第3話 いざ、海上へ!(2)
荒れ狂う波の中を、イルカ達にも協力してもらいながら王子を探す。
んもーーっ、いない! 海の水が濁って視界が悪いし、波も激しくて泳ぎにくいったらない。
メッテは必死で探しながらも、前世の記憶を思い出す。
あれ、私って子供を助けようとして溺れ死んだんじゃなかったっけ。
またこれ巻き込まれて死ぬパターンじゃ……ナイナイナイ。
だって私、人魚じゃん。人魚が溺れ死ぬとか無いでしょ。イルカの友達だって近くにいる訳だし。
荒れ狂う波の中を手探りで探していると、捜索に協力してくれているイルカの内の一頭が、王子を咥えてやって来た。
王子を受け取りグッジョブ! と親指を立てて見せると、イルカは嬉しそうにクルクルと回ってみせる。
当たり前だけど人間は、水の中じゃ息出来ないのよね。ちょっとキツイけど顔を水面上に上げて泳がなきゃなんないな。
人間は水中では呼吸出来ない。
この至極当たり前の事をお姉様たちは知らないから、沈みそうな船の近くで「海の底は美しところ、怖がらないで、さあおいで下さい」なんて歌っているんだとか。恐怖よね。
何処に陸地があるのか分からないのでイルカ達に案内してもらって、王子を何とか岸辺まで連れてきた。
ちょうど奥の岩の所まで深くなっていて良かった。1人で大人の男性を持ち上げるのは無理なので、水中からイルカに王子を押し上げてもらい、メッテは岩の上から引っ張りあげる。
王子の顔色悪いけど大丈夫かな? 生きてるよね?
恐る恐る王子の胸に耳を当てると、トクン、トクンと音がした。
良かったー、生きてる。
入り江になっている先を見ると、森の前に白い建物が立っている。あれってもしかすると修道院? 水に濡れて体温奪われるし、早く助けを読んだ方がいいよね。
「おーーーい、誰かいるー? 」
何度か大声で呼びかけてみたけど誰も出てこない。こんな夜明け前の早朝じゃ無理か。
あの修道院がもう少し下の方に建てられてたらなぁ、アシカのごとく這いずって行って呼びに行けたんだけど。
あの段差を下半身お魚の姿の私が登るにはちと難しい。
もし童話の世界だとしたら、あの修道院から王女様が出てくるはず。それまで王子が死なないようにしなくちゃ。
メッテは人間で言えば膝の上に乗せて、身体をさすって温めてやる。
にしても、王子様って美形ね。キラキラ〜ってエフェクトが見えるんですけど。長いまつ毛にスっと通った鼻筋。隣海の第2王子もこんなイケメンなら良いんだけどなぁ。
ムリか、ムリよね。ここまでの美男子はそうそういないもん。何で恋に落ちるのが人魚姫わたしじゃないのかなー。
……いや、待てよ。
お話では王子が目覚めた時にいたのが王女だったから好きになったわけで、もしこのまま目覚めるまで私が傍にいたら……。
人間の王子が私に恋をしたらどうなるって言うのよ。私はその内、隣海の王子のところへ嫁ぐんだから。
頭をブンブン振ると、邪念を振り払うどころか妄想がどんどん膨らんでいく。
もしも、もしもよ? 仮にこの王子様と結婚出来たとしたら、海と陸との繋がりが出来る。そうしたらこれまで人間に見られないようにこっそり陸地を覗くだけだったのが、もっと自由に海の中も陸の物も楽しめる。
なんせ陸には海では手に入りにくいフルーツとかジュース、お酒にスイーツなんて物もある。海の中には無い宝石や貴金属だって。
これまでは難破した船から落ちてきた物を手に入れるしか無かったけど、人間と交流する事が出来れば……。
隣海の王子に嫁ぐより、ずっと得られる利が多い。しかも人間になっちゃえば、あの第2王子だって私を嫁にとることは出来ないよね。
この世界が本当にあの童話の世界か分からない。
でもこのチャンスを逃したら次は無い。
魔女が住むお屋敷の場所は知っている。人間になる方法が無いのなら、その時はその時。大人しく隣の海へ嫁げばいいだけの話。
メッテの桃色の唇が、にィっと弧を描く。
やってやろうじゃないの。絶対王子を
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