第4話「猫を拾いました」
この付近で目立つ場所を検索してみると、どうやら鍾乳洞があるらしく、緋美華とひよりは、そこを目指して歩いていくが...。
「なんか細いわね」
「これでも最近、たくさん食べ過ぎちゃったんだけどね」
「あんたの体じゃないわよ、道!」
「言われてみれば」
鍾乳洞までの道のりは、なかなか険しいものであった。先ずひよりが言及した通り、道幅は子猫一匹くらいしかないし、なんだか自棄に小枝やゴツゴツした石が転がっていて歩きにくい。
そんな道のすぐ隣は崖で、一歩間違えば奈落の底へと真っ逆さまである。
「や...やっと抜けた」
危険を乗り越えて鍾乳洞前に辿り着くなり、ひよりはペタンと座り込んでしまう。その息は荒い。
「おつかれさまっ、ちょっと休む??」
「良いわよ別に!早くしないと日が暮れちゃうものね」
「いいや!無理してるよね、だったら、こうだ!」
「ひゃっ!?」
緋美華は強引に、ひよりを自分の背中に乗せてやった。女の子と女の子、幼馴染同士の体が密着した瞬間だっ!!
「アンタだって疲れてるんじゃないの?」
「んー?私は一日五百キロ歩いても大丈夫なスーパーガールですよ、エルトゥールル号に乗ったつもりで安心してね!」
「それ遭難した船」
このバカにしてはよく知ってたなあと感心しつつ、ひよりの中で不安が肥大化する。
「うわあ、なかなか雰囲気あるね〜」
「そうね...なかなか神秘的だわ」
自然が生み出した壮大な芸術がライトアップされ、蒼や紫、緑色で染められた鍾乳洞の中は美しかった。
こんな景色が見れたんだから、危険な目に遭い、料金を払う時におんぶされている状態を見て噴き出された甲斐はあったなと、ひよりは納得した様子である。
そんな鍾乳洞の中を、懐中電灯を手に進んでいくと...
「え」
なんと何の前触れもなく急に緋美華の足元が崩落、幼馴染コンビは真っ暗闇の中へ吸い込まれていった。
「あいたたたた、こんなアクシデントって、ありなんですかー!!」
数メートルは落下したと思われるが、緋美華が両脚でしっかり着地したお陰で、彼女自身も、背負われていたひよりも、無事だった。
「もうダメぽいわね、脱出は不可能よ」
見上げてみても、二人の頭上には、ただひたすら真っ暗闇の空が広がっており、懐中電灯の光すら吸い込まれるのみ。
「諦めちゃ駄目だよ」
「うん。諦めたら、死ぬだけ」
「そうそう!...あれ?」
緋美華の前向きさに同意する言葉は、彼女のものでも、ひよりのものでもない。
「うわあ!誰よアンタは!?」
謎の声がした方から、ひよりが懐中電灯を向けると、第三者の姿を光が照らした。
「まぶしい...」
声の主は、青髪でツインテールの、ゴスロリ服を纏った、齢十歳ほどの小さな女の子だった。
「わっ、かわいい!」
「よく言われる...人形とか猫みたいにかわいいって」
「迷子かしらね?」
ひよりは緋美華の背中から降りると、幼女の顔をまじまじと見る。
「いや、隠れてる...」
「隠れてるって、まさか虐待されてたりするの?」
そう尋ねる緋美華の表情は、なんだか凄く悲しそうで、幼女は何故そんな顔をするのだと不思議そうに首を傾げる。
「愛されて困ってる」
「ある意味虐待かも」
「妹が私を縛ろうとしてくるの...あと姉は胡散臭い宗教の教祖になって信者の女性食べまくってるし、最悪」
「まだ小さいのに大変な経験をしたんだね、よしよし」
緋美華は姿勢を低くし、幼女の頭を撫で始めた。
「あんたは通報されないタイプだから得よね」
「ひよりだって大丈夫だよ、通報されるようなことしないでしょっ」
「寧ろ警察や児相等に通報されると困る」
「そんなに家族と会いたくないのかぁ」
こくこく、幼女は無言で頷く。
「暫く貴方の家で匿ってもらえると助かる」
「わかった!ここであったが百年目だもんね!!」
「何かの縁ね...って軽い気持ちで承諾すな!」
「なんで!」
「未成年略取ってのがあんのよ、本人と同意の上でも保護者が認めなきゃ私達は犯罪者よ!!」
「じゃあ母親に同意得る」
「え?」
幼女は携帯電話を取り出し、通話を始めた、その三十秒後ーーー
「いいって」
「......どこからツッコめば良いのよ!」
「まあまあ、周りに人が増えるのは嬉しいことじゃん、より沢山の知識や経験を得るチャンスってわけで」
「それは正論だけども...」
「私は津神 水無。《つがみ みな》よろしく」
「水無ちゃんかあ、私は緋美華、こちらがひより、よろしくね!」
「うん」
こうして今日から、緋美華の自宅で、可愛らしい居候が暮らすようになりました!
などと言えるのは、彼女達が鍾乳洞の落とし穴を無事に脱出してからです。
「さてと、どう脱出するべきかしら...うん、救助隊をスマホで呼びましょう☆」
「さっすが優等生、学年トップ!」
「盲点だった」
「嘘でしょ、さっき携帯で親に連絡していたのに...!?私の周りに馬鹿が一人増えたわけね...」
三十分後のこと、彼女たちは無事に救助隊に助け出されて、迎えに来た両親に連れて帰られたのだが。
「うう...馬鹿が一人...馬鹿が二人...」
ひよりだけ完全に無事とは言い難く、この日から暫く珍妙な悪夢に魘される羽目になった。
せっかく楽しみにしていた愛する幼馴染とのデートの時間が潰された挙げ句に、この仕打ち。
運命を憎まずにはいられない、可哀想な風見 ひよりであった。
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