第3話「ヤバい奴らは身近に潜んでる」

「正直めんどくさかったわね、知らない人と話すのは、疲れるったら無いわ」

  

  事情聴取を終えて、警察署から溜め息を吐きながら出てきた風見 ひよりは、明らかにやつれていた。


「私はお巡りさんと連絡先交換しちゃったー!」

「...この国はおしまいかもしれないわね」


  ご機嫌な幼馴染の傍らで、ひよりが頭を抱えていると、見慣れた顔の二人組が此方に向かって歩いてくる。


「げっ」

「あれ、幼馴染コンビじゃん、今日デートじゃなかった?君たちもなんかやらかしたわけ?」


  口元に手をあててニヤニヤしながら、二本のアホ毛が生えた、片目だけ隠れる様な髪型の女の子・石堀 羽砂美が、緋美華たちに絡んでくる。


彼女は緋美華とひよりのクラスメイトで、自由奔放な学園の問題児である。


「え〜!羽砂美ちゃん、警察にお世話になるような事したの?!」

「そりゃあもう前科コンプリート目指してるからね、毎日のように警察にお世話になってるよ」

「え〜!」


   純粋無垢な反応をする緋美華に対して、羽砂美はドヤ顔で胸をたたいて見せる。


「あんたが言うと、不思議と冗談に聞こえなくて怖いわ」

「ひよりちゃん今の侮辱罪☆」

「イラッ」

   

   ひよりは羽砂美の頬をグリグリして、軽い制裁を加えた。


「わっ、ひよりちゃん、人の彼女に何してんの」

   

   二本のソフトクリームを手に、黒髪の女の子が慌てて駆け寄ってきた。


「そういう三尋木みひろぎさんこそ、石堀さんとはデート中なのに、またパシられたわね」

「ま、まあ、彼女だから...」

「じゃあ追加のお仕置き」

「ふぎゃっ」

 

   悪い女たらし羽砂美の脳天に、今度は手刀が振り下ろされた。


「こ...こいつ警察署の前で平然と暴行罪を...できる!」

「力入れてやってないでしょうが」

「いやいや容赦はしない方が良いよ、最近じゃ可愛い女の子が次々と行方不明になってるんだから…!」

「えっ、そんな噂、わたし聞いたことないよ?」

「緋美華ちゃんは光に満ちている方のインターネットしか知らないでしょ、ま、私達みたいにネットの闇を知る者は限られているからね」

「わー!ひよりと羽砂美ちゃんは、やっぱり物知りなんだね、すご〜い!!」


   緋美華はキラキラと目を輝かせ、ひよりと羽砂美に、尊敬の眼差しを送る。


「いや、私だって知らないんだけど...」

「可哀想なひよりちゃん、最近は勉強ばかりでSNSに集中できてないなんて!」

「逆じゃないかしら?!勉強に集中できてるなら、学生としては良いでしょ...」

「いいや、学生は勉強よりサボってゲーセン行ったりバイトテロで炎上して人生詰むのが醍醐味だから!」

「破滅願望が過ぎる...」


   またも溜め息を吐きながら、ひよりがふと腕時計を見てみると、時計の針は午後二時をさしていた。


「それより、さっさと詳しく話しなさい、パフェくらいなら奢るから」

「ありがとう風見さん」

「ありがとうひより!」

「...」


   こうして羽砂美に加え便乗してきた二人の分まで奢る羽目になった、ひよりの財布の中身は寂しくなってしまうのでした。




「人身売買組織?」


   ファミレスで女学生が話題にするには物騒極まりない単語が、羽砂美の口から飛び出した事で、ひよりは抹茶パフェをすくっていたスプーンを思わず机の上に置いた。


「その名は青い鳥X」

「名前だっさ!!!!なにその更新したら逆に不便になりそうなの!」

「まず人払いをしといて、目をつけた可愛い子ちゃんを〜電車に誘い込んで、目的の駅まで連れて行って〜拉致って〜可愛い子ちゃん好きなお姉さん方に売り飛ばしちゃうんだって!!」

「変な名前に騙されそうだけど、やってる人身売買組織だけある事はしてるわね」

「ひどいっ、許せないよっ!」

「死刑で良いよね〜」

  

   話を聞きながらも、ずっとパフェを食べるのに集中していた、緋美華と信歩もこれには流石にブーイング。


「てか!さっき私達がやられた手法と同じじゃない?」

「そうよ、危うく二人セットで売り飛ばされるところだったってわけね」

「私たち急須に一生を得たんだね」

「九死に一生ね、急須に得るには人生は重すぎるから!」


   取り敢えず羽砂美から興味深い話を聞く事が出来たので目的を果たしたひよりは、他三人とファミレスを出る。


「ごちそう様でした、それじゃそろそろ二人きりに、なりたいから」

「甘えん坊だなあ、信歩はさあ、てなわけで、ばいば〜い!」

「うん。ばいばいふたりとも、また明日〜!!」


   こうして羽砂美とその彼女は、デートを再会し、緋美華&ひよりと別れるのであった。




(私もこれで、やっとまた緋美華とふたりきりに!)

 

   不審者の集団に警察に同級生のカップルに、多種多様な存在に、幼馴染との二人きりの時間を阻害されたが、これでまたデートに戻れると喜ぶひよりだった。


「さて...どこ行こうかしら」


   予定地とはあまりに遠く離れた見慣れない場所まで来てしまったが、これは親に迎えに来て貰えば、なんとかなる。 

 

問題は遊園地の代わりになる様な、デートスポットが、この辺りにあるかどうか。


「そうだねえ、今から調べてみようよ、別にひよりが傍に居てくれたら何処でも満足出来そうだけどさ」

「また、あんたはそんな...ずるいわね」


    自分では絶対に言えなそうな台詞を平然と言えてしまう緋美華の、なんて羨ましいことかと、ひよりは思った。


「ねぇ、マップで調べたら近くに鍾乳洞があるみたいだよ!」

「あんたにしては珍しく、湿っぽい場所に興味を持ったもんね」

「私だって雰囲気くらい大切にします〜」

「雰囲気ね...」


    薄暗く狭い場所で二人きりで、雰囲気なんて言われたので、ひよりは良からぬ妄想をしてしまった。


「わわわ私のバカッ」


   頭を左右に振って邪念を吹き飛ばすひより、今日のデートは羽砂美と信歩みたいに恋人同士のデートとは違う。


かと言って友人とのデートでもなく、幼馴染とのデートである。 


「この場合は、どこまで積極的にやれば良いのよ〜」


   ひよりはグルグルと目を回してしまう、勉学とは違って、いくら考えても答えがわからない。


「ひより?反対だったりする?」

「いいえ、良い案だと思うわよ」

「やったあ!」


   子供の様に喜ぶ緋美華の姿...今はまだ、それを間近で見られるだけで十分に贅沢な事かも知れないと思う、ひよりであった。

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