第3話


「えっと、説明してもいいですか?」


「ああ、ぜひそうしてくれ」


「私もそれを聞かないことには君の入学推薦を受け入れるかを決めるわけには行けない」


 その言葉にうなずく二人に向けて、元凶を指さしながら俺は話し始めた。


「では、単刀直入に」



「俺がこうなったのは姉さんに無理やり飲まされた『霊薬』のせいです」



 二人の顔が疑問から驚愕に変わる。


「『霊薬』とはまさか伝説の不老長寿の薬のことか!?」


「あ、あれはエルフの中でも作れるものはごく僅か。まして年齢の変化を完全に止めるほどのものとなると……まさか、ダンジョンか!!?」


 さすがは王国一の学園の長なだけあって俺と姉さんの飲んだものの出どころまで短時間で思い当たったようだった。

 まさかリュート様も極秘であるはずの『霊薬』の詳細を知っているとはさすがはこの国の騎士団長。


「その通りです。三年前、俺が家で魔法の練習をしてたらダンジョンから帰ってきた姉さんに口移しで無理やり飲まされてから俺の見た目はそのまんまです」


 俺の言ったことに娘大好きのリュート様はしっかりショックを受けている様子だったが、貴重な薬を研究できないことにより一層ショックを受けた学園長よりも早く平静を取り戻して姉さんの方を向いた。


「と、とりあえず二人とも座らないか……?」


「わ、私も一回紅茶でも飲んで落ち着きたいですね……」


 話の主軸となるはずの二人のために俺の学園への推薦話は一旦ストップされることとなった。

 あと、髪をかき上げたときにちらっと長くとがった耳が見えたから学園長の種族はエルフで間違いなさそうだ。




「こちらをどうぞ」


 部屋の前で待機していたレイラさんが慣れた手つきで紅茶を入れていく。

 俺が紅茶の飲めないことを覚えていていてくれたレイラさんは、別でオレンジジュースを入れて出してくれるのが結構うれしかった。

 味の感じ方もそのまま変わらないし、俺が一生紅茶を飲むことはないのだろうと思いながら目の前のそれをごくっと飲み干した。


「ありがとうございます、レイラさん」


「……あの、盗み聞きをしてしまったようで申し訳ないのですがライ様のお姿がもう変わらないとは本当なのでしょうか?」


「そうですね。解毒……というか毒でもないんですけど解除薬もないので」


「……このことは他のメイドたちには伝えても大丈夫でしょうか?」


 これから三年間学園に通っている間はこの家に居候することになるし別に問題ないとは思うけど、どうしようかな……あ、姉さんが俺に小さく丸を示していたから大丈夫そう。


「はい、大丈夫です。あ、でも他言無用でお願いします」


「わかりました。ありがとうございます」


 そういって、レイラさんは部屋から出ていったのを見てリュート様が話を再開した。


「話を始める前に一つだけ聞かせてくれ、レベッカ。……お前も飲んでるのか?」


「え、もちろんだけど」


 言葉の通りで俺に口移しで飲ませた後、姉さんは普通にそれを飲んで俺に抱き着いて『大好き!!』と叫んでそのままその日は離れることはなかった。

 その時は全く何のことかわからなくていつものこととして処理したけど、酔っぱらっているとしか思えないその行動の意味に俺が気づいたのは霊薬のことを知った翌日のことだった。


「はぁ~~~~」


 深いため息の後、リュート様は遠くを見つめて


「国王様に報告、しないとだよな……」


 とこぼすように言った。

 頑張ってください。

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