第61話

 秋子は病床で姉と再会できた。

「雪ちゃん、生きていたのね」

「こっちの台詞よ。なんであんなことしたの」

「そんな言い方ないんじゃないかしら。自分でも奇跡的な生還だと思うけど」

「貴方はあんまり覚えてないの?」

「覚えてないわ、全然」

「あんまり聞かないほうがいいわ。すこしショックかもしれないもの」

「何絡みのショック?」

「恋人絡みよ」

「……夏ちゃんが?」

「いいえ、死んではないわ」

「ああ、そうなの。よかった」

「……心中しようとした人とは思えない言葉ね」

「別にわたしは死にたかったわけではないわ」

「じゃあどうして」

「わたしが死ねば雪ちゃんは生きるもの」

「……」

「ねえ、そうでしょう? 雪ちゃんはそういう人よ。わたし誰よりも知っているもの。雪ちゃんはわたしが死んだら死ねなくなるわ。真面目ですもんね、人のために犠牲になることはいいのに、自分のために犠牲になるのは嫌なんですもの。わたしが犠牲になったりしたら猶更」

「私は貴方のことが嫌いに見えるようい振る舞ったのに」

「実際、すこし嫌いだったでしょう?」

「……ええ。嫉妬ばかりね。いま考えると。嫉妬ばっかりで、誰かの愛を素直に受け取れない体質なの」

「でもわたしは雪ちゃんのことが好きよ。それだけは信じてくれる? わたしは雪ちゃんが何よりも好き。雪ちゃんもそうでしょう。最近のは、とにかく何でも嫌いになりたい時だったってだけの話。でも演技が下手よ、雪ちゃんは」

「……貴方は、」

「ねえ、やめてその貴方って呼び方」

「アキは、いつから私を好きなの」

「姉妹よ、変な質問」

「じゃあ姉妹じゃなければ私のことは好きじゃなかった?」

「わからないわ。姉妹じゃなければわたしはわたしでなかったろうし。……ねえ、理由なんてやめにしましょう。くだらないわ。理由が言える愛なんてきっと大したことないのよ」

「……」

「ねえ、仲直りしましょう」

「いまさらできるかしら」

「一緒にピアノを弾いたらすぐよ。……そういえば、ご褒美の連弾もまだだったわ」

「ならまた練習しないと」

「ねえ!」


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