【感想】生成AIと創作について——『データのバロック』と『通信記録保管所』
TERRADA ART COMPLEX に行ってきた。天王洲にある、複数のアートギャラリーが集まった施設である。お目当ては ANOMALY でやっていた大木裕之の個展『アブストラクト権化』で、そちらも良かったのだが、ここでは、Takuro Someya Contemporary Art でやっていた村山悟郎の個展『データのバロック』について書く。
展示されていた主な作品は《Data Baroque–機械学習のための千のドローイング-》。タイトルの通り、生成AIに食わせるためのデータとして描かれたドローイング群である。一般に、生成AIの性能を上げるためには、入力されるデータの量が重要だと言われる。「千」というのは、そういう背景のもとに設定された数字である。
作家曰く、普段の制作とは、まず枚数の規模が違う。当然描き方も変わってくる。無数のドローイングが連続して描かれる中で、そこに現れるパターンは変化していき、質の異なるいくつかの「相」を経る。二次元的だったところに奥行きが生まれたり、ふと目にした鳥のイメージが流れ込んで羽のようなパターンが生まれ反復されたり、画面構成が水平から垂直に変わったり、スマートフォンのカメラに文字として誤認されるようになったりする。
今後、生成AI が存在感を増していくと、人間の仕事は生成AIに食わせるためのデータづくりになるのでは、という言説は、そう珍しくない。ただ、そこからもう一歩踏み込んで、仮にそうなったとしても、そこにはまた、そこにこそ現れる新たな興味深いパターンがあるだろう、と肯定的に捉えてみせ、さらにその可能性を実践として見せているのがおもしろかった。
これをカクヨムに書こうと思ったのは、円城塔がえんしろの名義で連載していた『通信記録保管所』のことを思い出したからだ。「2000字級を2日に1篇」というペースで掌編を投稿しようと思い立った動機について、氏は近況ノートにこう書いている。「機械学習に食わせる用のデータをつくろうとした、というのが本当だ」。
円城も、村山と同じように、「機械学習に食わせる」という目的のもとでこそのパターンの現れや変化を経験したのだろうか。そんなことを考えつつ、展示を見た。
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