第6話 海に住む魔女(2)
聞いた話によると、この魔女は長年想いを寄せる魔法使いが居るらしい。
見た目はオバサン……いやおば様だけど、恋する気持ちは子供だろうがおばあさんだろうがみんな同じ。メッテとしては応援してあげたいので本気ガチで書いた。
自分で言うのもなんだけど、前世での私はわりとモテた。
特別美人という訳でもかわいい訳でもなかったのに男性に言い寄られ続けたのは、モテるためのフレーズと仕草、そしてメイクを駆使したから。
その体験と経験の全てをぎゅぎゅっと詰め込んだ渾身の作品だ。
「ちょっと読んでみましょうか? えーと、貴女と意中の男性は長年の知り合い。でもなかなか恋仲に発展しなくて悩む時ってありますよね。そんな時に使うと効果覿面な言葉があります。それは……」
「それは……?」
「もちろん続きは本を呼んでください」
パタンと本を閉じニコーっと笑ってみせると、魔女が舌打ちして睨みつけてきた。
「分かったよ。その本で手を打とう」
「ありがとうございます」
魔女は立ち上がって首に巻きついていたウミヘビをポイッと投げ捨てると、家の奥から年季の入っていそうな鍋を持ってきた。
「今から作る魔法薬の有効期限は2ヶ月。次の次の満月の時までにそのルーカスとやらを落とすんだね。もちろん、お前が永遠の愛を誓って貰えると人間になれると言う事は誰にも言っちゃいけない。じゃないと薬の効果は無くなる」
「にっ、2ヶ月ですか?!」
「何だい。何か不満があるのかい」
男性にただの告白だけならまだしも、プロポーズをしてもらうまでの期間が2ヶ月しかないのはいくら私でも厳しすぎる。しかも相手が王子ってだけでもハードル高いのに、私は人間ではなく人魚。無理でしょ。
「そ、そのぅ。有効期間ってもうちょっとだけ伸ばせないんですか」
「伸ばせなくはないけど、その代わりあたしの血と魔力をその分多く入れなきゃなんない。その本一冊なら2ヶ月が妥当ってとこだ。それとも、お前の声もくれるならもうちょっと伸ばしてやってもいいよ」
「それならこちらも差し上げます!」
メッテは再びリュックを漁ると、もう1冊本を取り出してみせる。
『男性を魅了する胸きゅん仕草100選』
「先程の本とこちらの本2冊合わせれば、落とせない男性はいませんよ!向かうところ敵無しです」
こんな事もあろうかと、本を2冊用意しておいた。再び魔女は舌打ちすると「分かったよ」と言い捨てる。
「さっきの本と合わせて4ヶ月。これでどうだ?」
「もうひとこえお願いします!!なんならこの髪飾りも差し上げます」
「ああん? 真珠か。真珠なら見飽きたよ」
くぅー。地上に住んでいる人間なら喉から手が出るほど欲しがるような代物でも、海に住む魔女にはさして価値はないか。
ガックリと肩を落としていると、魔女がくつくつと笑いながら近寄ってきて、首から提げていたピアスに触れた。
「そんなに伸ばして欲しいなら、こっちのサファイアを貰おうかね。そうしたらもうふた月伸ばしてやるよ」
「こっコレですか……」
これは次にルーカスに会う時必要なものだ。でも声を取られるのはもっての外。とは言え他にあげられるものもないし、4ヶ月じゃあなぁ……。
「分かりました。こちらも差し上げます」
「交渉成立だ。早速作ってやろうかねぇ」
魔女はブツブツと呪文を唱えながら、鍋の中に色んな物をぶち込んでグツグツと煮ていく。得体の知れない液体やら海藻、魚の内蔵みたいな物……そして最後にナイフを取りだして腕を切り血を中に入れた。
魔女が魔力を注ぎ込んでいるのか、ドロドロしたドブ色の薄気味悪い液体から、徐々に透明な水のような液体へと変わっていくと「完成だ」と言って小瓶に注いだ。
「さあ陸に持っていって飲むんだね。これを飲んで永遠の愛を誓ってもらえれば、お前は晴れて人間になれるよ」
「魔女様ありがとうございました。それではこれで失礼致します」
自作の本2冊とルーカスから貰ったピアスを魔女に渡すと、メッテは元来た道を辿っていつもの海の中へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます