第27話

 キャンプも同じ8月1日から、2泊3日で始まった。宿泊する研修センターに到着すると、イリスはその部屋の狭さに驚いた。

(魔族の研修所の、半分もない。こんなに狭いとは思わなかった)

二段ベッドが4つ。8人一部屋だとは、聞いていたが。魔族の研修会に慣れているイリスには、ここで眠れるのかと不安しかなかった。同じ部屋の舞子が、

「今日は、たくさんおしゃべりしようね」

と、はしゃいでいる姿を見て、

(あやめも慣れない研修会で、頑張っているんだよね。あやめの分まで、楽しまなくちゃ)

そう思いなおした。

 初日は、グループでカレー作り。智花の特訓のおかげで、何とか包丁は使えるようになったが、相変わらず火加減の当番を任された。しかし、火加減と言っても、今回は炭なので、思うようにいかない。「イリスにしかできない」と、みんなに言われ、思わず「うん」と言ってしまった。

(こんなとき、『炎つかい』のガーベラだったら、うまくやれるんだろうな)

ただし、ガーベラが機嫌を損ねたときのことを考えると。

(あれほどすぐ切れる魔族の子は、いないよね。『水つかい』がいないと、家一軒ごと一瞬で燃やしちゃうしね)

 その夜は、肝試しだった。グループで、研修センターの周りの遊歩道を歩く。と聞いていたイリスは、それの何が肝試しなのか、よくわからなかった。同じグループの子たちが、両腕をしっかり掴んで、ぴったりと体を寄せてくる。

(何をしてくるんだろう。暑くて、たまらない。これが肝試し?)

所々で、先生が白い布を巻き付けて飛び出してきたり、ろうそくの灯が急に消えたりする。そのたびに、みんな叫び声をあげる。

(肝試しって、暑さとうるさいのを我慢して歩くってことなのかなぁ)

 二日目の夜は、待ちに待ったキャンプファイヤー。その前に行われたハイキングと名付けられた山歩きは、イリスにとって昨夜の肝試しと同じ、我慢して歩き続けるだけ。何度も逃げ出したいと思ったイリスだったが、ところどころ視界が開けたと瞬間に広がる景色は、決して魔界では観られない壮大なものだった。

(こういうのも、良いものだな。うん、絶対に良い!)


 キャンプファイヤーは、広場で行われた。明るいうちは、グループごとの出し物の発表が行われた。楽しい時間が過ぎ、陽が傾き次第にあたりが薄暗くなってきた。ざわめきが消え、子どもたち視線の先に、『火の神』と名付けられた校長先生が、トーチを掲げていた。司会の合図で、みんなが『遠き山に日は落ちて』のハミングが始まる。すると、校長先生はゆっくりやぐらに歩み寄り、火をつけた。やぐらに火がまわると、その炎は大きくゆらめきながら、天に昇っていくようだ。その炎の先には、あやめが教えてくれた『星が落ちてきそうな夜空』が、広がっている。イリスは、息をすることも忘れそうなほど、その星空に見入った。

(あやめ、すごいよ!マジで、すごい!空に吸い込まれそうで、気を失いそうだ。私、本当に来て良かった。ありがとう、あやめ!)

その時、イリスは自分が涙を流していることに気が付かなかった。


 

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