第8話 男女5人での寮生活の始まり

「いつまで寝ているんだ! この怠け者が!」と朝になって指導役のケイトがドアを蹴り飛ばして入ってきた。


「うん?」とハルトは寝ぼけている。


 ログはまだ平然として寝ている。ケイトは二人を叩き起こした。

「二人ともさっさと起きないか! いいか! 魔法使いは規則正しい生活が基本だ!」


 眠気を押し殺して二人は居間へ来るとすでにレミリアとウェシルが朝食のパンを食べていた。

「遅いな君たちは、朝から騒々しい」とレミリアが苦言を吐いた。


「なんだ二人とももう飯食ってるのか」とログが言った「だいたいこの飯はどうしたんだ?」


「朝食は学校から支給される。これから4人の中で一人代表が学校の食堂から取りに行くように」とケイトが説明した。


「えー学校まであんな遠いのに毎朝取りに行くのかよ。ならレミリア頼むぜ」


「ふざけるな。こういうのは分担だ。それでケイトさん、今日は何をするのですか?」そうレミリアが尋ねた。


「まず魔法使いとして最も大切なことと常識を君たちには教えてやる」


「それでなんすかそれって?」とレミリアは顔を輝かせた。



「そんなに聞きたいのなら食事をしながら聞いてくれ。それでは魔法使いとして基本的、基礎的な歴史と事柄からやっていくぞ。いいか魔法使いというのは掟が大事だ。魔法使いの九ヶ条がわかるか?」と4人の正面に立ってケイトが宣言した。


「なーんだ魔法使いの九ヶ条ですか……」とレミリアががっかりした「そんな話なんて何百、何千、何万回も聴いてます。僕はもっと実践的な魔法の知識を身につけたいです」とレミリア追従する。


 もちろんハルトには何を話しているのか訳がわからない。


「入学して改めて九ヶ条のことをを勉強するのも悪くないだろう。これは魔法使いとして生きる義務だ。アリストンは次世代の魔法使いに掟を授けてくれた。それが魔法使いの九ヶ条だ。みんなも当然暗記していると思うが、一条目を言ってみろ」


 レミリアは嫌気がさしていた。

「はー『魔法使い同士は争ってはならない』」


「そうだ」


(なにを言っているんだこいつら?)とハルトは思った。


「ログ第二条を言ってみろ」


「ええーとなんだったっけな……『魔法使いは家族である』だっけな」


「そうだ。ウェシル第三条は?」


「『魔法使い親と兄弟と子を敬う』」


「ハルト、第四条は?」


「えっ?」


「ケイトさん! もう掟はわかりましたから実践しましょうよ。魔法使いは実力を身に着けないと」とレミリアが言い放った。


「ま、確かにレミリアの言う通り実力も大事だ。食事が終わったら運動場に行こう。ちょっと4人の実力を見たい」


 5人は森の中にある広場で集まっていた。静かで周りは木々に覆われている。この場所は初等生の運動場になっており、他の初等生たちも指導役に連れられてなにか指導を受けていた。

「よしまず魔法使いとして走力を見せてもらおう。走力でその人物の基本的なことがわかるからな」


「えー走るのですか? てっきり実習だから魔法を使うのかと」またレミリアが文句を言った。


「レミリア、物事には順序ってものがある。よし、ここから」とケイトが足で線を引いて先まで歩いた「ここまで走ってこい」


 初等生4人は並んだ。ハルトは正直走りには自信があった。村でかけっこもしたことがあったがいつも一番だった。

(ここで一番になって 僕の実力でも証明してやろう)


 ケイトが手を叩いてスタートした。ハルトは過去最高のスタートを決めたが他の三人が次元の違うスピードで駆け抜けていった。


 ハルトが半ばに差し掛かった頃にはレミリアとウェシルはゴールしていた。


「あんたも速いけど僕に比べたらまだまだね」そうレミリアがウェシルに得意げに言った。


「私はこの本が重いんだ。仕方がないだろう」


「言い訳しちゃってならその本置けば?」


 遅れてログと更に遅れてハルトがゴールした。


「一着にレミリアにウェシル、ログ、ハルトの順番か……それにしてもハルトとログはふざけてるのか? どうして魔力エトスを練らない?」


「えっ?」


「ハルトとログは全然魔力エトスが湧いてないな」


「俺だってちゃんとやってるけど上手くでないんだ」


「ハルトはどうした? もう魔力エトスを使っていいんだぞ。ここは魔法学校なのだから」


「あの……魔力エトスってなんですか?」


「……どういうことだ?」


「いやあのさっきからいったいなんの話してるのかわけがわからないんですけど」


「ハルト、魔力エトス魔力エトスだろ? お前がいったい何を言っているんだ?」


「はあ?」


「その男はメディオケ魔法使いの家系でないだ。魔力エトスの使い方など知らん」とウェシルが暴露した。


「メディオケー!」そうレミリアが叫んだ。


「おいおい嘘だろ?」とログがつぶやいた。


「ハルト本当なのか?」そうケイトが聞いてきた。


「そういえばメディオケってのもこのウェシルが言ってたな入学前に……なんて意味だっけ?」


「魔法使いの家系出身じゃないってことだ。これは先が思いやられるぞ……」


「ちょっとちょっと別に魔法使いの家系じゃなくてもこの学校って入学できるんだろ?」

 みんな辟易とした顔をした。


「それじゃあ気を取り直して魔力エトスについて解説していこうと思う。ハルト、魔力エトスってわかるか?」


「いやだからなんにもわからないんです」


「……よくそれで入学試験突破できたな」と小声で言った。


「なにか言いました?」


「いやなんでもない。人間の体内には魔力エトスがある。それはこの世界の森羅万象を司る不可思議な力だ。魔法使いはその魔力エトスをつかうことによって魔法が発動できる。魔力エトスないところに魔法は成り立たない」


「えっ魔力エトス?」


「そうだ。魔力エトスを自由に使ってこそ魔法使いなのだ。見てみろ」そういうとケイトは拳ほどの大きさの石を拾って手で砕いた「このように魔力エトスを発揮すれば、常人にはできないことが魔力エトスによってできる。ハルトさっき走ったときお前だけ遅かっただろう。それは魔力エトスを使っていないからだ。魔力エトスを使えば身体能力を強化できる、人間を超越できるのだ。そして魔力エトスが魔法の元となる。それが魔法使いだ」


「……魔力エトスについてはわかりました。人間には不可思議な力があるんですね。でもそれってどうやって使えばいいんですか」


「……ハルト、手を上げてみろ」


「えっ?」言われた通りハルトは手を上げた。


「どうやって手を上げればいいのか聞く人間がいるか?」


「は?」


「つまりそういうことだ」


「いや! どういうことだよ!」


「ハルト! 私にだってわからないことぐらいある! 私だって初めて指導役になっていろいろテンパっているんだ!」


「ハルト、二種類いる」とログが口を挟んだ。


「二種類?」


「たいてい魔法使いの家系のやつは生まれたときから魔力エトスの使い方がわかる。あとはお前のようなタイプだ」


「それって魔法使いの家に生まれないと魔力エトスは使えないってことか?」


「いや、そんなことはない。魔法使いの生まれでも最初魔力エトスの使い方がわからない人もいる。けど私は生まれたときからできたタイプだから……どうも教える方法が……」とケイトが言った。


「えっじゃあどうやって魔力エトスを使うんですか?」


「ログ、お前はどうだ?」


「俺ももちろん生まれて時から」


「ならどうするんだよ。このままじゃ僕だけ魔力エトスが使えないぞ」


「だって魔力エトスなんて別に物心ついたころから普通に使えてたし、魔力エトスの使えない人の気持ちなんてわからないぞ」


「あなたそれでも指導役なんですか?」


「うるさい! まさか魔力エトスの使い方も知らないメディオケの担当になると思わなかったから……」


「ならどうするんだよ!」


「ちょっと待て! 私にも色々考えさせてくれ!」

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