第26話

「アナベル、おまえ、また居眠りしてただろう」

「そういうダリアだって、目を開けたまま寝てただろう」

「まったく地獄だ。でも、今年の濃縮魔エキ、ちょっと飲みやすくなった気がしたぞ。なぁ、あやめ、そう思わないか?」

「そうだな。パパも、頑張って改良するって良いってたからな」

「そういえば…」

そう言って、アナベルは体を起こした。

「最近、あやめが魔エキを嫌がらなくなったって、カンナが喜んでいたな。総長の娘としては、当然のことだけどな」

「ああ、まずくなくなったような気がする」

あやめがそう言ったとたん、デイジーが飛び上がりそうなほど驚いた。

「どうかしちゃったんじゃないか、あやめ。あれほど、嫌っていたのに。あやめのせいで、アタイも魔エキ飲めなくなったったんだぞ」

「どういうことなんだ?」

ダリアが問いかけた。

「もう何十年も前だけど、あやめが教えてくれたんだよ。魔エキが何から作られているかって」

「何から?って、それは一族の長しか知らないんだろう。どうして、あやめが知ってるんだ?アイビーから聞いたのか?」

「いやぁ、覚えてないなぁ。そんなこと、アタイ言ったか?」

「それはないよ、あやめ。テレビのアニメで、魔女が大きな鍋に、イモリの黒焼きとトカゲのしっぽと、クモの糸。それから、コウモリの羽を入れて、ぐつぐつ煮てるのを観たって。そう教えてくれたじゃないか!」

それには、みんな吹き出しそうになった。

「もしかして、あやめもデイジーも、そんなものを信じていたのか?」

あやめも、正直なところ吹き出しそうになった。そんなアニメを、本気で信じていたイリスが、おかしくてたまらない。でも、今は、自分が言ったことになっている。

「えっ?違うのか?そうじゃなかったのか?」

デイジーが、周りに必死に問いかける。が、みんな笑い転げて、言葉にならない。笑いを堪えながら、ダリアが

「ち、違うに決まってるだろう。そんなの人間が、勝手に作り上げた話に決まってる。ハハハ…。もう、お腹が痛いよ。本当のところは、花を原料にしているらしい。研修所の周り、一面の花だろう。その花の改良を、あやめのパパがやったんだよ。香りを良くしたんだ」

(そうか、魔エキのあの匂いは、花の匂いなんだ。どうりで良い匂いがするはずだ)

イリスが、花に興味がないと言っていたことを思い出した。

(花の匂いが、ヤモリの黒焼きやトカゲのしっぽの匂いだと、思い込んでいたとしたら…。そりゃ、花の匂いも嫌いになるはずだ)


 三日間の研修会は、無事終わった。研修は厳しかったが、夜は楽しいおしゃべりができ、楽しい時間も過ごせた。イリスが、あれほど嫌がっていた理由は。

(ただ、魔エキが嫌だっただけだな)

元に戻っても、イリスは魔エキを飲みたがらないかもしれない。苦手な物を飲まされるイリスには、同情するが、

(それほど嫌がらなくてもいいのに)

と、魔エキを飲みながら、あやめは何度もそう思った。

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