第2話



「久しぶりに来たな……」


 俺は結構久しぶりに故郷の景色を見たが、全くと言っていいほど景色はほとんど変わっていないし『十年』もたっているとは思えないくらいだった。

 俺の身長はまだ姉さんよりもだいぶ小さいままだが……。


「私もライを誘拐した時以来かな」


 ぼーっと感傷に浸っている僕の横で、大した思い出もないといった様子でレベッカ姉は立っていた。

 姉さんは修業を始めて三年くらいたった時から俺のことを弟として接し始め、もうずっと会っていない家族を遠く感じていた俺もそれに抵抗なく姉さんを『姉』として思った。

 それから姉弟として過ごしていくうちに姉さんのブラコンを発症し、俺が十二歳のときに『学園に行く』と言ったときは三日三晩泣き続けられた挙句、説得の末に学園に行くのは十五歳からとなった。

 そして、十五歳になった今年から俺は学園に行くことになった。

 


「そういえば、なんか呼ばれてるとかって言ってなかったっけ?」


 ここに来る前、いつも大量に来る連絡を放置して全く返事を返さない姉さんが王都に手紙を書いていたから俺は今日のことで何かあるのかと思っていた。

 俺の言葉に何か心当たりがあるのか姉さんは手を頬に添えて考え込んだ後、はっとしたように言葉を吐き出した。


「え?……」


「!!!!そういえば父さんに学園長を呼んでもらってるんだった……」


 いつもの『服を忘れた』、『ポーションなくした』とは比較にならないくらい大事そうな案件を忘れていた姉さんに俺はため息がこぼした。


「はぁ~~~~」


「ほら、手繋いで」


 全く大丈夫ではないはずのことを気にしていない様子の姉さんが差し出してきた手を握り、『転移』の光に包まれて俺と姉さんは『学園長』のいる場所に向かった。







「おかえりなさいませ、お嬢様。そして、いらっしゃいませ。ライ様……ですか?」


「はい、ライです。この姿のことは後で説明するので今は気にしないでください……」


 姉さんの実家でもあるヴィスティル侯爵家の前に転移すると、それをわかっていたかのように門の前にはメイドさんたちが整列していた。

 一度、俺と会ったことのあるメイドさんたちは俺のほうをちらちら見て、信じられないものを見たような表情を浮かべている。

 そして、メイド長のレイラさんが俺に対していった『いらっしゃい』が気に食わないのかブラコンをこじらせている姉さんは頬を膨らませむっとしていた。

 


「……」


「毎回、ほんとごめんなさいレイラさん」


「気になさらないでください、ライ様。ローステリア様はもういらっしゃっていますのでいつもの部屋にご案内いたしますね」


 どうやら学園長の名前は『ローステリア』というらしい。


「はい、お願いします」


「……手」


 拗ねモードの姉さんと手をつないで無理やり引くようにして『学園長』が待っている部屋に向かった。




 



「入れ」


 ノックを三回すると、部屋の中から低い重圧感のある声で返事が返ってきた。

 ドアを開くと、中には腰まで伸びる長い金髪の女性と目に一本の傷をもつ姉さんの父が座っていた。

 そして僕の前に姉さんが中に入っていった。


「久しぶり、父さん。……あと、ローステリア学園長も」


「ええ、久しぶりですね。レベッカ。前にあったのはあなたがあなたの婚約者に天級魔法を放って逃げたとき以来ですかね」


「……すいません」


「いえいえ、全然いいんです。その後に重症のその子の治療をさせられた私が大変だっただけなので」


 不穏な空気の充満するその部屋に入らなければいけない感じが姉さんから伝わってきたので仕方なく俺も姉さんの横に立って挨拶をした。


「お久しぶりです、リュート様」


「ライ……か?前に会った時と変わってなさすぎないか?」


「あはは……ちょっと訳ありでして」


「リュート。さすがにこんな子供は入学させられんぞ」


 学園の入学基準の年に満たしているとは思えない俺の姿について学園長はリュート様を問い詰めている。

 問い詰められた側のリュート様も事情を知らないがゆえに俺が本当に十五歳なのか怪しんでいるようだった。

 もし仮に俺が学園長でも自分みたいな見た目の男を入学はさせないだろうから学園長の言っていることはもっともだと思った。


「姉さん、この二人には説明してもいいの?」


「まあ、ここ二人にはいいんじゃない?私も言うつもりだったし」


「「……?」」


 そこで俺は自分の見た目について二人にこうなった事情について話すことにした。

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