第8話 情報収集

顔面偏差値だけじゃなくて、中身も完璧過ぎる……。


 いかんいかん。半年でルーカスを私の虜にして、プロポーズまでこぎつけなきゃなんないんだから。


 あの日、お茶をしている所へ王と妃がやって来て御礼を言われた。謁見の間ではなくわざわざ部屋まで来てくれたのは、私が人魚で歩けないからだろう。ルーカスもいい人だけど、ご両親もいい人達だわ。


 また会いたいと言ってもらえたし、手応えは上々。次なる一手を打たなければ!とやって来たのは、王宮近くにある酒場。


 なんでもこの酒場は王宮で働く兵士達がよく来るらしく、ここでルーカスに関する情報を集めようという訳。敵を落とすならまずは敵を知ること。これ常識!


 どうやって酒場まで来たかと言うと、この日の為に猛特訓をして、尾びれで歩くという技を身につけたのだ。どうしてもペンギンみたいなヨチヨチ歩きになっちゃうけど、酒場で椅子に座っていれば何とか誤魔化せるでしょ。


 スカートを引き摺って歩くタイプのロングドレスで尾びれを隠して、変装鉄板アイテム眼鏡をかけ、髪型もアップスタイルにしてみた。髪型変えるだけで女性の印象ってかなり変わるよね。


 これでもし、この前王宮に行った時に私を見た人だって、人魚だって分からないでしょ。


 ちなみに服やら眼鏡やらどこで手に入れたかと言うと、海には色んな物が落ちてくる。もちろんお金もね。酒場で払うお金も問題なし!


 さあ情報集めスタート!



お店の中に入ると、既に沢山の人で賑わっている。とりあえず適当な席に座って飲みながら、聞き耳を立てて周りの会話を探ることにした。


 上官や同僚の悪口、最近見つけたいい女の話……どうでもいい会話の中に混ざる「人魚」のワードにピクリの反応する。


「城に現れた人魚の話聞いたか?」


「王太子様を救ったって言う人魚が本当に現れたってやつだろ。ピーターが遠目で見たって言ってたぞ。下半身がエメラルドグリーンの魚だけど、すげぇ美人だったって。王太子様もメロメロさ」


「ねぇおじ様方。ここの席に座ってもよろしいでしょうか」


 このテーブルにいるおじさん達が王宮で働いている事に間違いなさそうなので、ビールジョッキを片手に乗り込んでいく。


「おお、嬢ちゃん。もちろんだよ。いやぁいいね。こんな若くて美人な子が来てくれるなんて」」


「あら美人だなんて、おじ様方も逞しい筋肉が素敵ですよ。お城の衛兵さんですか?」


 「ああそうだよ」とおじさん方が返事をすると、隣に座る男性の手を取る。


「やっぱり! 弓だこが出来ているし、眼光も鋭いからそうじゃないかと思ったんです。男性のこういうゴツゴツした手って、立派なお仕事されているって感じで好きなんですよねぇ」


 テーブルにいる男性陣は、既にメッテに釘付けになっている。手に触れたおじさんなんて、鼻血を垂らしそうな勢いだ。


「そ、そうかい。おーい、親父!こっちにもっと酒を持って来てくんな!」


「いいですね!今日は沢山飲んで騒ぎましょ」


 男なんて褒めて煽てて飲ませれば、直ぐにペラペラ喋ってくれるんだから。ふふっ、と内心ほくそ笑む。



******



「ううっ、頭が痛いー」


「一体どこで何をしてらしたんですか!」


 侍女のエラが半分怒って、もう半分は呆れ気味に聞いてきた。


「久しぶりの居酒屋で楽しくって、ついね」


「イザカヤって何ですか? もうっ、せっかくの美声もガラガラで台無しですよ」


 あの後おじさん達と喋っていたら楽しくなってきて、大いに飲んで騒いでしまった。仕舞いには店中の客とどんちゃん騒ぎで夜を明かす始末。


 前世の私は飲み会も好きで、仕事終わりにみんなでパァっとやるのが習慣だった。酒豪だった前世の感覚で飲んでいたら、今の体はそこまでお酒に強くなかったらしい。



 肝心の王太子の情報は、と言うと、これといった成果は獲られなかった。ルーカスはそれこそ本当に物語に出てくるような「The☆王子」なお方みたいで、優しくて思いやりのある人、と言うのがみんなの認識みたいだ。


 もっと好きな女性のタイプとか、そう言うのを聞きたかったんだけどなぁ。まぁ楽しかったからいっか!


「そうだ、王太后様が調子が戻られたら来るようにと仰っていましたよ」


「そうなの? それならちょっと行ってくるわ」


 エラが持ってきてくれた二日酔いに効く薬を飲み終わると、お祖母様のいる部屋へと向かう。




「お祖母様、お呼びでしょうか」


「メッテ、お前なんて声をしてるんだい」


「あー、ちょっと大きな声で歌いすぎちゃったみたいで……それで、どのようなご要件でしょうか」


 お祖母様は眉間に皺を寄せて訝しげな顔をしたが、直ぐに気を取り直して話し始めた。


「今度舞踏会があるのは聞いているね? そこに隣海の第2王子ヘンリック様も来ることになった。婚約をする前にお前に会ってみたいようだよ」


「げっ……あー、はい。左様でございますか」


「隣の海はここよりももっと豊かな広い海が拡がっている。お前がヘンリック様に嫁いでくれれば、その恩恵にあずかれるんだ。しっかりおやりよ」


「はい……」


「分かったならそのガラガラ声を舞踏会までにちゃんと治しておきなさい」


「承知しました」


 ガックリと肩を落としながら部屋を出てきたものの、サクッと気持ちを入れ替える。


 くよくよしている場合じゃない。前進あるのみ!


 メッテは身だしなみを整えて城を飛び出すと、再びルーカスのいる王宮へと向かって行った。

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