第21話

「やぁ!あやめ!」

雪山が見える窓から声をかけたのは、幼馴染のダリアだった。

「おや、ダリア久しぶりだね。今日は、ここまにしよう。最近、熱心だったからね。あやめ、ダリアと遊んでおいで」

「ありがとう、ママ。明日、また勉強頑張るよ。ダリア、アタイの部屋に行こう」

 ダリアとは、数週間前に会っていたが、

「久しぶりだなぁ、あやめ。今年になって、初めてだな。相変わず魔法の勉強は嫌々か?」

そう言われて、あやめは返事に迷った。

「うん、そうだなぁ。どんな魔法でも使えるっていうなら、もう少し真面目に勉強するかな」

「そんな夢みたいな話、ありえないな。その分、今の何倍も勉強させられるかもな」

ダリアはそう言って、大笑いした。

「ところで、今年の研修会が終わったら、みんなでお泊り会をしよう」

「デイジーとアナベルには、もう声をかけてあるよ。なぁ、あやめも来るだろう」

「う、うん。そうだな。いいかもしれないな」

「どうしたんだ?喜んで来てくれるって思っていたのに、どうしたんだ?何かあったのか?」

ダリアにじっと見つめられたあやめは、これ以上黙っていられないと思った。さとりの魔法を使われたら、全てわかってしまう。その前に…。

 全てを聞き終えたダリアは、なかなか信じようとはしなかった。

「アタイも、その魔法をかけたところにいたんだよな」

「うん。アタイとイリスの誕生日会の日だ。来週の7日。この部屋で、イリスが時もどしの魔法を使ったんだ。イリスが、アタイのためにしてくれたんだ」

ダリアは、しばらく考え込んでいた。

「アタイを信じて、全部話してくれたんだろう。わかった、信じるよ。それで、来週の誕生日会には、そのイリスって子も来るんだな」

「うん、来てもらう。まだ、魔法は完全ではないけど、そこで試してみようと思ってる。同じ条件で、時もどしの魔法を使うんだ。ダリア、すまないけど、力を貸してくれ。デイジーとアナベルには、イリスを助けるために時をもどす。そういうことにしたいんだ」

「わかったよ。人間だったあやめが、魔法を使えるようになるなんて、まだ信じられないけど、アタイの目の前にいるのは、親友のあやめだ!」

そう言って、ダリアはあやめを抱きしめた。


 帰宅したイリスは、智花から、新しい学校でもキャンプに参加できることを聞かされた。

「良かったね、イリス。キャンプ、小さい頃から楽しみにしていたもんね」

(このキャンプのせいで、とんでもないことになってるって、お母さん知らないもんね)

「それで、どう?新しい学校は」

「うん、良い学校だと思うよ。みんな、優しいし。それでね、私とそっくりな子がいてさぁ。教室に入った途端、大騒ぎになったんだ」

「へぇ、そんなに似てるの?」

「あやめって子なんだけどね。その子、髪の毛が短いんだ。だから、区別がつく。って他の子から言われたくらい」

「そうなんだ。そんなに似てるなら、会ってみたいなぁ」

智花はそう言いながら、荷物の片付けの方に気を取られていた。

「イリスも、早く部屋の片づけ済ましちゃいなさいよ。庭の手入れが、どんどん先延ばしになるよ」

「はぁい」

 イリスは段ボールだらけの部屋に入ると、ベッドに体を投げ出した。

(さぁ、こっからだ!絶対に、元にもどしてもらわなきゃ!)

突き上げた両手のこぶしを広げると、親指人差し指でL字を作った。その先に見えるのは、部屋の白い天井。

(気持ちを、まずは空っぽにして…)

ほんの数分前、庭の雑草が揺れる様子や匂い。そして、玄関を開けるときのドアの感触をしっかり頭に描いた。そして、ゆっくりL字型の指を内側に倒した。

(やっぱりだめだ)

 真っ白い天井を眺めながら、かつて住んでいた自分の部屋を思い出していた。暗い部屋だった。窓はあっても、そこから見える景色に四季はなかった。光や風を感じることはなかった。今は、まぶしい日光や優しい風を、全身で感じられる。初めの頃は、新しい生活にウキウキすることもあった。が、日がたつにつれ、パパやママに会いたくなり、夜になると涙を流すこともあった。魔族だったころは、泣くという感情が理解できなかった。

(早く、パパとママの元にもどりたい)

今もまた、涙が流れていた。

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