第29話 どこなんだよ……職員室……

 一方その頃ハルトは走っていたがやっぱり職員室がどこにあるのかわからなかった。

 助けを呼ぼうにも学校は閑散としていて普段なら騒々しいのに誰もいない。だがちょうど廊下の先から二人組の男の中等生が正面から歩いてきた。


「ちょっと聞きたいんだけど!」とハルトは二人を呼び止めた。

「あ?」と一人が言った。

「職員室はどこにいけばいいんですか?」

「本館の一階」ともう一人が答えた。

「本館の一階? 本館のどこ?」

「南側」

「南側ね。ありがとう」

「あと本館の二階にもある。授業の合間に先生が使ってるところ、小さいけど。それは北側」

「北側? わかった。ありがとうございます」

「でも今日は先生だれもいないよ休みだから。二番館の方の教員室にいるよ」

「えっ? 二番館ってどこです?」

「二番館は二番館だろ。なあ」

「なあ」

 ハルトが振り向くとあの男が包丁を持って走ってきた。

「ゲェ!」

 ハルトは驚いて逃げた。男もハルトを追いかけていった。中等生はその追いかけっこをしている二人を見つめた。

「なんだありゃ?」

「今年の初等生は外れだな」

「ああ」



 追いかけられているハルトは次第に校舎から離れて古びたレンガ造りの倉庫のようなものが立ち並んでいる場所にやってきた。ハルトは走りっぱなしで汗が噴き出て腹部が痛いのに相手は無尽蔵のスタミナで追ってくる。

「もう駄目だ……こんな苦しい思いするなら戦った方がマシだ……」

 ハルトは立ち止まって息を吸って吐いて背後からやってくる相手を待った。

「ようやく諦めたか」息を切らさずに相手が言った。

「もう逃げるのはやめだ。僕だって魔法使いなんだ」ハルトは相手を指差した。

(そうだ、スタンダールと戦ったときに確かに僕は魔力ソウルを使えていた。それにログだってやれたんだ。僕ができない道理はない! ログがあいつをぶん殴った時そういえば魔力ソウルを感じた。僕も魔力ソウルを練り上げれば」

 ハルトは一呼吸して魔力を練り上げた。体に力がみなぎって魔力ソウルが体にほとばしる。 彼は意識せず間違いなく人間の力を超えていた。彼は知らずに体内の魔力ソウルを自分の身体能力に転化させていたのだった。


「死ね」男は包丁をハルトに向けて包丁の先が赤く光った。

 その時ハルトは果敢に相手に向かって走り出した。その時のハルトは確かに常人を超えた速度で向かっていた。そして体勢を低くして相手の光線を避けると拳を握って男の顔面に向かって真っすぐに伸ばした。

 ハルトの拳はまっすぐと相手の左頬にクリーンヒットした。

「やった!」

 しかし相手は微動だにしなかった。

「なに!」

 男はハルトの首をつかむと体を持ち上げて地面に叩きつけた。そして錆びた包丁の先をハルトの顔に向けた。

「終わ……りダ」

(こ、殺される!!)

 だがその時、ゆっくりとした甲高い足音がハルトの頭の先から響いてきた。ハルトが足音の方角に目を向けるとカンハが確かな足取りでまっすぐにこちらに向かってきた。


「フレイド」と立ち止まるとカンハがいった。

「カ……ン……ハ」と男が答える。


(こいつがフレイドだって!? 僕の夢の中で呼ばれてた名前だ)


「さすが私の弟子だ。やはり生きていたか……だがしばらく見ない間に随分老けたな」

「カンハ……」

「うれしく思うぞ、貴様をこの手で殺せることを」

 カンハは持っていた杖を男に向けると赤い光線を放った。

「ガハッ!」

 男の胸に風穴があいて口から血を吹き出してそのまま地面に倒れ込んで絶命した。

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