第13話 レミリアの兄
「ではレミリア・カーバインはなんの警告もせずエイハブ・メルヴィルに攻撃をしたわけだ」
「だから何度も言ってるでしょう。そうですよ」ハルトは嫌々としながら答えた。
学校のある個室で魔法協会の事故調査委員がハルトに聴き取りを行っていた。
「なんの警告も無しに人に対して攻撃するなど問題だ。それにレミリア自身が襲われていたわけでない。正当防衛とは認められない可能性がある」
「あのですね。あの行動がなければケイトさんだって死んでたかもしれないんですよ? レミリアが助けたんです。それで仕方なく甲冑を着たエイハブとかいう上等生を殴ったのです」
「だがあの場にいたもの全員が学校伝統のイタズラだと知っていたのだろう? 今回亡くなったエイハブ・メルヴィルも驚かそうとしているだけだったかもしれないだろう、相手に殺意があるとは思えないが。それに指導役であるケイトが制止した。それを無視してエイハブに攻撃したそうだな」
「だから何度も言っていますがそんなイタズラとかいう状況じゃなかったんですって!」
「……確かに目撃者全員の供述は一致している、君の言い分に矛盾はない」
「それでレミリアはどうなるんですか?」
「レミリア・カーバインの処遇は我々自己調査委員会が精査し最終的には魔法協会会長に委ねられる。それで処罰が決定される。今回は死人が出ているから重大事項だ」
「処罰ってなんです?」
「悪くて死刑だ」
「死刑!? 嘘でしょう?」
「まあそれは故意に魔法使いを殺した場合だがな」
「ふー」とハルトは安心した。
「でも破門になる可能性もある」
「破門ってどういうことです?」
「魔法使いの権利を剥奪されるってことだ。二度と魔法と
「そんな……だってレミリアは悪くないじゃないか」
「それは協会が決めることだ。さあもうお前は戻っていいぞ」
そうしてハルトは取り調べを終えて寮に帰ってきた。
「まさか人ひとり殺っちまうなんてな」居間の椅子にふんぞり返ってログが言った。
「ログだって見ていただろレミリアのせいじゃない」
「まあな、だけど魔法協会がどう判断するかが問題だ」
突然、扉がノックされると背の高い毅然とした青年が入ってきた。
「レミリアはいるか?」と二人に端的に言った。
「えっ? あんた誰?」とログが聞いた。
「私はレミリアの兄だ。妹に用がある」
その青年はレミリアと同じようにレイピアを帯剣していた。
カツカツと階段の上から音が響いたと思うと偶然、レミリアが降りてきた。
「お兄様……」
「レミリア、早速問題を起こしたようだな」
「お兄様……僕は……」
「ふん。学校で人殺しをするとはな。なんてことをしてくれたんだ」
「あれは事故なんです。僕だって魔法使いです。魔法使いが魔法使いを殺めるわけがないじゃないですか」
「事故? そんなこと問題じゃない。どうせお前は出しゃばってやらなくてもいいことをしてこの不祥事を起こしたのだろう」
「お兄様! あれは僕が――」
バシッ!と唐突に兄がレミリアの頬に平手打ちした。
「口答えをするな。お前に責任があろうとなかろうと事故だろうが故意だろうが亡くなった御子息のメルヴィル家に目をつけられる事態になった。父上のことを考えてみろ。魔法協会会長ももうご高齢だ。これからの魔法協会の役職につくには他家の協力は不可欠。お前はカーバイン家の
「あっあ……」レミリアは唖然としていた。
「父上からの伝言を伝える。レミリア、お前は事故調査委員会と学校に全面的に協力して余計なことはするなという言伝だ。いいかレミリア、もうお前はこの学校を卒業するだけでいい。もう意味のない行動はするな。お前の将来は父上が考える」
すると扉が空いてスタンダールが「ハルトくん、今日も
「スタンダールか」
「……お久しぶりです」
「そうか貴様ももう上等生か」
「え、ええ」
「ふん、そうか頑張れよ。私はこれから学校や自己調査委員会と話す。レミリアくれぐれも面倒を起こすなよ」そういうと兄は去っていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
また
「あれが兄貴だなんてなー厳しいこといいますよ」
「カーバイン家っていうのは魔法使いの名門だし色々あるんだよ」
「けどレミリアは悪くないんです」
「そうだけど名門というのは魔法協会の中でしがらみがある。僕の同級生にも名門がいるけど色々大変なんだよ。僕たちのようなメディオケにはわかりません」
「そういえばあのエイハブって人も魔法使いの名門らしいですね」
「えっ、ああそうだね」
「ここで修行していたとき……僕たちのことを馬鹿にしてたあの人が亡くなっただなんて」
「それでログ君やハルト君のことを恨んでいたのかもしれないね。それでクラウゼルの鎧を持ち出して驚かそうとしたのかもね」
「クラウゼルの鎧?」
「知らないのかい」
「ええ」
「魔法使いは魔法を使うのに道具が必要なんだ。あの鎧はそのクラウゼル・オッペンハイマー・シュトラウス、別名甲冑の魔法使いが使っていた魔法具なんだ。今から400年以上前の魔王時代に彼の魔法具である銀色の甲冑に身を包んで幾多の魔法使いを屠ってきた伝説の魔法使い。甲冑による圧倒的な魔法防御力で相手国の魔法使いをその手で惨殺していき彼の甲冑は返り血で赤く染まったという」
「血で……」
「あの鎧はその魔王戦争時代の魔法使いであるクラウゼルが使ってた魔法具で、校舎に展示されているものだよ」
「へー」
「そんなことより
「ふふふっスタンダールさん、実は
「えっ?」
「不幸中の幸いってやつです。あのときレミリアの
「……本当?」と疑いの眼差しを向けた。
「本当ですって!」
「ならいま僕が
「……いや全然感じません」
「それもそうだ。だって私は
「……えっ? なんでそんなことをするんです?」
「冗談だよ。けどそれがわかるってことは本当に
「はあまあ」
「そもそも
「
「そう。人間の体内には
「どうやってです?」
「未知なる力が自分の体内に、それを呼び起こして自分の全身にみなぎらせる」
「はい! さっそくやってみます。むむむむううーー!」とハルトは唸り声を上げたが当然
「……何をしているのですか?」
「いやだから
「そんな唸っていても
「そんなこと言われたって……」
「さっきもいいましたがイメージしてください『未知なる力が自分の体内に、それを呼び起こして自分の全身にみなぎらせる』というのを」
「そういえばスタンダールさんはあのレミリアの兄に習ったのですか?」
「……言っておくけど私はメディオケだけど
「えっ?」
「私は別に魔法使いの家系に生まれたわけじゃないけど生まれたときから
「ええ?」
「そういう人もいるのだよ。さあやりましょう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうやって
「レミリア」
「なっハルト、なんのようだ!」と涙を拭った。
「いや別に」
「……」
「気にすることないぜ。あれは事故だ。レミリアのせいじゃないよ。多分だけどあのエイハブって人、僕やログと言い争いしただろう。それで驚かそうとしたんだ」
「当たり前だ。あれは僕のせいじゃない」
「あっ?」
「そもそもあれはもとから死んでいた」
「もとから死んでいた? どういうことだ?」
「あれは最初から死んでいたんだ。僕が殺したにしては手応えがなさすぎる。まるで抜け殻のようだった」
「まさか?」
「間違いない」
「なら死んでいたのならどうしてあの甲冑は動いていた」
「それはおそらく魔法だ」
「魔法? つまり誰かがすでに死んでいたエイハブさんを甲冑の中に入れて魔法かなにかでその甲冑を動かして生きているように見せかけていたということ?」
「考えられるのはそうだ。だがそんなことは論理的に不可能だ。あのような鎧を精密な動きで操るなんて、かなり高度な魔法だ。それにそれを行うにはあの場にいなければ不可能なことだろう。あの場にいたのはケイトさん、ハルト、ログの三人、この三人は魔法を使ったとは思えないし、そもそも魔法は魔法具がなければ発動できない。学生はみんな魔法具を没収されているから魔法は使えないはずだ」
「ならやっぱり君が殺っちゃったんじゃないの?」
「違うっていってるだろうが! 理屈はわからないが僕が殺したわけでは
ない。そう感じるのだ。あの鎧……奇妙な動きをしていた、そもそもなんで鎧なんだ」
「ああそういえばあれはスタンダールさんが言ってたけどあれクラウゼルの甲冑っていうらしい」
「クラウゼルの甲冑?」
「ああそうだよ。なんか昔の魔法使いが使っていたものを学校に飾られているものらしい」
「なるほど……なにか裏があるはずだ。あの甲冑になにか秘密がある気がする」
「ふーん」
「それでだハルト、調査に協力しろ」
「えっ?」
「僕は自らの潔白を証明しなければならない。そこでだ君にも手伝ってもらう」
「なんで僕がそんなことを?」
「ハルト、僕が死刑になってもいいのか? 捕まって一生牢屋から出られなくても構わないのか? 退学してもいいのか」
「あのさあ、僕になんの関係があるわけ? レミリアとはたまたま寮が一緒になっただけだぜ? それなのにどうして協力せなあかんの?」
「貴様、そんな暴言を吐くのか?」
「はあ?」
「魔法使いというのは家族なのだ。困った魔法使いがいれば無償で手を差し伸べる。それが魔法使いの矜持なのだ。メディオケの貴様にはわからないのか? まあいいそういうことだから手伝え」
「うぅ……」
そう一方的に言われたのでレミリアに言われたので協力させられることになった。しかしハルトには魔法使いの伝統だとか掟というものは理解できなかった。
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