第11話 海賊
ルーカスが隣の国へ行ってからひと月がたった。その間にヘンリック王子との婚約がまとまって、来週には婚約式が行われる予定だ。
メッテはもう海の上へ行く気にもなれず、ただ深い海の底でぼんやりとして過ごしていた。今は仰向けに寝転んで、潮の流れに身を任せて水面の方を眺めている。
そろそろルーカスが戻ってくる頃よね……。まぁ関係ないか。
あの影、もしかしてルーカスの乗る船かな。……だから、関係ないんだってば。
でもまぁ、ちょっと覗きに行ってくるくらいは良いか。だって私はもうすぐこの海を離れて、隣の海に行かなきゃなんないんだし。きっと二度と会うことは無いんだから。
メッテは水面の方へと向かって泳いで行き顔を海から出すと、4隻の船が浮かんでいるのが見えた。
いや、正確に言うと、1隻の船を3隻の船が囲んで動けなくしているようだ。真ん中にいるのは、ひと月前にメッテが見送った船。
何だかもの凄く騒がしく、よく見ると物騒な物がキラッ、キラッと太陽の光で反射している。
あれってもしかして、もしかすると海賊?!
まさか王族の乗る船を襲うなんて有り得ないわよね。
……そう言えば海賊が国ごと乗っ取ってしまったなんて話を、この間お父様がしていたような。
王太子が乗る船を襲うくらいするかもしれない。いかにも金目の物積んでそうな船だもんね。
金品を渡せば、大人しく海賊たちって引いてくれるのかな。
いや、海賊の中には中には少しずつ身体を切り刻んだり、心臓を取りだして噛み付くなんて言う頭のおかしい奴もいるって言うし、万が一ルーカスに何かあったら……!
恐ろしい想像がどんどんと膨らんできて、メッテは船の方へ向かって泳ぎ出した。
が、すぐ近くまでたどり着くとピタリと止まって海の底へと向きを変える。
何で私が助けなきゃなんないのよ。
助けたところでルーカスと私の仲は終わったんだから。つまりは用なし。あの人がどうなろうと知ったこっちゃない。
さっき見た光景を忘れるように、海の底の城に向かって力任せに尾を振り泳ぐ。
……もうすぐラースの所には赤ちゃんが生まれるんだっけ。エルフレズはやっと彼女が出来たって大喜びして、カールは親孝行したいから、お金を貯めて両親を旅行に連れて行くんだって言って……。
次々とメッテの脳裏に、城で働くみんなの顔が浮かんでくる。
あの船の中に私の知っている人はどの位乗っているのかな。
どれだけの人が知り合いかどうかなんて関係ある?
下半身が魚だからって気味悪がったりしないで、いつもみんな暖かく迎え入れてくれたじゃない。
そんな人たちが海の底に死体となって沈んできたらどうするのよ。
関係ないって知らんぷりできるの?
「ああもうっ、クッソーーー!」
メッテは城に付くと、トライデントを手にして再び海面へと向かって泳いでいく。
このまま放っておいて、皆は、ルーカスはどうなったんだろうってモヤモヤするのなんて嫌だもんね。死体が沈んできたのを見ちゃったりしたら、それこそご飯が不味くなるしっ!
猛スピードで海面へと向かっている途中、いつものイルカの群れに声を掛けられた。
『メッテ〜! そんなに早く泳いで何してるの? 誰かと追いかけっこ? 僕達も混ぜてよー』
「あー、今あなた達と遊んでいる暇ないのよ。また後で……」
ちょっと待てよ。1人で行ったところで、か弱い人魚の小娘が出来ることなんてたいしてない。むしろ捕まってしまうかもしれない。それなら友達の力も借りた方が……。
名案が思いついて、にっと口角を上げる。
「そう。そうなのよ。私いい遊びを思いついちゃって」
『えー、なになに?』
『教えてー』
「上に船が4つ浮かんでいるのが見えるでしょ?あれを沈めるゲーム」
『えぇー何それ! 沈めちゃっていいの? 王様に怒られない?』
「うん、今回は特別にお父様にお許しを貰えたから怒られないわ」
嘘も方便。大義の為にはささいな嘘も必要ってことで。
これまでやったことの無い遊びに、陽気なイルカたちがはしゃぎだした。
『やりたーい』
『混ぜてー』
「いいわよ。ただし、真ん中の白っぽい木で出来た船はダメ。あれを沈めたら失格だからね。こげ茶色の船を沈められたら成功よ」
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