第2話 いざ、海上へ!
朝食を食べ終えて身支度を済ませると、メッテは勢いよく城を飛び出していった。
ぐんぐんと太陽の光が眩しい方へ向かって泳いでいくと、水の色が深い濃い青からごく淡い水色へと変化していく。
競争しているのかと勘違いしたイルカたちが追いかけて来た。メッテ周りをクルクルと回りながら泳ぎ回っている。
楽しくなってきて一緒に遊んでいたらお腹がすいてきたので、その辺に生えている海藻をつまみながらゆっくりと泳いでいく。
食べながら泳ぐなんてお行儀が悪いけど、今は誰も見てないし良いってことにしよう。もちろんイルカ達には口止めをしてね。
水の青ではなく空の青が透けて見えてきた。イルカたちが「もうすぐ海の上だよ」と教えてくれた。
――いよいよ海面!
プハッと息を吐いて水面から顔を出すと、前世ぶりの空気を味わう。
この感覚、久しぶり。水中にいる時は水を口から飲み込んで鼻から出すと息が吸えるけど、空気中で呼吸をするこの感覚はなんとも懐かしい。
空を見上げると海鳥が空を泳いで……いや、飛んでいる。
どうせだったら陸地を見てみたいなぁ。
どこに何があるのか分からないので適当に泳いでいると、遠くに船が浮かんでいるのが見えた。
予定変更。ちょっと船を覗いてみよう。こちらの世界の人間を見るの初めてだし。
水夫に気付かれないように水中から船へと近づいていく。
船のごく近くまで来ると、海面からちょっぴり顔を出して窓から中の様子を伺ってみる。
船室からは音楽や歌が聞こえてきて、中では綺麗な服や装飾品で着飾った人達が楽しそうにしているのが見える。
これは誕生日パーティーってやつかな。
壁には
『祝 ルーカス王子 18歳』
と書かれたタペストリーが飾られている。
みんなが手に持っているのはワイン? ああー、飲みたい。前世で私はなかなかの酒豪だった。ワインのボトル1本くらいはペロッといけちゃう。
そうだ、主役はどこに居るんだろ。きっとみんなが集まっている人だよね。
キョロキョロと船室内を探ってみると、黒い大きな瞳が美しい男性に目が止まった。
あれが多分、このパーティーの主役の王子様だ。
人間の王子様……。
ふっ、人魚の私には関係ない。なんせ私は、隣海の第2王子に嫁ぐんだから。
しばらく船内を見ていると、王子が甲板の方へと出てきた。すると、シューーーッと言う音と共に花火が幾つも海に向かってキラキラと、眩い光を放ちながら落ちてくる。
まるで流れ星が降ってくるかのような光景に一瞬呆けてしまったけど、花火を打ち上げるなんて危ないじゃない!当たったら大火傷よ!
花火が当たらないように海に潜ったり出たりを繰り返していると、水夫たちが甲板の上で踊り出し、楽しげな音楽も聞こえてきた。
いいないいなー。私も混ざりたい。こういうみんなでパーッと騒ぐの好きなんだよね。
海面から顔を出して音楽に乗りながら一人で踊っていると、イルカがツンツンと尾びれをつついてきた。
「なに? どうしたの」
『嵐が来るよ』
「嵐……?」
本当だ。波のうねりが変わっている。こんな事している場合じゃない。早く海の底へ戻らないと。
船をチラッと振り替えると、まだみんな優雅にダンスを楽しんだり歓談をしている。
名残り惜しいけどさっさと退散しないとね。
ボチャンと海中へ潜り込んで、下へ下へと泳ぎ出す。そうこうしている間にも波のうねりが激しくなり、海の色はあっという間に、青からどす黒い色へと変わっていく。
あの人達、ちゃんと嵐に気付いたかな……。
人間は人魚よりもずっと、海の変化に疎い。もしかしたら気づくのが遅れて、大波に揉まれているかもしれない。
童話の中では王子様が海に投げ出されてしまうんじゃなかったっけ?
いや、私には関係ない。そもそも童話の世界かどうかだって怪しい。
でも、もし私が本当に「人魚姫」に出てくる人魚だったら?
私が助けなければ、あの人死んじゃうよね……。
あーー、関係ない! 関係ないってば!!!
メッテは自分の心の叫とは反対に身体が動いていた。
くるりと尾をなびかせ海面の方へと顔を向けると、さっきまで泳いできた方へと引き返していく。
だって、このまま放っておいて数日後に、あの人の水死体が水底に落ちて来たら目覚めが悪いじゃない!
船が無事に嵐を乗り切れていたのならそれで結構。
万が一童話と同じように、王子が海に投げ出されているのを捕まえることが出来たら、その辺の岸辺にでも置いとけばいい。そしたら修道院で教育を受けている王女様が来るんでしょ。
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