第5話 彼女の想いの末路
「さすがに驚いた?」
「ええ……あなたがやっぱり年上好きだったなんてね、クソ天桐君? 好き」
「驚くのはそっちなんだ。ていうか、今の冗談なんだけれど」
「……その発言こそが冗談なんでしょう?」
「どうしてそう思うのさ」
「私、クリニックの名前までは教えていないもの」
「以前、そのクリニックにお世話になった事があるんだ」
「なら、その時に叔母を見て好きになったという事よね?」
「いくらなんでも医者に一目惚れなんてしないよ」
「でも、美人だったでしょう?」
「そうだね。さすがは福地原さんと同じ血筋だと思ったよ」
「やっぱり男なんて皆、外見で女性を判断する最低の生き物なんだわ」
「女性だって男性の外見を気にするでしょ? それと一緒だよ」
「私はあなたの外見なんて、酢豚に入っているパイナップル程も気にしないわ、クソ天桐君? 好き」
「それ、結構気にするヤツだよね?」
「一体、どうしたら私の事を好きになってくれるの?」
「それってすごく難しい質問だよ。いつ、誰を好きになるかなんて誰にもわからないんだから」
「そんな……このままでは福地原家はお終いよ」
「大袈裟だなぁ……僕たち、まだ15歳でしょ? 一族の命運を悲観するには早すぎると思うけれど」
「私は16歳よ……ハッ」
「僕より年上だって言いたいんだね? 同級生なんだから同い年でいいじゃない」
「いいえ、これはとても重要な事よ。あなた、誕生日はいつなの?」
「3月30日だけど」
「私は4月3日生まれなのよ。という事は、実質的に私の方が1歳年上という事になるわね」
「僕は自分が年上好きだって明言した事は一度もないのだけれども。それに福地原さんは小柄で童顔だから、あんまり年上って感じもしないし」
「だから、外見で人を判断しないでとあれほど」
「中身も年上かどうかは自明ではないけれどね。子供っぽいようでもある一方、大人っぽいようでもある」
「そういうあなたは妙に達観している所があるわ」
「両親がずっと共働きで妹の面倒を見て来たからね、年相当のようにはしゃいでばかりもいられなかっただけだよ」
「ならこうしましょう。私があなたの妹になればいいのよ。そうすれば、一生涯に渡って私の面倒を見てくれるって事よね?」
「妹は1人で十分だよ。第一、妹になったら子作りは出来ないんじゃない?」
「そしたら……そしたら私はどうしたらいいのよ……もう詰みだわ」
「詰むの早すぎるよ。まずはお友達から始める、というのが真っ当だと思うんだ」
「それがあなたの言っていた『守るべき順番』なの?」
「そうだよ。ていうか、そんなに特別な事ではないと思うけれど。少なくとも既成事実を作った後で、種馬の如きペットにされる順番よりかはずっとね」
「私としては大変遺憾だわ」
「急いては事を仕損じるとも言うよ? とりあえず、友達になってくれるんなら、僕の背中からどいてくれないかな?」
「友達は背中に乗らないの?」
「友達じゃなくても背中にはあんまり乗らないかな。福地原さん、友達とか少ない方だったりするの?」
「少ない所か、いた事がないわ。皆、私の言動を気味悪がって皆離れて行ってしまうもの。私の話し相手は8人の叔母たちくらいなものよ」
「それでそんなに歪んじゃったんだ」
「何か言ったかしら?」
「それでそんなに歪んじゃったんだ」
「……普通、こういう時ははぐらかすものじゃない?」
「福地原さんに常識を諭されるなんて驚きだよ。それより、友達はいなくても告白はされるんだから、人との交流もそれなりにあるんじゃないの?」
「外見だけで判断されて、小バエみたいに寄って来る男共を散々に罵倒した挙句、追い散らす事を交流と言うなら、そうね」
「あぁ、だから外見で判断されるのを嫌悪しているんだね」
「そうよ。そこまでわかったのならもう私と婚約確定ね」
「婚約じゃなくて友達ね」
「友達になれば、私にも見込みはあるのかしら?」
「ゼロではないと思うよ」
「それは友達でなくともゼロではないような気がするのだけれど」
「そうだね。それでも、昨日までの関係性よりかは確率は高くなるんじゃない?」
「他人事のように言ってのけるなんて、本当に腹が立つわ」
「じゃあ、やめとく?」
「いいえ、この腹立たしさも含めてあなたが好きなの」
「福地原さん、やっぱり変わってるよ」
「これからは変人同士、仲良く子作りに励みましょう」
「友達は子作りに励んだりしないの。これは教育から始めないといけないみたいだね」
「避妊の仕方なら知っているわ」
「それそれ、そういうの。友達同士ではそういう会話はしないんだよ」
「そんな……他に何を話せばいいというの?」
「……これは教育のし甲斐があるなぁ」
「言っておくけれど、学校のお勉強はたくさんよ」
「僕だってイヤだよ」
「その割には大変よろしい成績をしているじゃない、クソ天桐君? 好き」
「他に取り得がないだけだよ。福地原さんだって、成績は悪くないでしょ?」
「人並み程度かしら」
「十分だよ。じゃあ早速教育だけれど、友達は背中に乗ったりしないから降りてくれるかな」
「仕方がないわね」
「お次に、友達の前では生足を晒したりしない事」
「それじゃあ、誘惑が出来ないじゃない」
「友達は誘惑なんてしなくていいんだよ。いいからその二―ソックスを履いて履いて」
「仕方がないわね」
「最後に――」
「まだあるの?」
「人間関係というのは得てして不自由なものなんだよ」
「だからあなたは人付き合いが苦手なのね」
「そうだね。これが友達として最も大事な事なんだけれど」
「一体何なのかしら? ワクがオラオラして来たわ」
「それはだね……」
「早く言いなさいな。焦らされるのは好きではないの」
「友達同士は――」
「…………ごくり」
「――名前で呼び合う事だよ」
「………………そんな事なの? それならお安い御用よ、クソウジ」
「クソは要らないよ」
「わかったわ、ウジ」
「僕の名前は宗司だよ」
「そ……」
「そ?」
「そそそそ」
「そそそそ?」
「そそそそそそそそそ」
「もう何なのさ、名前くらいで」
「はぁはぁ……いえ、これは思いの外恥ずかしいわね……」
「あのね、子作りとか種馬とか不感症とか言ってる方がよっぽど恥ずかしいよ」
「さ、先にあなたから言いなさい」
「しょうがないなぁ。じゃあかすりさん、これから友達としてよろしく」
「……そんなにあっさり言ってのけるなんてずるいわ」
「ずるいと思うならかすりさんも言えばいいよ」
「『さん』は要らないわ」
「なら、かすりちゃん?」
「それは気持ちが悪いわね」
「かすり様」
「それでいきましょう」
「友達は様付けで呼んだりしないんだよ」
「あなたから言い出したんじゃないの」
「もう面倒だから、かすりでいいよね」
「人の名前を面倒呼ばわりしないでくれるかしら」
「僕はもう名前で呼んだから、かすりも早く僕の名前を呼んでよ」
「そ、そそそそそ」
「またそれ?」
「そそそ……そ、そうじ、くん」
「良く出来ました。それでこそ友達だよ」
「はぁはぁ……こ、これはとてつもない破壊力ね……私、心臓から毛が飛び出しそうよ」
「それなら多分、大した事ないから大丈夫だよ。じゃあ、友達になった記念に握手で締めようか」
「あ、握手……」
「言っておくけれど、生足で人の背中に乗る方がよっぽど恥ずかしい行為だからね?」
「わ、わかったわ……友達なんだもの、仕方がないわね」
「じゃあ、はい」
「……………………ええ」
「かすり、これからよろしく」
「こ、こちらこそ……そうじ、くん」
「うん――あぁ、そうだ。かすりに1つ言い忘れていた事があったよ」
「何かしら?」
「僕は不能じゃないけれど無精子症だから、自然妊娠はほぼ確実に出来ないと思っておいてね」
「………………福地原家は私の代で終わりだわ…………」
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