第5話(戦闘あり)



「それじゃ、行ってきます」


「頑張ってくださいませ、ライ様」


 朝、レイラさんに見送られる形で俺はヴィスティル侯爵家から出て学園に向かう。

 姉さんは、昨日の夜まで『ライと離れたくない~~!!』と駄々をこねていたがリュート様と母親であるマリア様に何かを言われた後、すぐにいい顔をして俺と長い間を過ごしたあの森に帰っていった。


「やっぱ、ちらほらいるよな~」


 学園に向かう途中、俺と同じ制服を身にまとう人の中に明らかに強そうな人が複数人見られた。

 その大半は校章の色から分かるように上級生しかいなかったが、一人くらいはライバルのような人が同級生に欲しいなぁ~と周りを見ながら歩いていくと、思っているよりも早く学園に着いた。


「おぉ~~!!」


 これから通うルーテリア王立学園は思っていたよりも大きく立派な建物だったから、思わず感嘆の声が漏れる。

 そうして、門の前で突っ立っていると後ろから声をかけられた。


「ねえ、君。中等部の子だよね?」


 そこに立っていたのは俺と同じ色の校章を付けた生徒だった。

 おそらくは身長と童顔なすぎる顔で判断されたのだとは思うがそこにコンプレックスを少々抱えている俺としてはふと言葉が強くなってしまう。


「違います!高等部の新入生です!!」


「……え?嘘…。だって」


「嘘じゃないです。それじゃ」


 毎回、毎回初めて会う人にこの反応をされていれば人は慣れるもので俺はその人を無視してクラス表が張り出された掲示板の前に向かった。


「全く見えない……」


 いざ、クラスを見ようと掲示板の前に行くと他の新入生で溢れ返しており肝心の掲示板は文字すら見えなかった。

 どうしたものかと一旦そこから離れて、近くのベンチに座りながら人が離れるのを待っていると、ざわざわ掲示板の前で誰かが揉めているのが見えた。


「……だから、邪魔だっていってんの!」


「うるさいぞ、貴様。下級貴族の分際でこの俺に文句を言うんじゃない!」


 少し耳を強化して話を聞いてみた感じ、どこの国でもよくある貴族同士の言い争いのようだった。

 こういうときの貴族は子爵くらいのそこまで爵位が高くないと相場が決まっているが今回もそのタイプみたいだ。


「というか、あれさっきの人か」


 野次馬が、ばっとその中心から離れた瞬間に見えたのはさっきのあの人と、いかにも馬鹿そうな貴族だった。


「あ、今なら見れるかも」


 野次馬が離れたことでその近くにあった掲示板の前にも人がいなくなったのを見て俺はベンチから立ち上がった。

 左からS,A,B,Cとクラスの名簿が並んでいるのを右から『ライ』の二文字を探してみていく。

 

「身の程というものをわからせてやる」


「上等よ」


 A~Cまで見ても自分の名前がなかったのを確認した俺がSクラスの名簿を確認しようとすると後ろが急に静かになる。


「え~っと……あ、あった!」


「始……」


 もしこれで見つからなかったら、学園長室に行って文句の一つでも言ってやろうと思ってたけどそれをなしにして教室に向かおうとしたら、魔法の発動を感じた直後に後ろで女の子の悲鳴が上がった。


「きゃあ!」


「ん?」


 後ろを振り返ると、さっきの女の子が他の生徒に覆いかぶさるようにして何かから女の子を守っていた。


「開始の合図はまだでしょ!!」


 さっきの女の子が反論しているのを無視して、馬鹿の方は嫌な笑みを浮かべて高笑いをしている。


「そんなもの、俺には関係ないな。貴様のようなものと決闘をするだけでも俺の心の深さがわかるというのにそのうえ文句まで言うとはこれだk…」


 なんだか事情はよくわからないけど、普通になんかうるさかったから考えるより先に俺は強めに強化した腕を振りかぶってその馬鹿を思い切り殴っていた。


「あ、やっべ」


 ちらっと馬鹿を見ると、完全に伸びてしまっているのが確認するまでもなく明らかだった。

 死んではないだろうけど、決闘中という状況を鑑みるに後で俺が責められるの間違いないので、顔を見られていないことを祈りながら逃げるようにしてその場を後にした。



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