第4章 課外授業

第31話 苦手な先生から呼び出しがかかる

 今日も訳の分からない授業が終わって寮に帰ってくつろいでいるとケイトが入ってきた。

「明日は課外授業だからきっちり準備しておくんだぞ」

「へいへい」とログがやる気なく返事した。

「おいハルト」と顔を見るなりケイトが言ってきた。

「なんですか?」

「カンハ先生がハルトのことを呼んでいる」

「えっ? なんであの人が」

「さあな、けどあの先生ハルトのことを気にかけていてな。随分カンハ先生に評価されているのだな」

「評価されてるわけじゃありませんよ。それにあの人苦手なんだよなーなに考えているのかわからないし」

「カンハ先生に直接呼び出されるなんて名誉なことじゃないか」



 ハルトは仕方がなくあの先生がいる嘆きの塔に向かった。またあの気味の悪い実験動物が瓶に詰められた部屋を抜けると奥にカンハがいた。

 カンハは座っていた椅子を反転させてハルトと向かった。

「来たな」

 薄暗くってロウソクのゆらゆらした明かりがカンハの顔を照らしていた。

「カンハ先生、僕になんの用なんです?」

 カンハは少し沈黙して鋭い目を向けた。普段飄々としていて何を考えているかわからないカンハだが今は冷たさすら感じた。

「フレイドとどういう関係だ?」

(やばいぞ。夢にフレイドの名前が聞こえてくるなんて言ったらとんでもないことになりそうだ)

「なぜ命を狙われる? 貴様が命を狙われる理由があるはずだ」

「だから知りませんって!」

「あいつはフレイドだったのか?」

「さあ知りませんよ」

「……貴様フレイドの息子か?」

「はあ!? 違いますって」


 カンハは立ち上がって歩いてなにやら棚にある研究道具を見物しだした。

「それか貴様の母親がフレイドとなんらかの関係があるか」

「そんな僕は村で生活している普通の父と母が親ですよ」

「貴様の父親はどういう人物だ。そいつがフレイドじゃないのか?」

「名前が違いますって、それに魔法使いではないですよ」

「偽名を使っているだけじゃないのか? それで田舎の村に潜伏している可能性だってある」

「あの、もし息子だとして命を狙われる理由がわかりません。それに殺そうとするにしても僕の父親が僕のことを殺そうと思えばもっと前に殺せるはずです」

「……それもそうだな」

「あの、この前の男がフレイドではなかったのですか?」

「奴にしては簡単に殺せた。何か不可解なことが多い」

「そういえばあの死体はどうなりましたか?」

「ああ、あれならしばらく観察してみたがなんともない」

(しばらく観察したって……自分で殺めといて生き返るとでも思っているのか? この人は……)

「死体が腐りそうだったから」とある方角を指差した。

 大きな瓶に死体が丸められて茶色の液体に漬けられている。あの時ハルトの命を狙った中年の男が死んだ目をして茶色い液体に沈められている。ハルトはやはり気持ち悪いと思ったというかこのカンハという先生も不気味で何をしでかすかわからないやつだと思った。

「それにしても不思議なのはこいつの格好だ。どこかの民族衣装なのだろうか? 首に巻いているこのシマシマの模様の布はなんなんだろうか?」

「さあ。それで用件はそれだけですか? もう帰りたいのですけど」

「ふん、貴様のことは色々と指導役から聞いたぞ」

「聞いたって何を」

「貴様、どうやら学校の授業にもついていけないようだな」とカンハが落ち着いて言った。

「はあ」

「なんでも魔法を使えずにこの学校に入学したとかメディオケ魔法使いの家系出身ではないらしいな」

「そうですけど」

「駄目だな。このままなら退学になるぞ」

「退学になったって構いません。僕は別に魔法使いなんか興味ないんですよ」

「ほうそれでいいのか?」

「別に魔法使いになんの感慨もありませんから、退学になれば故郷に帰ってのんびり暮らしますよ」

「だがお前は命を狙われている。魔法を身に着けなければ対抗策はない。殺されることになるぞ」

「……」

「今回のように私が近くにいて助けることも難しいときだってある。いつでも誰かが助けてくれるとは限らんのだ。それで貴様魔法は扱えるのか?」

「少しは……」

「少し?」

「ええ」

「なら私に魔法を見せてみろ」

「魔法を見せようとも魔法具がありません」

「なに? 持ってきてないのか? 魔法使いなら普段から身につけてみるものだ。それならここまで呼び戻せ」

「呼び戻せってそんなことできません」

「なんだそんなこともできないのか?」

「いえ、魔法具自体を持ってないんですよ」

「持ってないとはどういうことだ?」

「正確に言うと魔法具を持っていたんですけど壊れたんです」

「魔法具が壊れた?」

「はい」

「魔法具が壊れるなんてことはありえない」

「えっ?」

「当たり前だ。壊れたら魔法具の意味がないだろう」

「でも本当に粉々になったんです、まだローンが残っているのに」

「どうして壊れた?」

「魔法を発動したら粉々に砕けまして」

「なんだと? その魔法具を使ってどのぐらいになる」

「さあ二週間とか」

「……それはおそらく膨大な魔力ソウルに耐えられなくなったのだ」

「膨大な?」

「魔法具というのは自分の魔力ソウルが染み込んだ道具だから本来の物としての耐久力を超えた強靭な物となる。しかし魔法具というのは幼少のときから微弱な魔力ソウルで使って自分の魔力の成長と共に魔法具も成長していくのだ。だがその魔法具が魔法具として使用した年数が少ないから耐えられなかったのだ。だから壊れた」

「それってつまり僕の魔力ソウルが強いからあの杖が耐えられなかったということですか?」

「そうだ」

「そんな馬鹿な、ハハハッ。僕にそんな才能があったなんて」

 ハルトは自分に魔法の才能があったのかと思って少し嬉しかった。

「あまり、調子に乗るなよ」するとカンハは机に飾ってあった人間の頭を手にのせて光ったと思ったら粉々に砕いた。「少し魔法の心得がある者ならそんなこと簡単に起こり得ることなのだ」

「はあ」

「貴様はまず魔法具で弱い魔法を使って魔法具を慣れさせるしかないな」

「でも魔法具がないんです」

「魔法具なんて何でもいいだろう。最悪自分の使っているスプーンでもいいんだ」

「でもスプーンを魔法具にしたら食事するときと魔法使うときよくわからなくなるじゃないですか。それにみんな剣だとか指輪とかかっこいい道具を魔法具にしているのに僕だけスプーンなんて」

「なら普通に杖を買え」

「お金がないんで……」

「……ならいいのがある」そう言ってカンハは雑多な部屋の奥に引き込んでからやってきた。手には黒い手袋を握っていた。「これを魔法具にしろ」

 ハルトはその手袋を受け取った。薄くて黒い革の手袋だった。

「これは?」

「以前誰かが使ってた魔法具だ。これを使え」

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