第23話 魔法学校に変質者が現れる!
ハルトは授業の合間にそのクラウゼルの鎧を見に来た。クラウゼルの甲冑は事故調査委員が調べてすでに元あった学校の場所に展示されてあった。展示されているといっても大層なものではない。通路に無造作に置かれているだけだった。その通路には他にも展示品があるがホコリにまみれていれその貴重さは誰もわからないものばかりだった。あまり人も通らないような道の端っこでひっそりと椅子に座らされてその甲冑は存在していた。
(うーん、別になんともないよな…)
「何をしているのですか?」
唐突に声が聞こえた。横を見るとスタンダール先生がいた。
「先生、この前リークさんの――」
その時だった甲冑の右手が動いてハルトに手を伸ばしてきた。
「うわっ!」と驚いてハルトは尻もちをついた。
「……どうしたのですか?」
「先生! いま手が、甲冑が動いたんですよ」
「……うん?」
しかし甲冑は微動だにしない。動いたはずの右手も元の膝の上に置かれている。
「そんな……見間違いか?」
「これはクラウゼルの鎧だね」
「えっ? 先生も知っているのですか?」
「ええ、クラウゼル・オッペンハイマー・シュトラウス、別名甲冑の魔法使い。今から400年以上前の魔王時代に彼の魔法具である銀色の甲冑に身を包んで幾多の魔法使いを屠ってきた伝説の魔法使い。甲冑による圧倒的な魔法防御力で相手国の魔法使いをその手で惨殺していき彼の甲冑は返り血で赤く染まったという」
「血で……」
「先生もといいましね。ハルト君こそよく知っていましたね」
「えっああシャルが言っていたのです」
「それでハルトさんはどうしてこんなところに?」
「実は今回のリークさんの事件について調べていて、この甲冑になにか秘密があるんじゃないかと思って」
「そんなことは事故調査委員にまかせておけばいいんです」
「けどこのままならリークさんは死刑になるかもしれないって」
「……気持ちはわかりますがあなたには勉強というやるべきことがあるでしょう?」
授業の開始を知らせる鐘が鳴った。
「あっ、もう授業が始まる。それじゃあ先生」
「…………」
授業が終わって寮に帰るとまたケイトが偉そうに寮生4人に話していた。
「――明日は実習があるからそのつもりで4人とも準備をしておくこと。それと一つ伝えておきたいことがある。学校内で変質者が現れたそうだ」
(まさかリークさんが言っていた真犯人か?)とハルトは思った。
「なんでも中等生の女子生徒に股間を見せつけたらしい」
(……違うかもしれないな)
夜が深くなって同部屋のログが爆睡したときにハルトは寮を抜け出して学校へ向かった。暗い学校はしんとしていて誰もいなかった。
「ハルトさん」と暗い学校の廊下で小声で声が聞こえた。
「シャルか?」
「ええ」
「本当になにかあるのかな?」
「さあ」
「それより」
「魔法具を持ってきたか?」
「ええ、もちろん」
シャルは銀のフォークを見せた。
「えっなんでフォークなの?」
「なんでって幼少の頃から使っているからですよ」
「へぇー」
そうして2人はまたあの甲冑のところへやってきた。
「なにか怪しい兆候は……ないね」
「シャル、実は昼に見に来たんだけどこの甲冑、勝手に動いたんだ」
「え?」
「右手が勝手に動いたんだ」
「そんな馬鹿な、まさか真犯人ってまさか幽霊とかそういう類の話なの?」
「この鎧が呪われているのかもしれないな」
「そんな非現実的な。鎧が勝手に動くわけないでしょう……うん? この
唐突に足音が響いてきた。ハルトたちは急いで物陰に隠れた。歩いて来たのは教師のスタンダールだった。燭台を持って鎧の前に立つとすぐにそのまま帰っていった。
「見回り?」
「そういえば昼間にあの鎧が怪しいってスタンダール先生に話したんだ。それにしてもシャルよく人が来るってわかったな」
「魔法使いは固有のソウルを持っています。魔法使いならそのソウルを感知することができます。私はそれが得意なんです。慣れればソウルで個人の識別ができるようになります」
「なら僕たちの
「私はちゃんと見つからないように学校に来たときから
「……」
夜の学校は真っ暗でところどころ窓から入る月光しか入らない。
「おい、ハルト……ハルト……」暗闇から声が聞こえた。男の声が階段の下から響いてきたのだった。
何かが階下の暗闇にいる。
「キャー幽霊!?」とシャルは驚いてハルトに抱きついた。
「だ……誰だ!」とハルトは使えもしない魔法具を構えた。
すると階段を上ってきた中年の男の顔が窓からさす光に照らされた。
「なっ人間だったのか? もしかしてあなたがクラウゼルの鎧になにかした張本人か?」と今度は冷静にシャルが言い放った。
「なんのことだ?」
「と、父さん!」とハルトは言った。
「ハルト探したぞ」
「なっ!? ハルトさんのお父さんですか……」
「父さん。どうしてこんなところに?」
「お前を連れ戻してにきたんだ」
「連れ戻しに?」
「そうだ、俺の知らないうちにこんな学校なんて入りやがって」
「父さん、色々事情があったんだよ」
「さあ、村に帰るんだ」とハルトの手を引っ張った。
「父さん! 今は帰れないんだ」
「なんだと?」
「僕が帰ったら村に迷惑がかかる。父さんだって聞いているはずだ。僕は魔法を使った。一般市民が魔法を使っちゃだめなんだ」
「なに? ハルトお前魔法が使えるのか?」
「……」
「ハルト、お前は俺の一人息子なんだ。お前がいてくれないと父さんは困る。母さんは納得したようだが心からじゃない、仕方がなくだ」
「だけど」
「そもそも魔法使いに前からなりたかったのか?」
「……いや別に」
「そうだ、お前だって仕方がなくこんな学校にいるだけだ。ならこんな学校にいつまでもいることはない」
「父さん、僕は……」
「ちょっとお父さん、ハルトさんのお父さん」とシャルが呆れたように手招きした。
「うん? なんだ?」
「お父さん、どういうつもりなのですか? ハルトさんはもう魔法使いなのです。どうして連れ戻そうなんてするのですか?」
「はあ?」
「彼は魔法使いなのですから魔法使いの掟に基づいて行動しているのです。それをあなたは邪魔しています。もしあなたがこんなところに来たのが学校に知られればハルトさんが処分されます」
「息子に会いに来てなにが悪い? ハルトは俺の家族だ」
「いいえ、ハルトさんは私の家族なんです」
衝撃の家族宣言をしてハルトも父親も驚いた。
「ちょっと娘さん、息子といったいどういう関係なんだ!?」
「えっ?!」
「いやそうだよ、シャルどういうことだ?」
「いやなんでハルトさんが驚くのです」
「いや、だって突然の家族宣言するから」
「ハルトさん、魔法使いの掟を知ってますか? 魔法使い同士は家族も同然なのですよ。それが魔法使いというものです」
「ああ……そういうこと?」
「なんだ、突然孫ができるのかと思ったぞ」
「そんなわけないでしょう。けど魔法使いの絆は家族以上なのです」
「ふん、そんなのは詭弁だ。俺は本当の家族なんだ」
「詭弁ではありません。魔法使いの結びつきというのは特別なのです。仲間である魔法使いがいれば命を賭してでも助ける。それが魔法使いというものなのです。まあハルトさん、私はは甲冑を見張りますからお父さんを説得してください」
そういってシャルは甲冑の方へ向かっていった。
「いったいどうして来たんだ、父さん」
「そりゃお前を連れ戻すためさ」
「もしかして学校に現れた変質者ってのも父さんのこと?」
「変質者? 何のことだ?」
「女子生徒に股間見せつけたっていう」
「あああれは仕方ない。小便したかったが学校のトイレを使うわけにもいかないから外でな」
「……」
「さあハルト、帰ろう」
「……帰れない。帰れないよお父さん、僕が帰れば魔法協会に捕まることになる」
「ハルト、なら父さんの老後の面倒は誰がみるんだ?」
「そんなこと知らないよ!」
「知らないだと! 税金は高くなるばかりだし物価も上昇している。それなのに父さんと母さんを置いていくのか?」
「父さん、そもそも今そんなことを話している場合じゃない」
「なんだと?」
ハルトは鎧の場所に向かって歩いた。
「いまは僕の先輩のために動いているんだ、リークさんの無実を証明しなければ死刑になる可能性がある」
「なんだそれは?」
ハルトと父親は鎧が展示されている場所へやってきた。しかし鎧はなかったのである。それどころかシャルの姿もなかった。
「シャル。シャル」と小声で呼びかけても返事はない。
「おいハルトどうしたんだ?」
「おかしい……何があったんだ?」
ハルトは走り出した。
「おい、ハルト一体どうした?」
廊下を抜けて螺旋階段にやってくると階段の上から金属音が響いてきた。ハルトは螺旋階段を駆け上がった。階段の頂上には広場があって扉を開けて中に入るとシャルと銀色の甲冑がいた。広場は夜光石が天井に敷き詰められているため非常に明るかった。
「シャル!」
「ハ、ハルトさん……」
「どうしたんだ?」
「実はこの鎧が勝手に動いて」
「そんな馬鹿な」
「本当です。突然歩きだしてここまで来たんですけどいまここに来て動かなくなったんです」
シャルは恐る恐る兜の面の部分をあげた。だが中は空だった。
すると突然、鎧がまた歩きだした。無造作になんの法則性もなく広場をゆっくりと歩いている。
「な、何だ?」とシャルが言った。
「鎧が勝手に動いている、そんな馬鹿なまさか本当に幽霊か?」
「いや、これは魔法だ。魔法の力で動いているのです。それにこの
ハルトと父親は不思議そうに鎧を追いかけて眺めていた。
「どうしたんだい君たちそんなところで?」と声が聞こえた。
シャルが振り向くとスタンダールがいた。そして手には剣を持っていた。
「先生?」とシャルが呟いた。
「……」
「に、逃げてくださいハルトさん!」
スタンダールは手に持っていた剣でシャルの腹を刺した。シャルは地面に倒れて赤い鮮血が傷口から滴り流れていた。
「シャル!」
スタンダールは剣を投げて鎧が手に取った。
「お前たち2人も死んでもらう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます