第13話 海賊(3)
ルーカス達が無事かどうかを確認するために水面から顔を出すと、船に乗る人達が驚きの声をあげた。
「メッテちゃん?!それに、他にも人魚がいっぱいいるし」
「ええ!! もしかしてこの船沈めたの……ウソだろ?!」
騒ぎを聞きつけたのか、ルーカスも向こう側からやって来た。パッと見、怪我はしていないようだ。
「メッテさん!」
「ルーカス様!ご無事だったんですね、良かった」
「ぎゃーー助けてくれー」
「おぼっ、溺れるー!」
人かせっかく感動の再会をしているって言うのに海賊達がうるさい。メッテはトライデントを振り上げ声を大にして叫ぶ。
「だぁーれが助けてやるもんですか! この海でデカい顔しやがって。海の覇者はお前たち海賊じゃない!私たち人魚だーーーっ!!!」
「うぉぉぉ!」
「メッテちゃんカッコイイーー」
「人魚最高!」
「人魚バンザーイ」
船乗り達が「人魚バンザイ」を繰り返す中、男衆は沈んでいく海賊船からお宝を拝借しに、そしてお姉様たちはにこやかに歌う。
海の底は美しところ
怖がらないで
さあおいで下さい
海の底はいいところ
貝の屋根のお城だってあるのよ
こわがらないで
さあお越しください
可愛そうに。海の底の城へ着く頃には、全員お陀仏だ。
乗組員達がメッテを船に引き上げてくれた。するとルーカスがあろう事か、メッテに抱きついてきた。
「ルッ、ルーカス様?!」
「ああメッテさん、もう二度とあなたに会えないかと思いました。もう一度お会い出来るどころかまた命を助けてもらって、何と御礼を言ったらいいのか」
「御礼だなんて、私は自分のしたいようにしただけですから」
抱きついてくるなんて反則じゃない!せっかくこっちは気持ちを断ち切ろうとしているのに。
メッテの背中に手を回しぎゅうっとしていた腕が解かれると、今度は手の方にするりとルーカスの手が滑り落ちてきた。
ルーカスの黒く大きな瞳が、メッテの瞳を捉える。
「ねえ、メッテさん。僕は貴女の可愛い所も、クッキーを頬張るところも、正義感が強くてちょっぴり男勝りなところも、全て大好きです。僕はあなたに二度も助けられてしまうような男だけれど、それでもこれからも私とずっと一緒にいてくれませんか」
「え……」
「一度は種族の違いから貴女への気持ちを断ち切ろうとしました。でも……どうしても、メッテさん、貴女に僕の傍にいて欲しいのです」
「あ……えっと……隣の国の王女様はどうなったのでしょうか」
メッテの問いに、ルーカスは首を横に振った。
「こんな気持ちのまま他の誰かに結婚を申し込むのは失礼ですから。だから貴方に振られて気持ちに整理をつけてからと思ったのです。貴女と一緒になるためなら何でもします。城に大きなプールを作りましょうか? それともいつでも海からやって来れるように、川をもっと整備しましょうか?」
「でも、ルーカス様が良くても、人魚の王妃なんて受け入れて貰えないんじゃないかしら」
ルーカスの後ろにいる乗組員達を見ると、みんなが次々と拍手をし、中には口笛を鳴らす者もいる。
「俺たちもメッテちゃんの事好きだぞー!」
「酒癖が悪くて絡んで来るところとか、キス魔になるところとか!」
「それに王太子様の事を聞き出そうと必死だったところとか健気だしなぁ」
ええぇ!何でそれを知っているの?!と言うのが顔に出ていたようで、ルーカスが笑って答える。
「街の酒場に来ていたのがメッテさんだって事はみんな知っていたんだよ」
「酔っ払って尾びれをピチピチさせるからバレバレだったよ」
「変装しているつもりだったみたいだけど、声とか性格とか変わってないし」
「ね、大丈夫でしょう? 父上も何とか説得してみせるよ」
「おう!誰がなんと言おうと、俺たちはメッテちゃん達の味方だ!なっ?!」
「そうだそうだ!」
ルーカスが微笑んできた。
どうしよう、心臓の鼓動が激し過ぎて口から飛び出してきそう。
「改めて……メッテさん、何があっても生涯、僕は貴女を愛し抜くと誓います。だから僕のお嫁さんになってくれませんか」
「はい……喜んで」
メッテが返事を返した瞬間、ルーカスに握られていたその手から、温かい何かがメッテの方へと流れ込んできた。
すると尾びれの辺りがゾワゾワとして、奇妙な感覚に襲われる。みるみるうちにエメラルドグリーンの鱗は消え、二股に別れていく。
やだっ……魔法薬って本当だったのね!ありがとう、魔法使いのおば様!!
という感動は束の間。
すぐに現実に引き戻された。
「きゃあああ!」
服を着ていなかったーー!!
下半身すっぽんぽんのまま、大勢の前で人間になってしまうなんて!
周りのみんなが「どういう事?!」と騒いでいるが、そんな事どうでもいい。
メッテは羞恥のあまり縮こまって、その後どうやってお城まで連れていってもらったかあまり覚えていない。
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