第7話

 翌日、登校するあやめを待ち受けていたのは、クラスの女子たちだった。

「昨日、どうだった?」

「イリスと、何して遊んだの?」

「大丈夫だった?」

矢継ぎ早の質問に、あやめは笑顔で「楽しかった」という返事一つだったため、

同じ通学団の舞子が、付け加えた。

「びっくりするよ!イリスと、ホットケーキ作ったんだってよ。マジ信じられないよ」

女子たちから、奇声があがった。

「みんなイリスのこと、誤解してるんだよ。言葉遣いは、確かに乱暴だけど、すごく良い子だよ」

あやめの言葉に、みんな顔を見合わせた。

「あやめは、知らないだけだよ。怒ると、マジ怖いんだよ。マジすごい顔になるんだって」

舞子がそう言うと、

「そうかもしれないけど、私だって舞子だって、怒ったら怖い顔になるんじゃない?」

あやめは、そう言いながら、和葉の最後の言葉を思い出していた。

『最低女』

胸の奥が痛む。あの和葉の顔も、怖かった。

(自分の思っていることを、今みたいにちゃんと言えたら良かったんだよね)

「とにかく私はイリスと、これからも仲良くするつもり。もちろん、みんなとも仲良くしたい。それじゃあ、だめなの?」

自分がそこまで言い切れたことに、あやめ自身も驚いていた。すると、

「あやめ、あんたは本当に良い子だな」

イリスが女子たちの背後から、そう声をかけたので、みんな息が止まるほど驚いた。

「アタイ、みんなと一緒にキャンプ行くよ。今、先生に話してきた。あやめとみんなで、キャンプファイヤーしたいんだ!」

イリスの言葉に、驚きの声をあげそうになった女子たちは、みんな慌てて自分の口を押えて、互いの顔を見合わせた。

 再びキャンプのグループを決めることになったが、女子たちはあやめとイリスを同じグループになるように決めた。


 休み時間、あやめはできる限りイリスを加えて、女子たちの輪に入ろうとした。が、イリスはなかなか女子たちには受け入れてもらえない。

「いいんだよ、あやめ。アタイのこと、みんな嫌ってるんだよ。無理して、仲良くならなくても良いんじゃないか?」

「どうして?みんな、イリスのこと良く知らないんだよ。イリスは、とっても良い子だよ。うちのお母さんも、そう言ってた」

「ありがとう、あやめ。そう言ってくれるだけ、嬉しいよ。そうだ!来週、うちでアタイの誕生日会をやるんだ。同じ誕生日のあやめにも、来て欲しい。アタイの友達も、紹介するよ」

「ええっ!マジ?本当に良いの?イリスの友達って、もしかしてセレブの友達?もしかして、ドレスとか着て行かなくちゃいけない?」

「何言ってんんだ。大丈夫だよ。親戚みたいな子たちだから、いつもの通りのあやめでいいよ。あやめの誕生日も、一緒に祝ってくれるはずだ」

「そう?でも、誕生日プレゼント、どうしよう。イリス、何が欲しい?」

「アタイは、何もいらないよ。あやめは、何が欲しいんだ?」

「私も、欲しい物って言われても、思い浮かばないなぁ…。そうだ!今度の日曜日に、一緒にお買い物行かない?そこで、お互いの欲しい物を買って交換するっていうの、どう?」

「いいじゃないか!良いよ!それ良いよ!」


 約束の日曜日は、朝からあいにくの雨模様だった。魔法空間は、雨が降ることも雪が降ることもない。接客室のサンルームから、外を眺めていたイリスに、

「珍しいね。日曜日なのに、早起きじゃないか」

カンナが、声をかけた。

「ママ。今日は、午後から出かけるよ。人間の友達と、買い物へ行くんだ」

イリスの思いがけない言葉に、カンナは耳を疑った。

「イリスが?人間の子供と、買い物だって?」

「うん。とっても良い子なんだ。アタイのこと、親友だって言ってくれた。今まで、そんなことを言ってくれた子いなかった。それでね、ママ。アタイのお誕生日会に、その人間の友達『あやめ』も呼んだんだ」

「まさか…本当にかい?魔族の友達と一緒ってことか?」

「大丈夫だよ。あやめは、どんな子でも絶対に仲良くなれるんだ。魔族の友達も、きっとあやめのことを好きになると思うんだ」

「そうなのか…。まぁ、イリスがそう言うなら、大丈夫かもしれないな。部屋は、大広間ってわけにはいかないから、応接室とダイニングを使えば良いよ」

「ありがとう!ママ」

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