第4話 彼女が僕を罵倒するワケ

「ん……はぁはぁ、おほぉ、んぎもぢいぃぃぃぃっ」


「私のマッサージを受けてそんな奇声を発するのはあなたくらいなものよ、クソ天桐君、好き」


「だって、本当に気持ちいいんだから仕方がないじゃないか」


「これで私が噓偽りを言っていない事がわかってでしょう」


「そうだね。さっきまでの僕を絞め殺してやりたい気分だよ」


「それは困るわ。死ぬ前に精子バンクに登録しておいてくれないと」


「僕よりそっちの方が心配なんだね」


「あなた、私に心配されたかったの?」


「いいや、どっちでもいいかな」


「それはそれで腹が立つわね……」


「これでマッサージも終わったし、そろそろ帰ったら?」


「何を言っているの。私がただマッサージをしにここへ来たと思ったら大間違いよ、クソ天桐君? 好き」


「そんな事言って、さっきドラ焼きを3つも食べていたじゃないか。マッサージの対価としては十分だと思うけれど」


「確かに、あの抹茶クリーム味の生ドラ焼きは絶品だったわ」


「満足して貰えたようで何よりだよ。じゃあ、そろそろ帰ろうか」


「あなた、私がベッドの上であなたの背中に馬乗りになっているこの状況で、よくもそんなセリフが言えたものね、クソ天桐君? 好き」


「お褒めに預かり光栄だよ」


「……私、そんなに魅力がないのかしら」


「僕が不能だという可能性は考慮すべきじゃないかな?」


「不能なの?」


「違うけれど」


「やっぱり私に魅力がないんじゃない」


「さっきも言ったけれど、今朝から話し始めたクラスメイトとどうしてそういう仲になれるのか、むしろ福地原さんの貞操観念を知りたいよ」


「好きな人に身も心も魂までも捧げるのが私の貞操観念よ」


「ガバガバなんだね」


「好きな人限定よ。誰彼構わず股を開くような軽い女ではないの」


「でも、ヴァージンだって言ってたよね? 今まで、僕以外に好きな人は出来なかったの?」


「女の過去を暴こうだなんて野暮な人ね、クソ天桐君? 好き」


「僕が初恋の相手って事?」


「初恋は幼稚園の頃、近所に住んでいたタロウだったわ」


「自分から過去を曝しているじゃないか。それに幼稚園からの知り合いって事は、タロウって子とは幼馴染なんだね」


「何を言っているの。タロウは雑種犬の名前よ、クソ天桐君? 好き」


「犬に恋してたんだ……え、もしかして僕も犬とかトカゲとかに見えているの?」


「安心していいわ。あなたは二足歩行する猿に見えているから、クソ天桐君? 好き」


「良かった。種馬とか思われていたらどうしようかと思ったよ」


「それより、私がこんな風にしても、まだあなたは無反応でいられるのかしら」


「背中に抱き着いて来るなんて、随分と大胆なんだね。ヴァージンなのに」


「一応言っておくれど私、今すごくドキがムネムネしているのよ」


「うん、確かに胸が僕の背中に当たっているね」


「ここまでされて据え膳食わぬとか、あなたには男としてのプライドがないのかしら、クソ天桐君? 好き」


「人としてのプライドはあるけれど、男としてはないかもね」


「それじゃあ、あなたの人としてのプライドは今、何と言っているの?」


「そうだね……守るべき順番を守れ、かな」


「なるほど。まずは既成事実を作れ、と」


「福地原さんと僕では守るべき順番が真逆のようだね」


「? あなたはまず、私のペットになりたいというの?」


「ごめん。順番が逆なんじゃなくて、そもそも守るべきものに接点がなかったみたいだ」


「私もいい加減、女としてのプライドがボロ雑巾のようになりかけているわ」


「それは大変だね。叔母さんのカウンセリングでも受けて来たら?」


「どうして叔母にカウンセラーいる事を知っているのかしら?」


「当てずっぽうだよ。ちなみに、他はどんな職業の叔母さんがいるの?」


「ブリーダー、歯科衛生士、弁護士、あとは村長ね」


「最後のだけがやたらと気になるんだけれど。ていうか、村長って職業なの?」


「廃村寸前の村に引っ越したら叔母が最年少だったらしくて、無理やり押し付けられたらしいわ。それで、村民から色々とおすそ分けを貰って生きているみたいよ」


「村長って最年長の人がやるものじゃないんだ?」


「その年長組は足腰が弱ってまともに動けない上、年長組以外の村民がいないようよ」


「社会の縮図だなぁ。少子高齢待ったなし」


「だからこそ、あなたは私と子作りに励むべきなのよ。そうすれば、国や社会にも貢献出来る立派な種馬になれるわ、クソ天桐君? 好き」


「今、種馬って言ったよね?」


「いいから早く服を脱ぎなさい。それとも、私に脱がされたいのかしら?」


「わかった」


「ようやくわかってくれたのね」


「違うよ。福地原さんが僕をクソだと言い続けている理由だよ」


「? 何を突然言い出したのかと思えば――」


「『席が隣になって1ヶ月、私をいつまで経っても口説いてくれないからクソだ』――そう言いたかったんじゃない?」


「……これでも私、男子から告白くらいはされるのよ」


「どうしてその告白を断ったりするのさ。選り取り見取りじゃないか」


「好きでもない相手とどうして交尾が出来るのよ」


「そんな事言ってる間に、福地原家の血筋が途絶えちゃうんじゃない?」


「だからこうして、好きな人と添い遂げようと必死にアピールしているんじゃない」


「ままならないよね、世の中。好きな人には振り向かれないのに、好きでもない人にはアプローチされちゃうんだから」


「……あなた、他に好きな人がいるの?」


「それは1番最初に確認しておくべきだった事だと思うよ」


「誰なの、その相手は。私が国外追放にしてあげるわ、クソ天桐君? 好き」


「それをしたら、キミはとても後悔するんじゃないかな」


「どうしてかしら? 私にとっては得しかないと思うのだけれど」


「その人、学校の正門から500メートル程南へ行った所にある福地原泌尿器科クリニックで院長をやっているんだ」


「まさか、そんな――」

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