第9話 エトス

 結局ハルトの魔力エトスを目覚めさせる方法はなくてケイトはどこかへ行ってしまったが4人は森の中の広場で座りながら話していた。


「全く魔力エトスの使い方も知らないやつが入学してくるとは常識知らずね」とレミリアが言った。


「確かに、魔法使いなんて別にならなくてもいい立場なのにわざわざ魔法使いになるなんて」とログが同意した。


「なあレミリアはどうして魔法使いになったんだ?」そうハルトが質問した。


「なんで? 魔法使いの家に生まれたからに決まってるでしょう」


「それだけ?」


「それだけってそれ以外にある? 魔法使いはこの世界の秩序を司る、素晴らしい存在なのよ。あんたこそどうして魔法使いになろうとしてるの?」


「どうしてってなんとなく、というかなりゆきで」


「なんだそりゃ? わざわざならなくてもいい魔法使いになるなんて酔狂なやつだ」そうログが言った。

 ウェシルは木にもたれながら寝ていた。


 するとケイトが息を切らして走ってきた。

「よしハルトわかったぞ。魔力エトスの覚醒方法が……レミリア、ウェシル悪いが寮に帰って自習していてくれ」


「よしハルト、魔力を覚醒する修行をするぞ」


「ちょっとハルトはわかるけどなんで俺までいなきゃならないんです? レミリアやウェシルは寮で休ん――自習なのに。俺はメディオケじゃないんだぞ?!」


「ログも上手く魔力エトスが練られていない。足が遅かったのもそれが理由だ。また一から魔力エトスについて教えてやる」


「ちぇっ」


「それでハルト、お前に教えるのに適任を呼んできた」


「適任?」


「そうだ。魔力エトスの目覚め方を教えてくれる」


「おーい、ケイト!」と遠くから叫びながら優男風の男が走ってきた。

「おいスタンダール遅いぞ」


「いやケイトが速いんだよ」


「そんなことで初等生の見本が務まるか?」


「ごめん、ごめんって」


「まあいい。紹介しよう。彼はスタンダールといって私と同じ上等生だ」


「よろしく」と優男のスタンダールが挨拶した。


「彼は魔力エトスの目覚め方に詳しいから、ハルトを魔力エトスに覚醒させられる……はず」


「ああ、そのつもりです。それでハルトくんっていうメディオケは?」


「ああ、僕です」


「こういうのは今はどの段階なのか見極める必要がある。ハルトくん、なにか感じるか?」そうスタンダールが聞いた。


「どういうことです?」


「それじゃあ君は?」


「あんたが魔力エトスを練ったのだろう」とログが言った。


「いま彼は僕の魔力エトスを感じた。いやこの距離だったら魔法使いなら誰だって僕の魔力エトスを感じることができるけどハルトくん、君は感じることはできていない。君にはまだ魔力エトスを感受する感覚がない。そういう段階なんだ」


「感覚がない? どういうことです?」


「例えば樹木はものを見ることができないだろう? 花は言葉を聞くこともできない」


「はあ……」


「それと人間だってどんな美味しいスープでも指を突っ込んだだけでは味がわからない。味は舌に触れて初めてわかる、それと同じだ。つまり君はまだ魔力エトスを受容する感覚がない。それとログくんっていったかな? 彼は魔力エトスは感じることができている。第一関門は突破している。魔法使いの家系に生まれているものは最初から魔力エトスが使えるものと感じられるけど魔力エトスの扱いはできない者に2種が多い」


「当然だ。俺はメディオケじゃない」


「ならログくん、魔力エトスを出してみてくれないか?」


「ふん、そんなの簡単だぜ」するとログが気張った「はああああ!!」


「駄目だなログ、全然魔力エトスを感じられない」とケイトが言った。

「……」とスタンダールは呆れていた。



「おいおい何だケイトじゃないか」不意に声が響いた。ある上等生が広場の上から4人を見下ろしていた。


「エイハブ……」そうケイトが反応した。


「おやおやこれは珍しい奴がいるな。ええ?、スタンダール」


「えっああ、エイハブくん。ごきげんよう」そうスタンダールが笑顔で答えた。


「ほう、今年の初等生どもか……どうしたスタンダール? いつからお前が人に教えられるほど出来た人間になったんだ? ええ?」相手は悪意を持って相対している。


「いや、実はケイトから頼まれて……魔力エトスが使えない生徒がいるから教えてくれって」


「はははははっ! 魔力エトスが使えないやつがいるだあ? メディオケが入学したって噂になってたがそいつらか? ケイト、魔力エトスも使えない落ちこぼれたちの指導役になるなんて骨が折れるな」


「エイハブ、なんて物言いだ! 魔法使いには掟に反するぞ!」そうケイトが反論した。


「魔法使いの掟だ? 魔力エトスも使えないこいつらが魔法使いだと? こいつらは魔法使いなんかじゃない。それにしてもスタンダール、落ちこぼれのお前が、人にものを教えられるようになったとはな。出世したものだ」


「……」


「だがそれが魔力エトスの使い方も知らない初等生だったとはな。お前のような落ちこぼれが優等生気取りか?」


「……そんなつもりは毛頭ないよ。僕はただ初等生のためになにか力になりたいだけさ」


「ふん、同窓の面汚しがお前が一丁前に魔法使いぶるなよ。俺はお前が魔法使いだなんて認めてねえ」


「……」



「うるせえな」そうログが呟いた。


「ああ?」


「何かと思えばくだらねえこと言いやがって」


「なんだと?」


「邪魔なんだよ。用事がねえならさっさと消えろよ。そもそも誰なんだお前? いきなり出てきて人の非難してるんじゃねえ」


 相手は静かに怒りの表情をして魔力エトスを練った。ログもそれに呼応するかのように魔力エトスをみなぎらせた。その場の空気が寂とした。

「初等生のクソガキが、ぶち殺されてえのか?」

「上等だ。やってみろよ」


「ログ……魔力エトスを……馬鹿な真似はやめろ」とケイトが止める。「エイハブもだ。いい加減にしろ」

「ふん、ケイトお前もこんな奴らの指導役なんて……落ちたものだな」そう吐き捨てて帰っていった。


「なんなんだあいつ?」とログが言った。

「エイハブは魔法使いの名家の生まれでプライドが高いんだ」そうケイトが説明した。

「プライドが高いって……掟では魔法使い同士は争っちゃいけなかったんじゃないのか? 随分と仲が悪いこと」と軽い調子でログが言い放った。

「魔法使いも人間だ。掟通りにはいかない」とスタンダールが答える。

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