第14話 何度でも

 メッテが人間になってから1年が過ぎようとしていた。変わった事は山ほどある。


 まずローデンセ王国の国旗が、船を模したものから船と人魚を模したものへと書き換えられた。


 海辺や岸辺では人魚と人間とか語らい合う様子があちこちで見られるようになったし、店もまた、人魚にも利用してもらおうと水辺へと移転したり新たに建てられた。


 人魚と言う存在が人間に受け入れられるのかどうか心配していたけれど、そんなものは杞憂に終わった。



 ローデンセ王国の王と私の父、人魚の王は盟約を交わした。


 一、人魚も人間も互いに尊敬し合い、助け合うこと。


 一、ローデンセ王国民は人魚に大地の恵を分け与えること。


 一、人魚はローデンセ王国に踏み入ろうとするいかなる敵からも守ること。



 今では2人の王はすっかり意気投合して、いつでも王宮に来れるようにと川を整備して王宮の中には巨大なプールまで建設中だ。

 ついでに王都のあちこちに水路を通そうという計画まで持ち上がっている。



すっかり様変わりした街中を歩き、ルーカスと一緒に岸辺に座る。


 遠くの海ではイルカたちが時折潮を吹いているのが見えた。

 人間になってから海の生き物達と喋ることが出来なくなってしまったのがものすごく残念だけど、後悔はしていない。


 こうして人魚達の世界が広がり、そして自分の運命を変えることが出来たのだから。


「ねえルーカス。ルーカスは『前世』って信じる?」


 ルーカスが不思議そうな顔をしてこちらを見た。


「前世……?」


「そう。私ね、前世の記憶があるの。前世の私はこの世界とは違う世界にいてね、日本という国で会社員……ええと、働いていて。仕事が休みの時に海へ遊びに行ったら溺れている男の子を見つけて、助けようとしたら死んじゃったんだ。そんな私が人魚に生まれ変わっただなんて面白いわよね」


 メッテがフフっと笑っていると、ルーカスが信じられないと言った顔でメッテを見ている。

 あれ、頭のおかしい奴って思われたかな。


「メッテ……その助けた男の子っていくつくらいの子だった?」


「んん? 多分小学校低学年くらいかなって、小学校が何か分からないか」


「もしかして、その海って○○海岸?」


「そうだけど……え、なに??」


「僕もね、船が難破してメッテに助けて貰った時に前世を思い出したんだよ。前世の僕は、夏休みに海辺にある祖父母の家へ遊びに行って、そこで波にさらわれて死んだんだよ。パニックに陥っていてほとんど覚えていないんだけど、でも、誰かが僕の事を助けてくれようとしていた様な気がするんだ」


「うそ……」


「もしもそれがメッテなら、僕は二度じゃなくて三度も貴女に助けられていた事になる。何だか頼りない男だね」


「そんなことない! 何度だって、どの世界にいたって、私が絶対ルーカスの事を助けるから!!って……一度目は失敗に終わっちゃったみたいだけどね」


 助けようとしていたあの少年も、結局死んでしまったという事なら悔しいし悲しい。その祖父母や両親もきっと、物凄く悔やんだんだろうな……。



「まっ、過ぎたことを考えてもしょーがないか!」


 クヨクヨと悩むのは美容と健康によろしくない。おかげで生まれ変わってルーカスとこうして居られるのだから結果オーライだ。


「メッテのそう言うちょっと男気なところ、大好きだよ」


 ルーカスの整って綺麗な顔が近づいてくると、優しい口付けが落とされた。

 メッテも抱きついてルーカスを見つめると、その耳元で囁く。


「私も、色んな私を好きでいてくれるルーカスの事が大好きよ」




                   おわり

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人魚姫は王子様を籠絡(おと)したい 市川 ありみ @arimi-ichikawa

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