第24話 悪魔

「なっ!? 先生!」

 甲冑が人間の跳躍力をはるか超えて飛び上がってハルトに向けて剣を振り下ろした。甲冑の持っていた剣は地面に突き刺さり、折れてしまった。

「やはり普通の剣ではだめだな」

 ハルトは間一髪で避けていた。

「くッッ!!」

「よく避けたな。褒めてやる」

「せ、先生……どうして……どうしてシャルを?」

「ふふふ……金のためさ」

「金のため? やっぱりあの上等生も先生が殺したのか?」

「御名答。エイハブを殺してこの鎧の中に入れて生きているように見せかけたのだがな。よりにもよってお前たちに疑われてしまうとはな」


「おっおいハルトこいつはいったいどういうことだ?」

「父さんは黙ってて僕の後ろを離れないで!」

「ふん、お前たちも無駄に嗅ぎ回らなければ死ぬことはなかったのに。ハルト君、君にはなんの恨みも用もない」

「それなのにどうして僕を殺そうとする」

「知ってしまったからだよ。私が悪魔だって」

「先生……どうして悪魔に?」

「ふん、悪魔には高等な考えを持つものもいる。魔法使いが最も権力を持っていたとされる魔王時代の復興を目指している者や現在の魔法協会に対して不満を持つ者、それらが悪魔になる。だが私は違う、金のためだ。金のために魔法使いを殺している」

「金のため?」

「アンダーグラウンドの世界では魔法使いの命は取引されている。お前たち魔法使いを殺せば金を支払うやつがいる」

「な、なんだと?」

「おおかた魔法使いのことを恨んでいる資産家がそんなことをしているのだろうが、どちらにせよ、ろくでもないことだ。まあいい、私は金が手に入るのですから」

「金のためだって! そんなつまらないことのために! 悪魔になったのですか?」

「教師の給料を知っているか? 馬鹿らしい限りだ。それなら副業で悪魔として活動したほうがいい。私は旨いものを食って、いい服をきて、面白おかしく暮らしたいだけだ。そこでだ、一流の魔法使いを殺すのは大変だ。だがお前たちのような学生を殺すなんて簡単だ。例えばリーク・リクドフィンなんて五千万マネーの賞金がかけれらている。だがあいつは私より強い。しかしこいつなら容易く殺せる。シャルマン・クランベリー、魔法使いの名家だ。そういう名家の子供は高い賞金がかけられている」

「なっ!?」

「将来的に魔法協会の重鎮になる可能性があるからな。だがお前のようなボンクラを殺しても一銭にもならない」

「おいハルトこの男は何を言っているんだ?」

「父さん、危険だ。僕から離れないで」


「死ね」

 甲冑がものすごい勢いで向かって来てハルトに殴りかかってきた。ハルトは両手で防御した。

「くッ! なんて威力なんだ」

「さっさと鎧に殺されろ」

「舐めるな!」

 ハルトは甲冑に向かって蹴りを入れた。

 カ――――ンと甲高い音が響いたが甲冑は微動だにしない。

「なっ!」

「無駄だ」


(甲冑を破壊しなければ……だがおかしい、これほど機敏に動かせるものなのか? 寮にいたときはチグハグな動きだった。だがスタンダール自身が魔法で操っている様子はない)


「……先生、まさかその鎧『自体』が魔法具なのか?」

「……よくわかったね、ハルト君。そうこの鎧すべてが私の魔法具なのだ。私は自分の魔法具を自由自在に操ることができる」

「そんな馬鹿な、これはクラウゼルって大昔の魔法使いの物じゃないのか?」

「そう、これはクラウゼルの魔法具だ」

「どういうことだ?」

 また鎧はハルトと父親に向かってきた。

「は、速いッ」

「当たり前だ。この前は私は自動オートで動かしていたからチグハグな動きしかできなかったが私の見ているところでは人間以上に機敏に動かせる」

 だがハルトは甲冑の折れた剣の攻撃を避けていた。機敏に動かせるといってもまだまだ人間レベルだった。元々鈍重なフルアーマーの甲冑の攻撃をなんとかハルトは避けていた。

「なかなか動きはいいようだな。だがそれも『』だがな。魔法使いの動きではない」


(このままでは……いずれ甲冑の攻撃が当たる。魔法具は破壊できない。ならば本体だ、本体を狙うしかない! だけどこの距離では、相手を誘い出すしかない!)

「この程度じゃ僕は殺せないぞ!」とハルトは挑発した。

「ほざけ、メディオケが、ほう、よく避ける。だがそれで勝てるほど甘くはないな!」と突然、ものすごいスピードで一直線にハルトは向かって走ってきて顔面と腹部に打撃を加えた。たまらずハルトは地面に伏せる。

「グハッ!!」

「おやおや苦しかったか? どうだこれが魔法使いの体術だ。お前のしていることは一般人の動きだ。魔力ソウルを身体能力に転換できないお前を殺すなんぞ容易いことだ」

「なんでこんなことをするんだ……先生……」

「……別におまえたちなんかに恨みなんかない」

「魔法使い同士が争うのは魔法使いの掟に反するはずだ!」

 ハルトは苦しみながら立ち上がろうとしたがスタンダールに顎を蹴られてまた地面に倒れた。

「先生、やめてください……命だけは……命だけは助けてください」

 スタンダールは地面に伏しているハルトの腹を思いっきり蹴った。体が吹き飛んだ。

「まったく君のようなやつが魔法使いだなんてな、世も末だな。お前のような魔法使いとして戦う覚悟も能力もないやつが魔法使いになるために入学しているなんて、挙句の果てには命乞いか?」

(よしいい位置にきた)

 相手はハルトに対してそのように話をした。魔法もロクに使えないハルトに反撃されるなどとは微塵も思っていない。相手は油断している。そこに突破口はあるとハルトは考えた。

 そしてそこには甲冑が使った剣の破片が床に落ちていた。ハルトは痛そうに腹部を押さえるふりをしてその破片を拾った。そして地面に膝をついた状態になった。

「先生、やめてください。僕たちが争ってなにになります。今ならやり直せます」

「ふふふっハルト君、私も君と同じメディオケでね。魔法が苦手で、この学校にいたときはそれはいじめれたものだ。だけど偶然、展示されてあったこの鎧を見たら自然と手が動いたのだ。最初はなにかの間違いかと思ったがこの鎧は私の魔力ソウルに反応しているのだ。そして私は気がついたのだ。私はクラウゼル・オッペンハイマー・シュトラウスの子孫なのだと」

「なんだと? (自分語りしやがってこの馬鹿が、絶対にこいつは許さねえ。ぶち殺す)」

「先程、金のために悪魔になったと言っていたが本当は違うのかもしれない。このクラウゼルの鎧が血を欲しがっているんだ。魔王時代の英雄、クラウゼルが魔法使いを殺したがっているのかもしれない」


「ハルト! 大丈夫か?」と父親が言ってきた。

「うるさいやつだ」

 甲冑が父親の首を掴んで持ち上げた。

「さてハルト君、お前の死骸はここの窓から落として自殺ということにしてやる。メディオケ出身の君は勉強の苦に自殺というシナリオさ。そしてお前の父親は死体を魔法で跡形もなく消し去ってやる!」


(いまだ!!!!)

 ハルトは素早く立ち上がって手に持っていた刃物の破片をスタンダールの顔めがけて投げた。しかし刃は頬をかすめただけだった。スタンダールは後ろに数歩下がりながら頬に手を当てて血が流れているのを確認した。

「テメェ……」

「クソ! 外れたか!」

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