第2話

 それなのに今日、突然だった。


 仕事を終えて、帰ろうかと車に乗った時。


 シートベルトを締め、バックミラーの位置を確認し、メールやら電話やらが入っていないかプライベート用の端末をチェックし、夕方買った紙コップのコーヒーで唇を濡らし、カーナビを起動し、アップテンポな音楽を小音量で鳴らし、車のギアをドライブに入れた。


 その瞬間だった。

 頭の中に言葉が溢れた。


 あ、書きたい。


 気が付いたら僕の中には、庭の日陰に生えている謎キノコみたいに言葉が湧いていて、今それを発見してしまった。


 一番最初に僕は、何で今なんだよ、と毒づいた。


 だって、こんなにとめどない。今すぐに、と急かされている。


 衝動が大渋滞して、視界すら掻き回している。ミキサーの内部に放り込まれたみたいに。もう自分が何を何に例えたいのか分からない。


 と、同時に、なんか知らんけどお帰り、と苦笑いしたくなった。


 僕は自分の状態を顧みた。当然、今書くわけにはいかない。


 筆記用具は鞄に入っているが、書き記す媒体がスケジュール帳くらいしかない。


 外は日暮れに相応しい暗さだし、職場の駐車場で猛烈な勢いで何か書いている男を誰かに目撃されたら困る。絶対不審者だ。


 取り敢えず車を出す事にして、気が逸るのとは真逆の慎重さで車を車道まで動かした。





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