第18話 魔法学校の訳の分からない最悪の授業開始!

 初等生たちは指導役である上等生の教育期間が終わってアリストン魔法学校の講堂で授業を受けていた。それぞれ制服も支給されて、初等生たちは一つの教室に集まって『魔法歴史学』の講義を聴いていた。

 年老いた女の魔法使いが正面で講義を行っている。

「魔法使いレベリウスはかの禁足の地へ旅立ち、ステータスをオープンしました。魔法使いはそれからスキルというものを神様から与えられたのです。それからデスストランディングが発生してカイラル汚染が始まり、それからヴォイドアウトが起きました。そうしてパルスのファルシのルシがパージでコクーンしたわけでして――――」


(ま、全くわからねえ……いったいなにも話してやがるんだ? わけのわからない固有名詞ばかり言いやがって、なんだそれ?)そうハルトは授業中に考えていた。


「ねえルーチ、魔法学校の授業だっていってもつまらないね……」とミィナという女子生徒が隣の女子生徒に話しかけた。

「まあ最初はね」そうルーチが答える。

「本当に退屈だよね、こんな話、誰でも知ってるって」

「まあね」

 初等生にさえも初歩的すぎて退屈な授業だったがハルトはというとわけが分からず、魔法学校に入学したことを悔い始めた。


 授業が終わって寮に帰ってきた。

「どうだったハルト、魔法学校の授業は?」

「ま、まあまあですね」

「……そうか」

「そういえばもう授業が始まったのにケイトさんは僕たちと一緒に住むんですか?」

「もちろんそうだ。指導役はお前たちを進級させるまでは一緒に住むことになっている」


 夜になって一階の自分のベッドに横になっていた。同じ部屋のログはとうに眠っており、ハルトはひとり静かに自分は魔法学校でやっていけるのかなーと不安になっていた。

 どうしてかハルトは眠ることができなかった。寝付けないので居間にやってきてコップに水をいれて口をつけると何やら「ガチャリ、ガチャリ」と奇妙な金属音が窓の外から聞こえてきたのだった。

「ガチャリ、ガチャリ」と次第に音は大きくなっていく。


 もう夜は深まっているというのに何かが外にいるのだった。ハルトは窓ガラスから外の森を眺めた。すると窓ガラスのすぐ向こうに銀色の甲冑がゆったりと足を交互に動かして歩いていたのだった。

「はっ!?」ハルトは驚愕して声を漏らした。

 しかしすぐにそれがまずいことだと思って口をつぐんだ。ハルトは窓辺の陰に隠れてその騎士を見ていたが相手はハルトのことに気が付かない様子でそのままゆっくりと窓の横を通り過ぎていった。ハルトは急いで自分の部屋に戻った。


「おいおいログ! 起きろよ」とベッドで眠っているログのことを揺すって起こした。

「うるせえな、何だよ!?」と嫌々答えた。

「いま変なやつがいたんだよ」

「ああ?」

「なんか騎士みたいのが外歩いてたんだよ」

「なにわけの分からねえこと言ってんだ?」

「いや本当なんだって銀色の甲冑姿のやつが森を歩いていたんだ」

「とうとう頭の方もいかれたのか?」

「……そんなんじゃないって」


 ログが起き上がり呆れたように正面の方を向くと驚愕した表情をした。ハルトもログの視線の方を見るとさっきの銀騎士が寝室の窓の正面に立っていたのだった。

 そしてその銀騎士はゆっくりと拳を振り上げると窓を殴った。すると窓に丸くヒビが入った。


「「なっ!?」」ログとハルトは怯えて二人で床に倒れた。

 だが銀騎士は振り向くとゆっくりと歩いていって暗い森に消えていったのだった。


「なんなんだよ? どういうこと? 誰なんだあいつは?」とログが吐き捨てた。

「な! 言った通りだろ」

「いやだから何なんだあいつは? 何しに来やがった!?」

「さあ。それにしてもログ、これ窓ガラスにヒビいってるけど……どうする?」

「知るか! 俺たちのせいじゃねえ!」とまた布団をかぶって眠ろうとした。

 仕方がないからハルトもベッドに横になった。先程の奇妙な出来事のせいでもちろんハルトは寝付けなかった。だがしばらく時間が経つとその時また不自然なことが起こった今度は部屋が小刻みに揺れだしたのだった。


 ログもハルトも半身を起き上がらせて眼を丸くした。

「今度はなんだ」とログが叫んだ。

 二人はこの揺れが風のせいだとわかった。しかし尋常でない風である。壁はもちろん窓ガラスは揺れ。そして風をきる轟音が響いてくる。そしてそのうちヒビが入っていた窓ガラスが完全に割れて破片が部屋の中に散乱して、風が二人の部屋に入り込んで、部屋の中は風が吹き、紙が舞い上がり、髪は暴れてどうにもできなかった。だがそれで風は止んだ。


「やべっ!」

「ヤリ過ぎだよ、バカ!」と森の方から何者かの会話が聞こえて足早な足音が響きながら消えていった。

「クソが! なんなんだよ」とログが言った。

「さあ、なんなんだろう」と呆然としてハルトが答える。

「ふざけやがって、一体誰だ?」

「誰って? 突風だろ、自然現象だ」

「馬鹿か? これは魔法だ。誰かが魔法で風を操ったんだ」

「魔法? これ魔法なの? 魔法ってこんなこともできるのか?」

「ああそうだよ」とまた眠ろうとした。

「おいログ、それって襲われてるってことだろ。このまま寝るのはまずくないか」

「だったらお前は起きてろ、俺は寝るからな」

 ログがいびきを鳴らしはじめたがハルトは眠ることができなかった。だいぶ時間が経ってもそれからは特に何も起きなかった。


 浅い眠りから起きて居間にいくと朝早くから読書していたケイトに昨日の夜ことを話した。

「ちょっと聞いてください、ケイトさん。昨日変なことがあったんです?」

「変なこと?」

「なんか銀色の騎士みたいのが外を歩いていたんです」

「はあ、なんだそんなことか……」と別にケイトは驚かずにつまらなそうな反応をした。

「それにどうやら誰かが魔法で僕たちの部屋を襲撃したのです。突風が吹いて」

「ふーん」しかしケイトは意外にも表情を変えずに、むしろ呆れたように話しを聞いていた。

「はあまた始まった」

「ケイトさん何か知ってるんですか?」

「いいや、別に」

「ログは魔法の仕業だって言ってましたけどね、まさか窓まで割るなんて」

「あっ? いまなんて言った?」

「窓を割ったって」

「なんだと? お前たちは寮の窓を割ったのか!」と突然椅子から立ち上がるとそう言い放った。

 ケイトは即座にハルトとログの部屋に行った。

「なんじゃこりゃ! めちゃくちゃじゃないか」

「うるせえな、なんだよ」とまだ寝ていたログが起きた。

「ログ! これはどういうことだ!?」

「ああっ!? 知りませんよ、誰かが勝手にやったんですよ」

「これは問題だぞ。これから新入生は全員招集されることになるから覚悟していろ」

 ケイトは足早に寮から出ていった。

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