第11話 魔法学校の伝統行事

 朝、授業が始まる前に学生たち、初等生も中等生も上等生も全て校庭に集められた。初等生たちは何やらざわついていたが、中等生と上等生たちは落ち着いていた。

 

 前方には1人の中年の魔女教師が立っていた。その横には生徒会の面々がいてその中にケイトもいた。

「初等生はご存知ないかもしれませんがわたくしはリヒテンシュタイン、生徒指導を担当しています」と魔女先生が毅然として言い放った「今朝、初等生の寮で問題が発生しました。由々しき事態です。寮の一部が破損しました。それも魔法を使用して、おそらく中等生か上等生の仕業でしょう、こんなくだらないことをしたのは」


 シ―――――――――――ンとして中等生と上等生は無反応だった。


「まあいいです。わたくしは犯人探しをするつもりはありません。あなた達がこんなことをした理由はわたくしにもわかります。これはアリストン魔法学校に伝わるくだらない伝統のせいです。入ってきたばかりの初等生にイタズラして驚かせる、このような我が校に伝わるくだらない伝統行事があることは学校側も把握しています。確かに伝統を守ろうとするのは悪いことではありません。けどやり過ぎです。毎年どんどんイタズラはエスカレートしていき悪質になっています。わたくしがここで在校生のときは帽子にカエルをいれられる程度のかわいいものでしたよ。しかし近年イタズラにしては度が過ぎています。それだけではありません。昨日から初等生の寮で色々な問題が起きています。そこで魔法を使用することを禁止します。つまりしばらく実習のとき以外は魔法具は学校が預かることとします。これは生徒会も了承したことです」


「「「「な!?」」」」と上等生と中等生が反応した。

 そして口々に叫びだした。

「ふざけるな、魔法具を預けるなんて横暴だ!」「生徒会はなにをしているんだ!」「冗談じゃない、魔法具を預けるなんて」「どうにかしろ!」「生徒会は教師共の言いなりになったのか!」「これがアリストン魔法学校の伝統だろ」「伝統を守って何が悪い」「窓ぐらいで! 俺のときは溺死しそうになったのに!」「おい初等生! お前らが軟弱だからこんなことになったんだぞ!」「今年の初等生はなっておらん「生徒会は生徒を守れ!」「学校の横暴を許すな!」「うるせえ! ババア!」


「ちょっとそこ! いまババアって言ったのは誰です! 許しませんよ」とリヒテンシュタインが激怒した。


 シ―――――――――――ンと中等生と上等生は急に静かになった。

 初等生はまだ学校の空気に馴染んでいないのでその様子に萎縮していた。


「いいですか、みなさんちょっとやりすぎです」とリヒテンシュタインが答えた、昨日の夜に我が校で由々しき事態が起こりました。ある寮では窓が割れ、ある新入生は落とし穴に落ちて腕を折った。ある新入生は魔法で反撃して生えてる木を燃やして火事騒ぎです。そこで学校は生徒に授業外での魔法の一切の使用を禁止を要求します。生徒会もこの要求を呑むことにしています。魔法をこのように悪用したのなら当然の報いです。魔法具がなければ我々魔法使いは魔法を使用できない。初等生の入学式が終わるまで学校がすべての魔法具を預かることとします」



「ちっ魔法具なしでやるしかねえか」「昔は魔法なんて使わなかったからな」「ちっ骨折するなんて情けねえ」「よし、今度はなにする?」「こんな問題にした初等生に一泡吹かせてやる」「なあトラップ仕掛けようぜ。足が縛られて上に上がるやつ」「いいねそれ」と小言で上等生と中等生は話し合っていた。


「今日は怪我をした生徒の治療や、破損した箇所の修復もありますしさらに反省の意味を込めて授業は中止いたします。これで集会は終わります」とリヒテンシュタインが言い放った「けど、どうせあなた達のすることなどわかっています。魔法が使えなくなったら魔法なしでイタズラを継続するに決まっています。今日からしばらく初等生の寮は生徒会と教師が見張ります。もしまた問題を起こせば今度は厳正に処罰しますから、そのつもりで」

 そうして生徒たちは魔法具というのを学校へ預けた。



「自習なんてラッキーだな。授業なんてめんどくさいからな」とログが自分たちの部屋で横になりながら言った。


「まあな」

 そこで部屋にケイトが入ってきた。

「おい、ハルト謹慎だからって怠けている暇はないぞ。今日も修練だ。お前はまず魔力エトスの習得をしなければならない」


「ケイトさんは?」


「私は生徒会の仕事がある。お前の特訓は引き続きスタンダールに頼んである。昨日と同じ広場にいってくれ」


「あれ? 俺は?」


「ログはエイハブのときに魔力エトスを感じられた。ひとまず合格としておこう。ま、ハルト一人教えるのに大変だと思うからな」


 それで広場にハルトは向かった。また上等生のスタンダールが立っていて、しかしなぜかレミリアもいた。

「あれなんでレミリアがいるんだ?」


「なんでってなによ。僕はあんたを手伝ってやろうって」


「ふーん」


「あんた噂になってるのよ。魔力エトスも使えないで入学してきたって」


「噂? なんで?」


「そりゃそうでしょ。初等生なんて顔見知り多いし、ハルトのこと……あいつは誰だ? って話になるじゃない。僕のルームメイトが魔力エトスも使えなかったら情けないじゃない」


「まあ私一人よりレミリアさんがいてくれたほうがいい。それではハルト君は魔力エトスを感じるところから始めよう。メディオケ非魔法使いの家系であるハルトくんは魔力エトスを感じられない。けどほとんどの魔法使いの家系に生まれた人は魔力エトスを感じ取れるし、魔力エトスを扱うことができる。それはどうしてだかハルトくんわかるか?」


「いいえ」


「それは生まれる前、腹の中にいるときに母親が魔力エトスを使っていたからだ。魔法使いの家系なら母体の身体を通して魔力エトスを受容できる素養が備わる。しかしメディオケである君にはそれがない」


「それじゃあどうすればいいんですか?」


「今から身近に魔力エトスを受けて地道に魔力エトスを感じていくしかない。ええっとではハルトくん、地面に座ってリラックスして、目を閉じてください」


 ハルトは言われた通りに地面に膝をつけて目を閉じた。


「えっとレミリアさん、彼の頭に触れてください。そして魔力エトスを纏ってください。どうですハルトさん、なにか感じましたか?」


「いえ全然……」


「ハルト、君はやっぱり駄目みたいね」


「おいレミリア本当に魔力エトス出てんのか? 全然なにも感じないぞ」


「コラ! 僕を馬鹿にしてるのか! 僕はカーバインの一族だ。魔法界の名門だぞ! 名門! 貴様が感じられないだけだ!」


「えっ? カーバイン家? レミリアさんってカーバイン家なの?」そうスタンダールが驚いた。


「ほら。スタンダールさんはもちろんおわかりですよね」と得意げに言った。


「なにそれ? 有名なの?」


「ハルトくんは知らないのかい? カーバイン家っていったら魔法界で有名ですよ」


「そうでしょう? その証拠に、これがカーバイン家に代々続く魔法具であるレイピアです、あれ?」レミリアは帯剣しているレイピアの柄に手を置こうとしたがそのレイピアがなかった「そうだ魔法具は没収されてるんだった」


「はあ? そういえば魔法具ってなに? なんか謹慎とかいってあのババアが預かるっていってたけどさ」そうハルトが口を挟んだ。


「あんた本当になんにも知らないのね」


「はあ」


「魔法を使うには魔力エトスだけじゃなくて発動するために道具が必要なのそれが『魔法具』僕はレイピア、カーバイン家が代々受け継いでいる魔法具だ」


「ああそう……」


「あんた全然わかってないでしょう」


「いやわかるけど、魔法を使うのには道具が必要なんでしょ? そういえば前に会った魔法使いも杖を持ってたから」


「それにしても君がカーバイン家だったとは……実は僕が初等生のころ、君のお兄さんが上等生にいて指導役だったんだよ」


「えっ? 兄が?」


「そう。君のお兄さんは優秀で、成績も一番だった」


「……そうですか。まあ雑談はこれくらいにしてハルト、さあ訓練を再開するぞ!」



 それから何度もレミリアは魔力エトスをしかしハルトには一向にレミリアの魔力がわからなかった。


「ああーだめだ。全然わからん!」とハルトが叫んだ。


「やっぱりメディオケ魔法使いの家系でないじゃ駄目かも」


「うるさいな!」


「まあハルトくん、今は感じることができなくてもいずれ魔力エトスを感じられるようになるさ」


「もう無理です。僕には魔法使いの才能なんてないんです!」


「ハルトくん、諦めちゃだめだ。信じる心が魔力エトスになる」


「信じる心が?」


「ええ、その心こそが魔力エトスの源泉なんだ。自分の力を信じて、魔力エトスを」


「けど僕はメディオケです。魔力エトスなんて」


「ハルトくん、実は僕もメディオケでね。魔力エトスに目覚めるのに僕も苦労したよ」


「スタンダールさんってメディオケなんですか?」


「ああ、僕も君のように周りから白い目で見られたさ。けど自分を信じていた。自分には超越的な力がある。そう思っていたから魔力エトスがわかった。今では魔法も使えるようになっている。君も頑張って魔力エトスを開放させるんだ」

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