第2章 魔法学校に入学する

第6話 村を出てから

 ハルトはもう歩き疲れて早速帰りたくなった。夜に村を出て夜通し道を歩いてペレナスという町に着いたのは昼だった。街道沿いにできたこの町は交通の要所であり、宿屋が多くあり、市場なんかも賑わっている。ここには馬車の停留所があって各地域へいけることになっていた。

 この町はハルトも何度か来たことがあった。村で作ることができないどうしても必要な物はこの町で仕入れるのだ。ちょうどハルトの父親たちもここへやってきていた。だから村にはいなかったのだ。

(父さんに会えるかな? 村に帰って僕がいなくなってたら驚くだろうな)

 

 ずっと歩いてきたので当然腹も減って疲れていた。通りを歩いていると食事ができるところがあった。そこに入っていくと半ば酒場のようになっていて昼間だというのに労働者や旅人が酒を飲んで騒々しい場所だった。ハルトはここで食事をしてから馬車に乗ってアリストン魔法学校へ向かおうと思った。寝てなかったから馬車の中で眠ろうと思った。

「いらっしゃい」とカウンター越しに店主が言ってきた。

「あっあの」

「何だ。飯か酒か?」

「お酒は飲まないよ。あのホットサンドもらえますか……」

「ボウズ、一人か?」

「あっはい」

「そうか、くつろいでいけよ」

 ハルトはお金を支払って振り返った。だがそう言われても店は酒を飲んでどんちゃん騒ぎだった。しかし騒々しい中で異質だったのが1人で毅然と座って食事をしている女の子がいた。赤い髪をしているハルトと同じ歳くらいの女の子だった。しかし顔は見えなかった。彼女が大きなとんがり帽子をしていたからだ。黒いローブを羽織っていていかにも魔法使いらしい格好をしている。さらにその人は自分の背中よりはるかに大きな本を背負っていた。

 彼女はハルトに気が付かずに黙々と食事をしている。

 ハルトは彼女が魔法使いらしいことと年齢が近いことから話しかけた。

「あの……ちょっといいかな?」

「なんだ?」首も動かさずにそう答えた。

「前の席……座っていい?」

「別に私の家じゃない。勝手にしろ」

 それでハルトはその女の子の眼の前に座ってパンをかじった。

「君は魔法使いなの?」と質問した。

「いやまだだ。これからアリストン魔法学校に入学する」

「実は僕もアリストン魔法学校へ入学するんです」

「ほう」それで彼女は初めてハルトに顔を向けた。まだ子供だというのに凛々しくて落ち着いた顔をしている。

「君も新入生なの? よかった知り合いもいなくて不安だったんだ」

「知り合いがいないだと? なんだ貴様はメディオケなのか?」

「メディオケって?」

「魔法使いの家系出身じゃないってことだ」

「はあ、確かにそうだけどそれがなにか問題でも?」

「メディオケは魔法使いにはなれない」

「えっ? そんなはずはない。だって魔法学校に入学したら誰だって魔法使いになれるって」

 相手は大きくため息をついた。

「いるんだよなこういう勘違いをしている一般人が」

「勘違い? 魔法使いは誰だってなれるはずだ」

「表向きはな。魔法使いを志す全ての人は魔法使いになることができる。だが現実は違う、魔法使いは閉鎖的だ。魔法使いの家系に生まれた者が代々魔法使いになる。一般人は魔法使いにはなれない」

「そんな……」

「貴様、そもそも私塾で魔法を習っていないのだろう?」

「私塾って?」

「魔法学校に入る前に魔法協会から認定された講師が子供たちに魔法の基礎を教える。主に自分の親や親戚が講師になって魔法を教えるのだ。魔法使いが勝手に誰にでも魔法を教えるのは違法だからな」

「もちろん私塾なんて行ってないけど、けど入学は誰だってできるんだ」

「魔法学校には入学試験がある。メディオケである貴様が受かるとは思えないがな」

「なんだと? 僕だって魔法を使える」

「そもそも一般人が魔法学校までたどり着くのか?」

「どういうこと?」

「試験は明日だ。ここからアリストン魔法学校は隣町だが今から急がなきゃ間に合わない」

「君は間に合うの?」

「実は私も困っていたのだ。こんな重い本を背負っては走るのも大変だ」

「なら置いておけばいいんじゃないの?」

「いやそれはできない。呪われているんだ、私は。この本から離れることはできない」

(何いってんだこいつ)とハルトは思った。

「でも僕は大丈夫、実は馬車の切符をもらったんです」とハルトは魔法使いからもらった書類を見せた。

「ほう切符かちょっと見せてみろ」相手はそれを手に取った「それにこれは直行便だな。これがあればどこの停留所でも魔法学校まで連れて行ってくれる」

「君も入学するなら一緒に乗っていく?」

「これは一人用だ。二人乗るなら追加で料金がかかる……だが一人なら」

 突然、相手が俊敏な動きで店から出ていった。 

「おい待てコラ!」

 ハルトも追いかけて急いで店を出たが盗人の姿がない。左右を見てもどこにもいなかった。相手とは数秒の差しかないというのに通りはいたって平然としている。

「くくくくくっ」と後ろから声が聞こえて振り向くと出てきた店の屋根に盗人がいた。

「スキを見せたな馬鹿め。盗まれる方が悪いんだ」と切符をピラピラとした。

「おっお前!」

「この切符は私が頂いておく」

「ふざけるな! 返せよ!」

「ならここまで取りに来い」

「とっ取りに行く……おいお前どうやってそこに上った?」

 ハルトが眺めてみてもはハシゴや足場などのたぐいはなかった。いったいどうやって上ったのか検討もつかなかった。

「ふふふっ魔力エトスで身体能力を増強することもできないとはな」

「なに?」

「貴様は魔法使いなんてなれない。どうせ魔法学校には入学できないのだから大人しく家に帰るんだな」

「ふざけるな! 戦っても返してもらう」ハルトは人差し指を相手に向けた。

「なっ!」

「レイ・フレーシア!」と唱えたがなにも起こらなかった「あれっ?」

「……馬鹿が、見様見真似で魔法が発動できると思っているのか?」

「そんな馬鹿な前はできたのに……」

「それじゃあメディオケ君」と彼女は屋根伝いに去っていった。

「嘘だろ……」とハルトは立ち尽くした。

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