第12話
テーブルには、たくさんの料理が並んでいた。
「凄いごちそうだけど、うちのお母さんが作ってくれたケーキも、ここに出しても良い?」
あやめが、思い切ってそう切り出すと、
「もちろんだ!あやめのお母さんのお菓子は、最高なんだ!」
イリスが嬉しそうに言うと、他の子たちも、それは凄いと、一緒に笑顔になった。
(みんな本当に、良い子たちだ。本当に良かったなぁ)
「そっくりな二人が同じ誕生日っていうのも、本当に不思議だよね。でも、そのおかげで、今日は二倍楽しめる」
あやめの言葉に、みんなもうなずいた。初めて会う子たちも、言葉遣いこそ乱暴だが、心優しい子たちだと、あやめは思った。
学校のことや、あやめの小さい頃の話などに、イリスたち魔族の子どもたちは、ところどころ不思議な突っ込みを入れながらも会話が弾んだ。
(やっぱりあやめを誘って良かったな)
イリスがそう言おうと思った矢先、あやめが涙をポロポロこぼし始めた。
「どうしたんだよ、あやめ。どこか、痛いのか?お腹か?」
「違うの、違うんだ。みんながとっても優しくて、もうずっと前から友達みたいだなぁって思っていたら、前の学校の友達のこと思い出しちゃった…」
「あの、和葉って子のことか?」
イリスは、自分が座っていた椅子をあやめの椅子のすぐ横に運んで、優しく肩を撫でた。
「みんなに話しても良いか?」
あやめの許可をもらって、イリスはあやめと和葉のことを、ダリアたちに話した。そして、あやめは、更につらかったことを打ち明けた。
「転校するまでの1ケ月くらい、無視されたんだ。和葉だけじゃなく、他の子たちも…。お別れ会をしようって、先生が言ってくれたんだけど、みんな反対して…。今日、あなたたちに会えて、みんな凄く優しいから、すっごく嬉しくて。何でだろうね、あんな嫌なこと忘れれば良いのに…。ごめんね、楽しくやってたのに…」
「そうだったんだ。無視されるの、アタイは慣れてるけどなぁ。あやめは、辛かったんだよな。それにしても、和葉ってやつ、酷いな」
アナベルも、あやめのすぐ隣に来て背中を撫でた。
「無視されるって、された方の身になって考えりゃわかるのにな。どれだけ嫌なことか」
「ううん、私も悪いんだ。ちゃんと説明しなかったから…。自分の思ったこと、なかなか言い出せなかったんだ。ごめんね」
あやめがそう言うと、急にイリスが立ち上がった。そして思いつめた顔をして言った。
「みんな、アタイの部屋に行くよ。あやめは、ちょっとここで待っていてくれ。すぐ戻るから」
イリスは、アイビーとカンナが大広間にいることを確かめると、自分の部屋に魔族の友達を招き入れた。
「アタイ、決めた!あやめの時間を戻してやる。あれじゃぁ、かわいそうだ。和葉って子とも、ちゃんと話し合わせたい。できるかどうか、正直わかんないよ。だけど、アタイ、あやめのためにやってあげたい」
それを聞いて、みんな驚きの声を上げた。
「それって、あやめに時をもどすってことを教えるってことだろ。魔族って、ばらすのか?」
デイジーが、両手で自分の顔を覆った。
「だから、デイジーにも力を貸してほしい。あやめが、ちゃんと和葉と仲直りできたら、あやめの魔族に関しての記憶を消して欲しい。できるか?」
「そんなのやってみなきゃ、わかんないよ。それより、イリス、あんた時もどしの魔法、ちゃんと使えるのか?そっちの方が、アタイたちは心配だよ」
「大丈夫だと思う。前に、自分以外の時もどしの魔法の仕方を勉強したことがある。うん、絶対に大丈夫だ。あやめのためだ」
4人は互いの顔を見合ったあと、にっこり笑った。
「アタイたちの親友のためだ!」
しばらくして、あやめはイリスの部屋につれてこられた。
「すっごい!イリスの、お部屋、凄い素敵!お姫さまの部屋みたい!」
「ただ広いだけだ。あやめの部屋の方が、ずっと可愛くて素敵だ。それよりあやめ、ちょっと話を聞いてくれ」
興奮するあやめを座らせると、イリスは一つ深呼吸をした。
「あやめの苦しかった過去を、アタイたちは何とかしてあげたいって決めたんだ」
「ごめんね。みんな、そんなこと考えてくれてたんだ。ありがとう、大丈夫だよ。忘れれば良い話だもん」
すると、デイジーが声を荒げて言った。
「たとえ忘れられたって、前の学校の子たちにとって、あやめはずっと嫌な子のままだろう。みんなの記憶を消すことはできない。そんなのアタイたちは、我慢できない。お別れ会もちゃんとやってもらえ」
「ちゃんとやってもらえって言われても…」
あやめの目に、また涙が浮かんできた。
「アタイたち、魔族なんだ」
その一言が、あやめを笑顔にした。
「その冗談、笑えないよ」
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