第9話 歪む日常
学校で、ある話題が持ちきりになっていた。
それは最近、この街で行方不明者が続出しているということ。おそらく色欲の神、もしくは正義の神の仕業のことだろう。
放課後になった。本来であれば、生徒会役員として生徒会に顔を出さなればならないが、それよりもホロンが気になるため、俺は生徒会をサボろうとしていた。
教室を出て、そのまま昇降口へ向かおうとする。が、廊下に見知った顔がいた。
鳳蝶だ。
「一緒に生徒会行こ」
「あ~、、、ごめん。今日サボらせてくれ」
「え? なんで?」
なぜだろう? 依然までは鳳蝶と話していると胸が高鳴っていたが、今はそれが微塵も感じられない。
「ちょっと野暮用があるから――じゃ」
まさか異世界から来たホロンのことが気になるから、なんて言っても信じてもらえないだろう。申し訳ないと思いつつ、その場を退散しようとする。
「明日は?」
「う~ん、状況によるかな……」
とりあえず曖昧な返答をしてお茶を濁す。
「ねぇ、みんなにも転校のこと言おうと思うんだ。そこについていてほしいの、お願いしてもいい?」
鳳蝶は不安そうにこちらを見つめてきた。
みんな、というのは生徒会の面々のことだろう。
そうか、俺以外には伝えていないのか。
「いいよ、今度お別れ会やろうぜ」
「うんありがと」
そう言って、今度こそ俺は帰ろうとした。そのときふと鳳蝶はなにかを思い出したように、言った――。
「そういえば今日、佐藤先生、無断欠勤したって聞いたけど、なにか知ってる?」
その言葉に、俺は目を丸くするのだった。
◇
「く――くーちゃん、急にどうしたの? 生徒会は?」
俺は妃を連れて、家へと向かっていた。
「父さんが今日学校に来てない」
「え――?」
俺と同様、妃も驚いた様子だった。そう、父さんは真面目な人間だ。無断で休むなんてする人じゃない。
「さっき、ばあちゃんに連絡したら、父さんは来てないって言ってた」
「それって………」
「もしかしたら、だ。今日、噂を聞いただろ? 行方不明者が続出してるって」
「うん、私のクラスの子も一人、行方がわからないって言ってた」
もうそんなとこまで……。悠長にしている場合ではなかった。これは侵略だ、異世界による。
シエラとユニコーンに相談すべきだろう。そのために俺たちは急いで家に戻るのだった。
◇
家の前まで着くと、そこにはシエラが佇んでいた。
「待っていたぞ、その様子だと事態に気づいたようだな」
「ああ」
俺はシエラを家の中に招き入れ、事の経緯を説明するのだった。
「なるほど、お前の父親にまで被害が及んでいたのか」
「父さんを助けたい、どうすればいい?」
「お前の父親が生きているという保証はどこにもない。今も生ける屍としてどこかを彷徨っている可能性のほうがよっぽど高い」
「けど………!」
「ごめん、私のせいだ」
そのとき、俺とシエラの間に、ホロンが入ってきた。
「岐の身内を狙うなんて偶然とは思えない。もしかしたら私を狙ってのことかも」
「もしそうなら、なんらかのメッセージを送ってくるはずだ。しかし今回はそれがない。相手の狙いがわからない以上、誰の責任という話に発展させるのは無意味だろう」
「そもそもこんなことをするやつ悪い。ホロンが責任を感じることじゃない」
一旦、昂ぶっていた気持ちを落ち着けようとする。が、だめだ。父さんが死んでいるという可能性に、どうしても怒りを抑えられない。
そして、自分にも腹が立つ。父さんが無事でいてくれることをただ祈ることしかできない、こんな無力な自分に。
「黒幕は十中八九、正義の神、ゼシルだろう」
「色欲の神じゃないの?」
ホロンがそんな質問をした。
なぜ正義の神と断定したのか、そもそもなぜ人の肉体を自由にいじれる神が二柱もいるのか、それは前から疑問だった。
「色欲の神は人間の肉体を自由自在、変幻自在に操ることができる。ほかにも自分に従う強大な肉人形を生み出すこともできる。そして、正義の神は全ての神の権能を、一時的に管理することができる」
「なんか正義だけチート臭いな」
妃の所感に、確かにと頷く。
嫉妬の神ホロンは、魂に何らかの操作を行う権能。
忠義の神シエラは、自らを誓約で縛って強化する権能。
そして、正義の神ゼシルは、全ての神の権能を一時管理できる権能。
正義の神だけ明らかに異質。
「といっても、管理できるのは権能の一部だけ。本来のものとは数段見劣りする。そしてこれが正義の神だと断定した理由でもある。あの能力は生者に使ってこそ本領を発揮する。しかしこの凶変で死者しか使役していないのを見ると、能力の使い道が限定されていると考えるのが妥当。つまり――正義の神が黒幕だ」
シエラはそう結論づけた。
「それは……わかった。シエラ、俺はこれからどうすればいい?」
そう――ここでじっと待ってばかりなのは嫌だ。
「いや、お前はなにもしなくていい。ホロンが飲み込んだ魂を解放することだけに専念しろ」
「俺だって戦える! この前あのゾンビをこれで葬ることができたんだ‼」
魔法の否定ができる右手を、シエラの前に掲げた。
「約束を先に守るのが道理だろう。代わりに私がお前の父親を捜索する。ここでじっとしていろ」
そう言って、シエラは背を向け、部屋から出ていこうとした。俺はただ歯噛みすることしかできなかった。
だが、そのとき――
「わしとあんちゃんが捜索すればええんちゃう?」
と、ユニコーンがシエラに対して掛け合ってくれた。
「あんちゃんが、ホロンちゃんが飲んだ魂を解放するには魔法の否定をある程度制御できるようにならなあかん。でも、このままじゃあんちゃんいつまで経っても成長せんわ」
「つまり?」
結論を
「習うより慣れろ、や。実戦で魔法の否定を上達させる。ゼシルの捜索もできて一石二鳥やろ」
「危険すぎないか?」
「覚悟はもう出来てる、死ぬ覚悟はあのとき済ませただろ」
シエラとの誓いで、すでに命を落とす決心はついている。
「………わかった、ユニコーンはクナトに付いていけ。お前の教えのほうがクナトにとっても価値があるだろう。私はホロンと妃を守る。ゼシルがホロンに仕掛ける可能性もまだ捨てきれない」
「了解、そんじゃ行くで、あんちゃん」
「ああ」
そうして、俺とユニコーンで、父さんの捜索に向かうのだった。
◇
「さっきの、助かったわ」
「そういうのには意外と敏感やねんで」
街中を歩きながら、ショルダーバッグの中にいるユニコーンと話す。
「考えるよりも動いてないと駄目なタイプやろ? わかりやすかったで。じっと耐えるのは苦手か?」
「苦手だな。本当はシエラに任せるのが一番いいっていうのはわかる。だからこれは俺のわがままだよ」
「そんくらいでちょうどええわ」
「それで、どうやって探せばいいんだ?」
ユニコーンに指示を仰ぐ。
「魔力の気配は感知できる。怪しいとこウロウロしてくれ」
「怪しいところ、か。人気のないところでいうと心当たりがある」
俺は、駆け足でその場に向かうのだった。
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