第28話 同じクラス

 学校に着いた。

 愛澄は既に教室もクラスも昨日の入学式で分かっていて、今日になって校舎の外壁にクラス表が貼り出される藍斗達と別れて教室を目指していった。


「ごめんね、氷雨。愛澄が失礼な態度ばっかり」

「私は気にしてない。むしろ、歳が近い女の子と久し振りに沢山話せて楽しかった」

「氷雨は大人だなあ」

「先輩だから。えっへん」


 両手を腰に当てて胸を張る氷雨は随分と幼く見えるがせっかく気分がよくなったであろう氷雨に藍斗はわざわざ訂正する気も起こらなかった。

 そのままクラス表が貼られている場所まで氷雨と向かう。少しして、生徒達が壁に視線を向けながら集まっている場所が出てきた。

 藍斗も氷雨と空いたタイミングを見計らってクラス表を見に行く。


 一組から順番に自分の名前がないか探すもなかなか見つからない。氷雨も同じようだ。その方が藍斗は有り難かった。氷雨が先に声を出せばた行である藍斗とはクラスが違うことになるから。

 氷雨と同じクラスがいい、と静かに願掛けしながら探していくこと四組。ついに自分の名前を発見した。


「あった。俺は四組だって。氷雨は?」

「分からない」

「なんで?」

「藍斗の名前を探してた」

「本当になんで?」

「藍斗と同じクラスがいいから何組か知りたくて」


 真っ向からそう言われて藍斗は頬が熱くなるのを感じる。

 氷雨も同じ気持ちでいてくれたことが嬉しい。

 ただ、こうも素直に伝えられるとどうしても照れ臭くなってしまう。前髪をいじって気分を落ち着かせた。


「一緒に探そうか」

「うん」

「と言っても、一組から三組までに氷雨の名前はなかったよ」

「どうして分かる?」

「俺も氷雨の名前探してたから」

「どうして?」

「一緒のクラスがいいからだけど」

「むふ。むふふ」

「え、なになに」


 どういう訳か氷雨から軽い体当たりを何度も受けて藍斗は困惑した。氷雨は唇に弧を描きながら体当たりを続けてくる。


「こんなことする前に探そうよ……あ、あった」


 ぶつかられて視界があちこちに移動する中、視線を自分の名前からずらしていけば数人下に氷雨の名前があるのを捉えた。

 やった、と思わず出そうになった言葉を藍斗は飲み込んで心の中で喜ぶ。流石に、氷雨の前で氷雨と同じクラスと知って大袈裟に喜ぶのはなんだか恥ずかしかった。


「藍斗と同じ?」

「うん。ていうか、自分でも確認しようよ」

「いい。藍斗が嘘をつくとは思わないから。それよりも、同じクラスなの嬉しい。凄く」


 ぴょんぴょんとその場で氷雨が跳び始めた。嬉しくなった時にする氷雨の喜びを表現する癖みたいなものだ。

 この行動をするということは同じクラスであることがそれほど氷雨にとって喜ばしいということ。藍斗は胸の中がきゅーっとなった。きゅーの部分を詳しく説明出来るほど藍斗はこの現象に遭遇したことはなく、どういうものなのかは分からない。


 いつまでも微笑ましい氷雨を見ていたい気持ちもあるがここで氷雨がぴょんぴょんし続けていても他の生徒の邪魔になる。


「教室行く?」

「行く」


 切り替えも早く、氷雨は地に足をつけて頷いた。

 という訳で、靴を履き替えて教室へと向かう。一年生の時は、教室は一緒じゃなかったため、なんだか新鮮に感じる。


「二年生になって、階段も一つ楽になった」

「氷雨も四階まで登るのはしんどいと思ってた?」

「朝から苦行。学校にはエレベーターを導入してほしい。それか、エスカレーター」

「そんなに裕福な高校はそうないんじゃないかな」

「厳しい世の中。四階まで登って消費するエネルギーを考えてほしい。おにぎり一個分はある」


 どういう理屈で言っているのかはいまいちだが、美味しく食べた朝ご飯がすぐに胃の中から消化されて悲しい、ということだろうか。

 そんなことを話していると教室に着いた。

 中に入ると黒板に座席表が貼られている。

 自分の席はどこだろうかと確認すると名前順のために真ん中の一番後ろに土雷藍斗という名前を発見した。前よりは後ろの方が好きな藍斗はまあまあいい席だと喜ぶ。

 両隣は誰だろう、と見てみれば右隣に氷雨の名前が書かれてあった。


「藍斗の隣」

「俺は氷雨の隣だね」

「ということは、授業中に内緒話出来る?」

「出来るね。でも、ほどほどにしておこう」

「分かった。毎日、何を話すか考えてくる」

「ほんとに分かったの?」

「授業中専門トーク内容……何にしよう」

「あ、聞いてない」


 早弁常習犯という氷雨からは直接聞いてない情報を知っている藍斗からすれば、休み時間になればいくらでも相手になるから、せめて授業中くらいは集中してほしい気持ちがある。腕を組んで唸っている氷雨に言ったところで無駄に終わりそうであるが。

 諦めていたところで後ろから声を掛けられた。


「おはよう、藍斗くん。氷堂さん」


 太一だ。どうやら、太一とも同じクラスだったらしい。


「おはよう。今年もよろしくな」

「うん、こちらこそだよ。藍斗くんが同じクラスでよかった」

「俺も」


 藍斗にとって数少ない友人である太一と同じというのは大きい。休み時間にアニメやゲームの話が出来るのと出来ないのとでは休み時間の価値が変わってくるからだ。


「氷堂さんもよろしく」

「うむ」

「どういう立場なの?」


 偉そうに頷いた氷雨に太一がツッコミを入れる。

 今年は一年よりも楽しく過ごせそうだ。

 二人を見ながら藍斗はワクワクした。

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