第6話 



「よし、ここだな」


 あれから、何事もなかったように校舎内の自分の教室に向かって歩いた俺は自分の教室である1-Sクラスに着いた。

 時々、近くを通る他の生徒に迷子と間違えられたが……。


「…お、まだ一人だけか」


 教室の中には、さっきの掲示板の前とは違い三十ほどある席の中の一つにいかにも令嬢と言った様子を漂わせる少女が一人いるだけだった。


「おはよう」


「……!お、おはようございます」


 話しかけられると思っていなかったからなのか、その少女は驚いた様子でこちらを振り向き挨拶を返してくれた。


「ここ、座ってもいい?」


「ええ、どうぞ」


 少女の隣の席に腰を下ろすと、少女は開いていた本を閉じて何かを言いたそうにこちらを見てきた。


「…どうかした?」


 また迷子扱いかと、心の中で少しイラっとしながら質問を返してみる。


「自分で言うのも恥ずかしい話なのですが、私のことをご存じでないのですか?」


 言われてみて、よくよく顔を見てみると最近会った人の誰かに似ているような気がしなくもないが特段、誰とはわからなかった。


「うん……。俺が長い間この国の外にいたからかな」


「あ、外国の方なのですね」


「あ、いや。生まれはここなんだけどちょっと訳ありでさ……」


 こういう時の『訳あり』は何かをしでかしたやつのことを指すことが多いため、俺は口に出してからそのことを思い出した。


「あ、いや、修業に行ってただけで何かをしたとかじゃなくて……」


「ふふ、そんなこと思うわけありませんから安心してください」


 俺のことを見てそんなことを言う少女に対して初めて俺は、姉さんに飲まされた薬にほんの少しだけ感謝した。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私はレスティア・ヴィストルと申します」


「ヴィスティル?」


 姉さんと同じ家名に俺は驚く。

 覚えている限りでは確か、姉さんにいるのは上に兄が一人だけだった気がするし姉さんからも俺ぐらいの妹がいるとは聞いたことがなかった。


「あ、いえ…『ヴィストル』です。ヴィスティル侯爵家の近親で子爵家の家になります」


「あぁ、そうなんですね」


 ここでわかったが、この人は少しではあるけどリュート様に少し似ているのだ。

 リュート様は男らしい体つきと顔ではあるが、整ってはいるし端的に言うとクール寄りのかっこよさだった。

 それと同じように目の前の少女にもクールさが残っていた。


「俺はライです」


「ライ様ですね。これからよろしくお願いします。私のことは気軽にレスティアとお呼びください」


 俺が家名のない平民だというのがわかってもレスティアの態度は変わらない。

 姉さんが言うには『平民に対して威張る奴はダサいし弱い』とのことを言われたことがあるし、姉さんやリュート様の血縁なだけあってレスティアも確かな強さをもっているのがわかった。


「なら俺もライがいいな。友達に様なんて仰々しくてさみしいし」


「ふふ、ライは少し子供っぽいところがあるのね」


「確かにそうかもしれないな」


 地味に大人扱いされたのが俺的には結構うれしかった。

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