第22話 人が死んだら面倒な取り調べがある


「ではリーク・リクドフィンはなんの警告もせずエイハブ・メルヴィルに魔法を放ったわけか?」

「昨日から何度も言ってるでしょう。そうですよ」ハルトは嫌々としながら答えた。

 学校の個室で魔法協会の事故調査委員が昨日からハルトに聴き取りを行っていた。


「なんの警告も無しに人に対して魔法を放つなど問題だ。それに魔法を使用したリーク自身が襲われていたわけでない、正当防衛とは認められない可能性がある」

「あのですね。あのリークさんの行動がなければあの子だって死んでたかもしれないんですよ? リークさんが助けたんです。それで仕方なく甲冑を着たエイハブとかいう上等生に魔法を使ったんです」

「だがリーク・リクドフィンも学校伝統のイタズラだと知っていたのだろう? 今回亡くなったエイハブ・メルヴィルも驚かそうとしているだけだったかもしれないだろう、相手に殺意があるとは思えないが」

「だから何度も言っていますがそんなイタズラとかいう状況じゃなかったんですって!」


「そもそもその時、学校では授業以外の魔法具の使用は禁止されていたはずだ? どうしてリークが魔法具を持って魔法を発動できる?」

「だから魔法具を呼び戻したんです。多分学校で保管されていたのをあの場所に」

「はははっ学生の分際でそんな高度なことできるわけがない。おそらく保管されていた魔法具を取ってきて隠し持っていたに違いない」

「いや本当に手元に瞬間移動させたんですよ」

「それは君の見間違いだろう。ともあれリーク・リクドフィンは厳正に調べられ処遇が決まる。君はもう行っていいぞ」


 面倒な取り調べが終わって部屋を出ると初等生の女の子であるシャルが待っていた。

「リークさんの容態も良くなったみたいです。お見舞いしませんか?」

「ああ」


 ハルトとシャルは学校の医務室に入っていった。白い床を歩いて白いカーテンの向こうに入っていくとリーク・リクドフィンがベッドで横になっていた。

「リークさん、体調は大丈夫ですか?」とシャルが声をかけた。

「ああ、まあなんとか生きてはいるよ」金髪で碧眼の華奢な少年がそう答えた。その顔は儚くて美しささえ感じさせた。

「リークさん、気にしなくても大丈夫です。リークさんに罪はない。あれは事故だったんです」そうシャルが言った。

「……」

「私の父と祖父に掛け合って今回の件を穏当に済ませるようにしましょう」

「いいや、そんな裏工作して、もし事故調査委員にバレたら僕が余計に疑われるだけだ」

「けどリークさん、このままじゃに認定されるかもしれないんですよ?」

「君たちが気にすることじゃない。悪魔だって、結構じゃないか」


「あの……」そうハルトが呟いた「ってなに?」

「えっ? ハルトさん悪魔も知らないんですか?」

「まあ……」

「悪魔というのは悪い魔法使いのことですよ」

「いや……そのまんまじゃん」

「いいですか、悪魔というのはですね。アリストンの掟を守らずに魔法使いに危害を加えた者を悪魔というのです」

「はあ……」

「ハルトさんだって聞いたことあるでしょう? 『魔法使い同士は争ってはいけない』これはアリストンが作った『魔法使い17条』にある言葉です」

「えっ? ああそうだね」

「アリストンの17条をもとに魔法協会が定めた魔法使いの掟があるのです。もし掟を破ったら厳罰です。もし魔法使いが魔法使いを殺めたら――」

「殺めたら?」

「死刑になります」

「死刑!?」

「ええ、正当な理由がない場合はたいてい死刑です」

「死刑!? そんなあれは仕方なかっただろ!」

「わかってるますよ。だから事故調査委員にちゃんと説明したんじゃないですか、リークさんが死刑になるはずない」


「ははっははは、悪いな。初等生にまで心配してもらって」

 事故だけど人を殺めたにしては明るいとハルトは思った。

「そんな呑気な。笑ってる場合じゃありません? 本当に死刑になるかもしれないんですよ」とシャルが言った。

「大丈夫だ。そもそも本当に僕が殺したのではない。もとから死んでいた」

「もとから死んでいた? どういうことですか?」そうシャルが質問した。

「あれは最初から死んでいたんだ。僕が殺したにしては手応えがなさすぎる。まるで抜け殻のようだった」

「まさか?」

「間違いない」

「なら死んでいたのならどうしてあの甲冑は動いていたのです?」

「それは魔法だ」

「魔法? つまり誰かがすでに死んでいたエイハブさんを甲冑の中に入れて魔法かなにかでその甲冑を動かして生きているように見せかけていたということですか?」

「考えられるのはそうだ」

「そんなことは不可能です。あのような鎧を精密な動きで操るなんて、かなり高度な魔法です。それにそれを行うにはあの場にいなければ不可能なことです。あの場で魔法具を持っていたのはリークさん、あなただけですよ」

「……そうだ、だから謎なんだ。だが理屈はわからないが僕が殺したわけではない。そう感じるのだ。なにか裏があるはずだ。とにかくあのクラウゼルの甲冑になにか秘密がある気がするのだ」

「クラウゼルの甲冑?」

「ああそうだ。あの鎧は昔の魔法使いが使っていたものを学校に飾られているものだ。それを何者かが利用したのだ。僕の容疑が晴れるのも時間がかかるだろう。そこでだ、君たちにその甲冑の調べてもらいたい」


「なるほど真犯人を見つけてリークさんの無罪を証明するということですね」

「今、僕は動けない。僕が動けば証拠隠滅をしたと疑われる。だから君たちで調査してくれないか」

「リークさん、任せてください。必ずあなたの無実を証明してみせます」とシャルが意気込んだ「ハルトさんも協力してくれますよね?」

「えっ? ああ」

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