第4話
転校することが決まった翌日。
(教室に入ったら、転校するって一番に和葉にいわなくちゃ)
そう決めて、登校したあやめだったが、
「今日は、和葉は風邪で欠席だけど、キャンプのグループは、今日中に決めることにになってるから、まぁ、仕方がないな」
そう担任から告げられた。以前から、キャンプは同じグループになろうと、仲良しの四人グループ、和葉と梨乃と柚子、そしてあやめで約束をしていた。
「あやめは、転校していくから、一人少なくなるんで…。そうだなぁ、女子は、四人もしくは五人ずつ分かれるように」
という担任にいわれるまま、和葉・梨乃・柚子の三人は同じグループどころか、それぞれ別々のグループに入らざるを得なくなった。
(どうしよう。和葉に、何て言おう。絶対、怒るよ。どうしよう…)
翌日、何も知らずに登校してきた和葉のショックは当然のこと。梨乃と柚子は、ある程度先生から説得されて、仕方がなく別のグループに振り分けられた。が、和葉は教室に入るなり、グループの男子から、
「お前、俺たちのグループだからな。女子の班長は、
と聞かれた。
「どうして、そんなことになったの?四人の約束は、どうなったの?」
泣きながらあやめを問い詰める和葉に、
「ごめん。私、急に転校することになって…」
としか言えなかった。
「何?転校するから。後のことは、知らないってこと?」
上手く説明ができないあやめに、和葉は繰り返し
「あんなに約束したのに!どうしてよ!」
と、あやめを攻め続けた。
その日以来、和葉とはまともに話をしていない。転校の最後のあいさつのときも、あやめの顔さえ見ようとしない和葉だった。
あやめが登校すると、すでにイリスは自分の席で、初めて会ったときと同じように、頬杖をついて窓の外を眺めていた。友達がいないというのは、どうやら本当らしい。
(だとしたら、私が友達になってあげないといけないのかなぁ)
「新しいクラスは、慣れた?」
そう声をかけてきたのは、すぐ前の席の子だった。
「私、穂香。学級委員だから、何でも聞いてね。昨日はイリスが、あやめちゃんのこと独り占めしてたから、みんな声をかけられなかったんだ。それにしても、今日はいつものイリスに戻ってるわ。イリス、もう飽きちゃったのかなぁ」
イリスは、来月に迫った魔族の研修会のことで頭がいっぱいだった。どうしたら研修会から抜け出せるか。どうしれば、魔エキを飲まずに済むか。普段飲んでいる魔エキの濃縮タイプは、子どもたちには不評だ。それでも、文句を言いながら飲んでいく他の子どもたちを横目に、イリスは何度も吐き出している。
(あのアタイにそっくりなあやめに、身代わりになってもらおうか)
そんなできもしないことまで、考えていた。
「あやめちゃん、まだ知らないと思うけど、夏休みのキャンプのグループもう決まってるんだ。だから、あやめちゃんは好きなところに入っても大丈夫だと思うよ」
「好きなところって言われても…。まだ、仲の良い子もいないし…」
「そうだよね。私と同じグループでも良いと思うよ。良かったら、そうしなよ。あっ、そうだ。イリスは、キャンプ行かないんだよ。夏休みの間、ずっと海外に行くんだって。セレブなんだよ。すごい豪邸に住んでんだよ」
「そうなんだぁ。じゃあ、穂香ちゃんと同じグループにしてもらおうかなぁ」
「穂香でいいよ。私も、あやめって呼ばせてもらっていい?」
穂香は、そう言ってにっこり笑った。
新しい友達ができたと、あやめは少しほっとした。
昼休み、あやめが穂香たちと話をしていると、イリスが突然声をかけてきた。
「ねぇ、あんた誕生日、いつ?」
他の子たちは、みんな驚いて二人の会話を見守った。
「私?来週なんだ。7月7日、七夕の日」
あやめが、そう答えた瞬間、イリスが驚きの声を上げた。
「ええっ!あんたアタイとそっくりだけじゃなくって、誕生日も同じだ!」
「うそ!もしかして、私たち双子?」
驚いたあやめが、思わず言ってしまった言葉に、
「そんなわけないよ。だって、アタイ魔…」
イリスも思わず口にした言葉を、途中で飲み込んだ。
あやめは、ますますイリスの存在が気になってきた。
「ねぇ、良かったら、今日うちに遊びに来ない?」
「良いのか?アタイが、遊びに行っても?」
イリスの返答に、驚きの顔をしたのは、あやめ以外の子たちだった。
イリスが機嫌よく自分の席に戻っていくのを見届けた穂香たちが、
「あのイリスが、友達の家に遊びに行くなんて。マジ、信じられないよ。あやめ、大丈夫?」
そう声をかけた。みんな、不安そうな目をあやめに向けている。
「大丈夫だよ。同じ小学生じゃない。仲良くなれるよ」
下校時間を迎えると、数人のクラスメイトがあやめを囲んで、口々に忠告した。
「いい!イリスを、絶対怒らせないよにね!」
「急に怒り出したら、意味がわからなくても謝るんだよ」
「今なら、まだ断れるかも」
そう言うみんなに、あやめは笑って答えた。「大丈夫」と。
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