第10話 夜の異変

 訓練が終わってハルトは自分の部屋で休んでいた。

 部屋は簡素でこれまた簡素なベッドは2つ、夜になってログのやつはいびきを立てて寝ている。ほとんど成り行きでここまで来てしまった。まさか自分が魔法学校に入学するとは思わなかったとベッドに横になりながらハルトは考えていた。ハルトはひとり静かに自分は魔法学校でやっていけるのかと不安になっていた。


 今夜、ハルトは眠ることができなかった。寝付けないので居間にやってきてコップに水をいれて口をつけると何やら「ガチャリ、ガチャリ」と奇妙な金属音が窓の外から聞こえてきたのだった。

「ガチャリ、ガチャリ」と次第に音は大きくなっていく。


 もう夜は深まっているというのに“何”かが外にいるのだった。ハルトは窓ガラスから外の森を眺めた。すると窓ガラスのすぐ向こうに全身銀色の甲冑がゆったりと足を交互に動かして歩いていたのだった。


「はっ!?」ハルトは驚愕して声を漏らした。


 しかしすぐにそれがまずいことだと思って口をつぐんだ。ハルトは窓辺の陰に隠れてその騎士を見ていたが相手はハルトのことに気が付かない様子でそのままたどたどしい足取りで窓の横を通り過ぎていった。ハルトは急いで自分の部屋に戻った。



「おいおいログ! 起きろよ」とベッドで眠っているログのことを揺すって起こした。


「うるせえな、何だよ!?」と嫌々答えた。


「いま変なやつがいたんだよ」


「ああ?」


「なんか騎士みたいのが外歩いてたんだよ」


「なにわけの分からねえこと言ってんだ?」


「いや本当なんだって銀色の甲冑姿のやつが森を歩いていたんだ」


「お前、とうとう頭の方もいかれたのか?」


「……そんなんじゃないって」


 ログが呆れたように起き上がって窓を見ると驚愕した表情をした。ハルトもログの視線の方を見るとさっきの銀騎士が寝室の窓の正面に立っていたのだった。

 そしてその銀騎士はゆっくりと拳を振り上げると窓を殴った。すると窓にヒビが入った。


「「なっ!?」」ログとハルトは怯えて二人で床に倒れた。

 だが銀騎士は振り向くとゆっくりと歩いていって暗い森に消えていったのだった。


「なんなんだよ? どういうこと? 誰なんだあいつは?」とログが吐き捨てた。


「な! 言った通りだろ」


「いやだから何なんだあいつは? 何しに来やがった!?」


「さあ。それにしてもログ、これ窓ガラスにヒビいってるけど……どうする?」


「知るか! 俺たちのせいじゃねえ!」とまた毛布をかぶって眠ろうとした。


 仕方がないからハルトもベッドに横になった。先程の奇妙な出来事のせいでもちろんハルトは寝付けなかった。だがしばらく時間が経つとその時また不自然なことが起こった今度は部屋が小刻みに揺れだしたのだった。


 ログもハルトも半身を起き上がらせて眼を丸くした。

「今度はなんだ」とログが叫んだ。


 二人はこの揺れが風のせいだとわかった。しかし尋常でない風である。壁はもちろん窓ガラスは揺れ。そして風をきる轟音が響いてくる。そしてそのうちヒビが入っていた窓ガラスが完全に割れて破片が部屋の中に散乱して、風が二人の部屋に入り込んで、部屋の中は風が吹き、紙が舞い上がり、髪は暴れてどうにもできなかった。だがそれで風は止んだ。


「やべっ!」

「やり過ぎだよ、バカ!」と森の方から何者かの会話が聞こえて足早な足音が響きながら消えていった。


「クソが! なんなんだよ、ふざけやがって一体誰だ?」


「誰って? 突風だろ」


「馬鹿か? これは魔法だ。誰かが魔法で風を操ったんだ」


「魔法? これ魔法なの? 魔法ってこんなこともできるのか?」


「ああそうだよ」とまた眠ろうとした。


「誰がなんのために? このまま寝るのはまずくないか」


「だったらお前は起きてろ、俺は寝るからな」

 ログがいびきを鳴らしはじめたがハルトは眠ることができなかった。だいぶ時間が経ってもそれからは特に何も起きなかった。


 浅い眠りから起きて居間にいくと朝早くから読書していたケイトに昨日の夜ことを話した。


「ハルト、今日は早かったな。お前にも魔法使いとしての生活が身について嬉しく思う。魔法使いというのは規則正しい生活が模倣とされているからな」


「いや、ちょっと聞いてください、ケイトさん。昨日変なことがあったんです?」


「変なこと?」


「なんか銀色の騎士みたいのが外を歩いていたんです。変じゃないですか? 僕びっくりしちゃって幽霊じゃないかって」


「はあ、なんだそんなことか……」と別にケイトは驚かずにつまらなそうな反応をした。


「それに突風が吹いて」


「ふーん」しかしケイトは意外にも表情を変えずに、むしろ呆れたように話しを聞いていた。


「はあまた始まった」


「ケイトさん何か知ってるんですか?」


「いいや、別に」


「それで窓が割れて」


「あっ? いまなんて言った?」


「窓を割ったって」


「なんだと? お前たちは寮の窓を割ったのか!」と突然椅子から立ち上がるとそう言い放った。


 ケイトは即座にハルトとログの部屋に行った。乱雑に散らかっている部屋を見てケイトは叫んだ。


「なんじゃこりゃ! めちゃくちゃじゃないか」


「うるせえな、なんだよ」とまだ寝ていたログが起きた。


「ログ! これはどういうことだ!?」


「ああっ!? 知りませんよ、たぶん誰かが魔法でやったんですよ」


「これは問題だぞ。学校に報告しなくては。これから新入生は全員招集されることになるから覚悟していろ」ケイトは足早に寮から出ていった。

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