君の涙が落ちる前に

琴瀬咲和

第一章

 私の一日は、朝六時の起床から始まる。


 洗面所で顔を洗い、髪の毛をくしでとかす。


 自室に戻って制服に着替えてから、キッチンに向かった。


 今日の朝食は、白飯とみそ汁、鮭だ。


 炊飯器に入っている白飯を混ぜる。湯気が上がった。

 みそ汁は昨日の夕飯の物。電子レンジで温める。

 鮭は昨日買ってきた物だ。フライパンで焼く。


 私は食器棚からマグカップを二つ出して、ペットボトルのコーヒーを注いだ。

 両親の物だ。ちなみに私は水。


 焼きあがった鮭をお皿に移し、食卓に置いた。

 白飯とみそ汁も食卓に置く。コーヒーとお箸もだ。


 お弁当の用意もしないとだ。


 お弁当箱を三つ出して、白飯やいつかの残り物、冷凍食品を適当に詰めていく。


 お弁当の用意が終わった頃だ。

 どん、どん、と重い足音が階段から聞こえてくる。

 のっそりとパジャマ姿の父が下りてきた。父は低血圧なので、いつも朝は不機嫌顔だ。


 父は食卓に直行し、朝食を食べ始めた。


 私も食卓に座り、朝食を食べ始める。

 私は早食い。両親と向き合ってご飯を食べるのが苦痛で、いつからか早食いが癖になっていた。


 五分弱で朝食を食べ終え、流しに食器を置いてから洗面所に向かう。


 洗濯籠に入っている洗濯物を洗濯機に放り投げ、洗剤を入れてからスタートボタンを押した。


 すると母が洗面所に入ってくる。

 私は自室に向かった。


 ノートや筆記用具が入ったスクールバッグを持って、一階に下りる。

 スクールバッグを玄関に置いてから洗面所で歯を磨く。


 三分ほど経ってからうがいをして、リビングに向かう。父は二階に行っており、母が食卓で朝食を食べていた。


 私は洗い物を始める。


 洗い物が終わった頃に母も食事を終えた。

 母の食器も洗う。


 私は洗面所に向かい、洗濯機の蓋を開けてから洗濯物を籠に入れて持ち、ベランダに向かった。


 洗濯物を干し終わり、一階に向かう。籠を洗面所に戻してから時計を見る。


 もう高校に行かないと。

 スクールバッグを持ち、ローファーを履いてから玄関を出る。


 朝から疲れた。

 いつものことだ。


 なんで私が、こんな目にあわないといけないのだろう。




「はるちゃん、おはよー」


 校門をくぐったのと同時に、声をかけられた。


 またか、と思う。


 彼女の名前は渡辺美月わたなべみつきさん。クラスの人気者だ。

 少し前から、私は渡辺さんに声をかけ続けられている。


 毎朝「おはよう」と声をかけられる。放課後「また明日」と声をかけられる。


 私はそれに小さな声で返事を返す。

 小さな声なのに、彼女はいつも嬉しそうにしていた。


「おはよう……」


 ほら、また嬉しそうにした。

 彼女の笑顔は太陽のように明るい。


 渡辺さんは友達に呼ばれ、「じゃあ、また」と手を振って去って行った。


 友達がほしいと思う。

 でも、友達はいつか裏切られるもの。

 期待すればするほど、裏切られた時の絶望が大きい。

 だから私は、友達を作らない。




 教室に入ると、たくさんの話し声が耳に届いた。


 うるさいなぁ、と思う。


 席に座る。

 私の席は中心辺りなので、すごくうるさい。


 できることなら隅っこの人に席を変わってもらいたい、と思うが、無理だ。仕方がない。


 やっとチャイムが鳴り、少しずつ教室が静かになっていく。


 担任が入ってきた頃には、話し声はほとんど聞こえなくなっていた。


「今日は転校生を紹介する」


 ざわざわと教室がまた話し声に溢れた。


すると、教室に男の子が入ってきた。


「初めまして」


——あれ?

 私はこの男の子を、見たことがあるような気がする。

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