第3話 初めての魔法使い
魔法使いは落ち着いた足取りでゆっくりと村へやってきた。中年の渋い顔をした男で、黒いローブに黒いとんがり帽子を身にまとっている。
「私はこの村の村長でございます。魔法使い様、なんでございましょうか?」と偽村長が魔法使いに駆け寄った。
「いや実は商人の馬車を襲った野盗がいてな」
「はあそうでございますか」
「私が護衛していたのだがね。野党たちが荷物を奪おうと攻撃してきた」
「はい」
「だが返り討ちにしたのはいいがこっちも商人が怪我をしていてすぐに動けなかったのだ。ここにその野盗が逃げ込んでいないか?」
「いえ、そのような者はございませんが」
「そうか、なるほど」
その会話の様子を村人は一定の間隔で眺めていた。もちろんハルトも見ていた。
「腹に怪我をしているやつがいる。そう遠くには逃げられないはずだ」
「魔法使い様、そうおっしゃられてもここにはきてございません」
「そうか。それは悪かった。ところでお願いなのだが商人たちの一団をここで休ませてくれないか? 怪我もしていることだし」
「それは無理な提案でございます。この村には魔法使い様たちも迎えるような場所も余裕もありません」
「金は払うが」
「ですから受け入れる食料も余分にはございません。眠るところも用意できないのでどうかご勘弁を」と偽村長がいう。
「なんだこのラトナシ村には何もないのか?」
「そうでございます。このラトナシ村には何もございません」
そこで魔法使いは不敵に笑った。
「ふーん、あんた村長なのに自分の村の名前も知らないんだ」
「……」
「ここはシナトラ村だろ。さっき歩いて来たときに村の看板があった」
偽村長は魔法使いに飛びかかった。しかし魔法使いは軽々と相手の顎に一撃を加えて倒した。
「村民は安心してくれ。悪人は私がすべて倒す」
その様子を目撃して一人走り去っていく者がいた。野盗の仲間だった。
「逃げるぞ!」と村民が叫んだ。
魔法使いは杖を手に持つと構えた。
「【
閃光は走っていく男の背中に当たって倒れ込んだ。
「他にはいるのか?」
「ああ、村長の家にいる」と村民が家を指さした。
「よし」
魔法使いは走り出した。人間とは思えない疾風のごとき速さで村長の家へ向かった。
村人たちは魔法使いに遅れながら村長の家に到着すると魔法使いは家の前で立ち止まって野盗と対峙していた。
「間抜けな魔法使いだ! あんなに派手にやれば気がつくに決まっているだろ」とリーダー格の男がユイの首に刃物を当てながら叫んだ。
「この国の法律なら人を殺したらお前は殺されても文句はない。刃物を捨ててその子を開放しろ、そうすれば命は助かる」と毅然として魔法使いが言い放った。
「馬鹿が! 俺様はすでに4人も人を殺してる。さっきだってこの村の人間を殺した。4人だろうが5人だろうがかわらねえ」
「関係ない娘だ。殺して何になる?」
「うるせえ!」
「ふっ慈悲もないということか?」
「貴様が邪魔しなければこんなことにならなかった!」
「仕事だからな、お前が馬車を襲わなければ腹に穴が空くこともなかったのにな」
「口の聞き方に気をつけろ! ふん、お前のような馬鹿な魔法使いは余計なことをして死ぬことになる。魔法は道具がなければ使えない。おい! その杖を捨てろ!」
魔法使いは黙っていた。
「早く置くんだ! この娘が死んでもいいのか!」
「わかった、わかった。あんまり興奮するなよ」
魔法使いは杖を地面に置いた。
「下がるんだ!」
「はいはい」
頭領がやってくるとその杖を横に蹴り飛ばした。その杖がハルトの足元へ滑り込んできた。
「おい、この魔法使いを殺せ」と頭領が手下に命じた。
手下は落ちていた斧を拾い上げると魔法使いにゆっくりと近づいてきた。
「もしお前が反抗したらこの娘は死ぬことになる」と頭領が言い放った。
(マヌケが、そう来ると思ったよ。その娘を殺せば俺に殺されるのだからな。娘よりも俺を殺そうとするだろう。だがこの距離なら杖は俺の手に引き寄せられる。この手下が俺に攻撃をしてきた瞬間、一撃で倒す、そして杖を手に引き戻してあの頭領の脳天に魔法を直撃させる)と魔法使いはそんなことを思っていたが脇で見ていたハルトが彼の杖を拾い上げていた。
(そういえばあの魔法使いなんて詠唱していたっけ……)とハルトは思った。
(なっ?! あの子ども俺の杖を)
魔法使いはその様子を横目で見た。ハルトが杖を持っていては自分の手に引き寄せることができないのだ。魔法使いを殺そうとする手下がどんどんと近づいてきて目前まできた。
手下は斧を振り上げた。
「ボウズ! その杖をこっちに投げろ!」
魔法使いは振り下ろされた斧を手で掴んで反対の手で顔面を殴った。手下は後ろに吹っ飛で倒れた。
「てめえ! やりやがったな。この女を殺す!」と頭領が叫んだ。
「ハルト!」とユイが叫んだ。
(クソ! 遠すぎる、これでは間に合わない)と直接助けようとした魔法使いだった。
人質と頭領の横にいたハルトは杖を頭領の脇腹に向けると唱えた。
「【
杖の先から白い光線が出てきて頭領の体に当たると吹き飛んでいった。
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