラメシイ。モテルオマエガウラメシイ」
「知った事か!」
ついナイケメンも言い返してしまいました。
硬い爪が装備を抉ります。
簡単に
全身を覆う鱗も厄介でした。矢を弾くばかりか、剣を振るっても鱗を砕くことが出来なかったのです。
パーティーメンバーで協力して戦闘していましたが、あまりの圧力に階層の端へ追い詰められてしまいます。
その頃には騒ぎを聞きつけた他の冒険者達が駆けつけてきましたが、パーティー・ネンザンのメンバーとデミドラゴニュートの距離が近すぎて手助けが出来ませんでした。
ついには奴の咆哮でメンバー全員で階層からはじき出され、斜面を滑り落ちてきました。
中層まで落ちてナイケメン以外に大した怪我がなかったのは、いい話と言って良いのでしょうか。
中層に落ちてナイケメンが最初に放った言葉が先ほどの謝罪でした。
「ナイケメンの所為じゃないよ。あのおかしな
パーティーの
しゃがみ込みナイケメンを見る彼女の視線には、彼を心配する気持ちが溢れていました。それは仲間だからという感情より何か別の思いが宿っていました。
傾げられたその顔から、桃色の髪が重力に従いサラサラと流れています。
滑落の最中に彼女が風で膜を作ってくれなければ、事態はもっと酷い事になっていたでしょう。
彼女が身に纏う冷却の
その風に当たりながらナイケメンは困ったように笑いました。
「そうだな、リーダーの所為とは言えないな」
斥候のウダロ・ラチガ・オマエキャは朗らかな声でアルヒンに同意しました。
アルヒンの気持ちに気が付いている彼は、事ある毎に中を進展させようとする困った人です。
短めの黒い短髪に、頭に猫の耳がある
黒い軽装の革鎧を身に着けています。
「まあ何にせよ。生きてたんだから、運があったってことさ」
ニヒルな笑みを浮かべているのは狩人のサンジオ・ダノタです。
周りよりも年嵩の男性で耳が長く伸びています。彼もまた
ちなみにサンジオはパーティー内の色恋は、流れに任せるよ派です。
「ああ、皆ありがとう」
ナイケメンはパーティーメンバーの暖かさに心打たれました。あの
そして何としても全員で生きて戻ると決心を固めます。
「みんな、いつアイツが来るか分からない。移動しよう」
そう言いナイケメンは立ち上がろうとしました。ですが猛烈な痛みに立ち上がる事が出来ませんでした。どうやら落ちた時に右の足を痛めてしまったようです。重装の鎧を着ていては歩くこともままなりません。
「参ったな。誰かヒールポーションはあるかい?」
ナイケメンは周りのメンバーに聞きました。彼の持っていたポーションは度重なる
「すまんな、俺のは上層で渡したのが最後だ」
ウダロが本当に申し訳なさそうに言いました。
「ごめん。私のは落ちた時に壊れちゃった」
「すまねえ、俺のもだ」
暫く自分のバッグを調べていたアルヒンとサンジオが言います。二人のポーションは滑落の間に壊れてしまっていました。マジックバッグが如何に衝撃を吸収して中身を守ると言っても、此処までの滑落の衝撃は吸収しきれなかったようです。マジックバッグの中はポーションの中身で水浸しです。
「飲めは……しないよな」
「おすすめは、しないねぇ」
ナイケメンの呟きを聞きつけたサンジオが答えます。
マジックバッグの中で粉々になった瓶のかけらを、万が一飲み込みでもすれば一大事です。それに色々な種類のポーションが混ざっています。それらが混ざった時に、どんな効果になるのか分かりません。
サンジオも複数のポーションを混ぜて飲むのは、危険だと知っていました。
「じゃあとりあえず、何とかこのまま動くしかないか」
ナイケメンは苦笑いを浮かべて立ち上がろうとします。凄まじい激痛が体を襲っているのでしょう。大量の脂汗を顔から噴き出させていました。
「無理するなって。肩位貸すぜ?」
そんなナイケメンをサンジオが見かねて肩を貸します。続けてウダロに向けて言いました。
「すまんが、ウダロ周囲の警戒は頼んだ」
「ああ、任せてくれ」
元々、周囲の警戒も斥候のウダロの役目です。仲間が負傷しているのですから、その分のフォローはウダロもやって見せるつもりでした。
周囲を警戒して先を進むウダロ。その後ろをナイケメンに肩を貸したサンジオが追います。
ナイケメンとサンジオの背中をアルヒンは熱い目で見つめていました。
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