第6話「お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
「誰かに見られてる...」
緋美華が学校に行っている間に、彼女の部屋のベッドで体を丸めて布団を被っていた水無が、何者かの視線を感じて飛び起きる。
「嫌な予感がする...」
一応は金城家のメイドがボディーガードとして見張ってくれているが、この視線はそんな事務的なものではない。
冷たくない眼差しだからこそ、ゾクリとする。
「少し降りてみようかな」
ベッドから出て、パジャマ姿のまま靴下も履かずにスリッパを履いて、恐る恐る水無が一階へと降りてみると...
「やあ、お姉ちゃん元気〜っ???」
.,.玄関に、糸のようなものでグルグル縛り上げられたボディーガードメイドと、水色サイドテールの赤ロリふぐを着た、何処となく水無と似た容姿の少女がいた。
彼女は津神 無苦。水無の妹である。
「あ...どうやって」
「私は縛りプレイ最強だってこと、忘れてないよね、お、ね、え、ち、ゃ、ん!」
「っ!」
無苦は目にも止まらぬ早業で、白い糸によって、実の姉をメイド同様...いや、彼女よりもキツく縛りあげてしまった。
これも愛ゆえに。
「まずい...」
「わたし的にはおいしいよ〜」
無苦はリビングのソファーに縛り上げた水無を横たわらせ、その腹部の上に跨り、自らの上半身を倒して艷やかな頬をペロペロと舐める。
「最悪最低」
心底不愉快そうな水無の顔は、無苦にとってはかなり煽情的で、より興奮を助長させてくれる。
「それじゃあそろそろ、倫理的に問題ある行為に及ばせてもらおうかな」
色々と我慢できなくなった無苦は、服を脱ごうとしている!
「まずい...」
そのとき!!ドアが強く開くような音がした!!
「せっかく良いとこなのに、邪魔するなんて!」
リビングに入って来たのは、今朝学校に行ったはずの緋美華だった。
「それはごめんね、でも、許すわけにはいかないんだよ、嫌がってる子を無理やりなんて、姉妹同士だとしても!!」
「しゃらくさいなー!」
無苦は重たい袖を動かし、糸を緋美華に伸ばす。彼女も縛りあげてしまうつもりなのだ。
しかし緋美華は一味違う。
迫りくる高速の糸をサイドステップで躱しながら、無苦に接近すると、その頭にコツん。軽いゲンコツを食らわせた。
「うわああああん、自分の頭が悪いからって私の頭までも悪くしようとするな〜!」
無苦は酷い暴言を吐き捨てながら、春野宅から逃げ去っていった。
「な、なか、ないもんねー!」
ホントに泣きません。緋美華ちゃんはメンタルがメチャクチャ強いので。
「...学校早退したの?」
「うん、なんか水無ちゃんがピンチな気がしたから、居ても立っても居られなくなっちゃってさ!」
水無を縛りあげている糸を力任せに引き千切りながら、緋美華はそんな台詞を恥ずかしげもなく平然と言ってのける。
「やっぱり、無苦の言う通り貴女は馬鹿だよ」
「そんなあーっ!!」
メイドの方の糸を引き千切りながらショックを受ける緋美華。なかなかに器用なものである。
「だから気に入った」
「ひゃっ!」
水無は背伸びをして、緋美華に飛び掛かり、その首に腕を回した。
「そうよ、緋美華のバカ...!私というものがありながら浮気するなんて最低!ばかばか、ばーか!!」
お姫様抱っこ中の二人の背後に、風見ひよりが立って、怒りを露わにしていた。
「もはや隠そうともしないな」
「...すう」
「あ。寝てる」
なんと緋美華は、立ったままどころか、水無をお姫様抱っこした状態で花提灯をつくっていた。
「...ちょっと勇気出して、デレ成分多めなこと言ったのに!!」
「風見 ひより...恋敵ながら不憫なやつだ」
両膝と両腕の掌をカーペットにくっつける体勢で落ち込む、ひよりの頭を、水無は緋美華の腕の中から見下ろす。
この状況に優越感を覚え、癖になりそうだと感じる水無の将来が今から心配になってくる。
「私は先生たちが多めに見てくれんのよ、勉強できるから」
「私はかなり運動ができますよー!でも多めにはみてくれません、毎回赤点だし、授業中はいっつも寝ているから」
「完璧に自業自得ね、今回も根拠のない理由で早退しちゃうし」
彼女らは水無に学校早退して後々大丈夫かと問われたから答えているが、ひよりはともかく、緋美華はあまり大丈夫ではなさそうだった。
「でも結果的に水無ちゃんを助けられたんだから、セーフじゃん!」
「虫の知らせって言葉もあるくらいだし、ま、それだと言う事で納得しとくわ」
「ほっ...」
「勉強会開催ね??」
「勘弁してくだしゃい...」
緋美華はしゅんと、肩を落としてしまった。
頭の悪い彼女でも、赤点回避できるようになるくらい、ひよりの勉強の教え方は上手いけれど、その分かなり長時間かつスパルタなものとなるのだ。
「ふたりで、お互いの弱点を補っている...」
この幼馴染同士は、かなり相性が良く、そのぶん、風見 ひよりは強敵だと水無は理解した。
負けてられない、もっと攻めなきゃ。
「私も勉強教える」
「えっ...水無ちゃんが!?」
「あんた何歳だっけ」
「十歳」
「小学生でしょ、緋美華は高二よ?それは流石に馬鹿にし過ぎじゃないかしら...」
ひよりは嫉妬心から意地悪に、という訳でもなく、素でドン引きしている様子。
このままでは、緋美華の好感度まで下がってしまう。
「...わたし頭は良いよ。たぶん今の年齢でもあなたに負けないくらい」
ではどうするか?真実を伝える。この場にいる頭の良い人物を指さしながらだとベスト。
嘘。人に指をさすのは失礼である。
「な...なんですって...!」
小学生、それも愛する幼馴染を狙う者から挑戦状を叩きつけられた、ひよりの瞳の奥に、メラメラと闘志の炎が燃え上がるのだった。
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