第5話 村を追放される

「ボウズ、なぜ魔法を使える? 魔法使いじゃないのだろう」

 村長の家で二人きりで椅子に座り、ハルトはあの魔法使いと対面していた。

「それは……」

「ことと次第によっては大問題になるぞ」

 夜になって部屋の中は暗くて魔法使いは奇妙な威圧感を持っていた。

「あなたが魔法を詠唱したのを聞いて見よう見まねでやったら発動したのです」そうハルトは正直に答えた。

「嘘だな。魔法を詠唱しただけで魔法は発動しない。お前は魔力ソウルの使い方を以前から知っていたということだ」

魔力ソウルの使い方?」とハルトには疑問だった。ハルトにはそのような体系的な魔法の知識など皆無だった。

魔力ソウルの使い方を知らなければ魔法は発動しない」

「本当なんです。無我夢中であなたと同じように唱えたら魔法が出たんです」

「村人に聞いたところによると、お前は以前にも魔法を使ったことがあるとか?」

「え?」

「いったい誰に習った」

「それは……夢を見たからです」

「夢?」

「はい、夢の中で僕は魔法の詠唱が聞こえたんです『レイ・フレイディア』って」

「『レイ・フレイディア』炎を求めた最初の魔法……夢を見たから魔力ソウルの使い方がわかると?」

「僕には何が何やらわかりません」

「ふん、嘘にしてはおかしいことをいう」

「なぜ?」

「魔法使いは夢を見ないからだ」

「はあ」

魔力ソウルが目覚めたら魔法使いは夢を見なくなる、有名な話だ。それにお前は『俺の杖』で魔法を発動した」

「……?」

「まあいい。とぼけているのならとんでもない悪人だ。魔法使い以外が魔法を使ってはいけないことは知っているだろう?」

「どうして一般人は魔法を使っちゃいけないの?」と素朴な疑問を尋ねた。

「それは……魔王時代、ボウズのひいひいひいひい爺さんが生まれるよりももっと前のことだ。かつてこの世界は五つの大国が覇権を競っていた。五大国にはそれぞれ魔法使いが国を治めていて魔王と呼ばれていた。もちろん魔王の配下には魔法使いがいて、国の重鎮や軍人もみんな魔法使いだった。それら五大国が戦争を行い、国は疲弊していった。毎日多数の魔法使いが死んでいった。もちろん民衆は殺戮にあった。土地は荒廃し、人々は疲弊していって人口は激減していき。ついには五大国すべて滅びることとなった」

「それで?」

「そこに偉大な魔法使いが現れて、生き残った魔法使いたちを結集させて魔法協会を設立した。彼はかつて栄華を誇っていた五大国が滅んだのは魔法使いが権力を持っていて、誰でも魔法が扱えたからだと考えた。魔王時代には野盗のたぐいでさえ魔法を使っていた。そこで彼は魔法使いは今後一切国の権力を持たずに中立的な立場で独立した存在にならなければならないと定めた。さらに魔法使いは人々を救うために活動するとした。そして魔法は魔法使いだけのもので門外不出であるとした。だから今では魔法は魔法協会に所属する者しか扱うことはできなくなっている。ここまでが魔法使いの歴史だ」

「はあ」

「これでわかったか? 魔法協会に認知されていない一般人が魔法を使用すれば厳罰に処される。さてここからがボウズの処遇についてだが……」

 ハルトは固唾をのんだ。

「最悪、処刑されることになる」

「なっ!?」

「安心しろ、それは魔法を悪用した場合だ」

「よかった……」

「だがおそらくボウズの身柄は魔法協会に軟禁されることとなる」

「軟禁?」

「そうだ、ボウズが他の一般人に魔法を教えてそいつが悪用する可能性がある。そうさせないために一生軟禁される。もちろん二度とこの村には帰って来れない。ボウズの行動は魔法協会に監視されて自由は奪われることになる」

「そんなこと、この村が……国が許すわけがない」とハルトが反論した。

「この村はバルト国にある。バルト国は魔法協会が定める魔法非拡散条約に批准している。この村にはボウズが魔法を使用したことの証人もいる。魔法協会がバルト国にボウズの身柄の引き渡しを要求すればその要求に従わざるをえない」

「そんな……」

「魔法の非公認使用は重罪なんだ」

「一生……」

 ハルトは今までの日常が全て奪われると想像した。幼馴染との日々や両親との何気ない生活それらが一切無くなってしまう。

「だがそうならない方法が一つだけある」

「なに?」

「魔法使いになれ」

「魔法使いに?」

「そうだ。魔法学校に入学して魔法使いになれば問題ない。いわば魔法使いというのは魔法を使える特権階級だ」

「そ、そんな……」

 ハルトは逡巡していた。別の部屋にいた村長がやってきた。

「ハルト、魔法を使った者をこの村にいさせることはできない。悪いが追放されることとなる」

「村長……どのみち僕に選択肢はないということか」

「だがお前は村の英雄だ。ユイの命を救ったのだ」

「僕、行きます。魔法学校へ行きます」と魔法使いに言い放った。

 村長の家を出ると母親がハルトの荷物を持っていた。

「母さん」

「魔法使いさんから聞いたの、魔法学校に入学しなくれはならないのね。ハルト、気をつけるのよ」

「うん」

 魔法使いは2つの紙切れを渡した。

「これは馬車の券だ。馬車の通っている町にいったらこれで魔法学校まで迎え。それと俺の推薦文だ。これは学校に提出するんだ。いいか4日以内に学校へ行くんだ」

「四日以内?」

「ああ、だから今から旅立ってもらう」

「わかりました」

「それとボウズ、魔法学校にいったらカンハという先生に会え」と魔法使いは言った。

「カンハ先生ですか?」

「ああ、ボウズの力になってくれるはずだ」

 暗い村の中で魔法使いと村長と母親に見守られながらハルトは出発した。村を出てしばらく歩いていると後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと幼馴染のユイが走ってきていた。

「ユイ!」

「ハルト、行っちゃうの?」

「ああ」

「そんな……」

「ユイ、魔法使いになって必ずこの村に戻ってくる」

「ハルト……」

「じゃあな!」

 育った村を背にして夜の道を歩いていった。そんな様子を一人で魔法使いは眺めていた。

「ふふふっカンハ様これでいいのでしょう? もしあいつがフレイドと何らかの関係があるのならこれで問題はない」

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