第2話 これからも遊んで!
「なあ莉子、今からデートしに行かないか?」
「――――! 行きたい行きたい! どこ行く!?」
あれから数カ月……2人は今も仲良く交際を続けている。
季節はもう冬に近づいていた。
子ども遊びが好きな2人にとって、冬になるとぐっと遊びが少なくなる。
「俺の家でボードゲーム! なんてどうだ?」
「――――!? 良いね賛成! でもそれってデートじゃないような……?」
「た、確かに……」
「ま、良いか! 前も行ったし、しょーの家ならしょーともっと近くに居られるし!」
「莉子……さらっと嬉しいこと言うじゃないか」
「あはは! だってうち、しょーのこと大好きだもーん!」
そう言って莉子は勝の腕に自分の腕を絡ませた。
もちろんここは校舎の中。
しかも生徒たちがいるところで堂々と。
あの後、莉子はすぐに同学年の生徒たちに勝と付き合い始めたことを公言した。
最初は真彩以外全員が青筋を立てていたが、2人の仲の良さを目にした瞬間、自然と見る目が変わっていった。
もちろんスーパー問題児には変わりはないため危険視されているが……。
少しずつクラスメイトから話しかけられることが多くなった。
一方で勝はというと……。
「おい勝! 西城 莉子の尻に敷かれてないか!?」
「してない。逆に向こうが俺に甘えてくる」
「え”!? あ、あんな感じのやつが!?」
「俺もちょっとびっくりしてる。確かに振り回される時はあるけど、よく俺を抱きしめてくる」
「へえ〜。結構意外だな。もしかして……西城 莉子って案外良い子?」
「ああ。普段はあんな感じだから暴君みたいなイメージあるけど、実はめちゃくちゃ良い子なんだよ。何ならこの前俺の家に来た時に、俺の母さんと料理一緒に作ってたし」
「はっ!? お前の家に来てたのか!? しかも親も知ってるのかよ!?」
そう、実は勝と莉子の両親は2人が付き合っていることを知っている。
しかもしっかりと顔を合わせている。
2人の両親は2人の交際を認めていて、「遊びに来れば泊まっていきなさい」「また遊びに来てね」と言うほど家に訪れることを歓迎している。
どうやら、双方の親は勘で2人は絶対に上手くいくと確信しているようだ。
「そ、それで! 西城 莉子とは……あんなことこんなことしたのか?」
「そ、それは……なりかけたことはある」
「ま、まじか! でもなりかけたってことは……ヒヨッたってことか?」
「ま、まあそうだな……。俺もそうなんだけど……向こうも拒否ってきた」
「へえ……意外としっかりした子なんだな。お前……めっちゃ良い彼女持ったな!」
「そうだな。いつの間にか莉子のことを好きになったのも、どこかで良いやつだって感づいていたんだろうな。今は莉子と付き合えて良かったって思ってる」
これはもちろん本心だった。
勝は心から莉子を愛していて、大好きで、大切な人。
そのため、莉子に会えば必ず「大好きだ」と伝えている。
「あっ、しょー!」
「――――! びっくりした莉子か。もう良いのか?」
「うん! あ、そうそう! 真彩からダブルデートしない? ってアイデアがあったの! うちは全然大丈夫だけど、しょーは大丈夫?」
「俺は全然大丈夫だ。じゃあ……悠真またな!」
「ああ、また明日な!」
勝は仲が良いクラスメイト、
その間も2人は仲良く手を繋いでいた。
「あ、やっと来た!」
「ごめーん! ゆっくり歩きすぎた!」
莉子は真彩を見つけた瞬間、駆け寄って抱きしめた。
そして彼氏組はというと……。
「勝先輩お疲れ様です!」
「お疲れ様。そうだ、今日もゲームやるか?」
「やりましょうやりましょう! あのゲームにすっかりハマってしまいましたよ! ハマりすぎて気づいたら夜が明けてました」
「それは完全に沼にハマってるな。でもあんまやりすぎるんじゃないぞ?」
「自制しているつもりなんですけど、ついつい……」
「それはすっごい分かる!」
2人が大好きなゲームの話で盛り上がる。
しかしそこまで深い話はしない。
何故ならこの後はこれが目的ではないからだ。
今日の目的はダブルデート。
今回が初めてのため、提案した真彩も含めどうすれば良いのかよく分からない。
「ダブルデートって言ったけど……何をすれば良いんだろうね?」
「真彩頭悪いから分かんない」
「自分で言っておいて!? そうだな……」
「まあとりあえず、いつもデートで行く時の場所に行ってお互いのカップルのデート場所を知るっていうので良いんじゃないかなって僕は思うけど……」
「おお、さすが拓真! じゃあに俺は賛成」
「うちも賛成!」
「真彩も! じゃあ出発進行っ!」
握りこぶしを天に突き上げながら歩き始めた真彩。
残りの3人も彼女についていくように歩き始めた。
拓真・真彩カップルのデート場所は小さな喫茶店だった。
外観も内装もかなりおしゃれで、飲み物もかなり美味しいちょっとした隠れ名店だ。
この2人の帰宅するルートの途中にあるため、ついでに寄っている。
そして、勝・莉子カップルのデート場所は……。
「着いたよ!」
「ここって……公園だよね?」
「うん! じゃあ今からみんなには砂の山崩しをしてもらうよ!」
「砂の山崩しって……もしかして、山の頂上に木の枝を差して倒れたら負けってやつだよね?」
「そう! 拓真大正解!」
「ああ、あれか。懐かしいな」
「もしかしてなんだけど……2人っていつもここでデートしてるの?」
「デートっていうよりはほぼ遊びだけどな……。なんならここで遊んでいる子どもたちの相手してる」
「へ、へえ……。莉子の言ってたことって本当のことだったんだ……」
「うちは嘘なんて言わないから!」
莉子と真彩は騒ぎながら砂場へと向かった。
そんな2人の後ろ姿を見ながら、お互いに微笑んだ。
勝は莉子、そして拓真は真彩が笑って騒いでいてくれていることが何よりの願い。
自分が大好きな人をこれからも守っていきたいと改めて強く心に決めた。
◇◇◇
「じゃあ莉子またねー!」
「うん! 真彩またねー!」
「じゃあ、勝先輩さようなら」
「ああ、また明日な」
それぞれお別れを言って、2組はそれぞれ自宅へと向かっていった。
砂山崩しはかなり盛り上がった。
10回戦ほどやり、結果は真彩が全敗し拓真が優勝者だった。
あまりにも悔しかった真彩は泣き出してしまった。
そんな彼女を拓真は優しく抱きしめ、彼女の頭を優しく撫でてあげた。
2人の姿に、勝と莉子は2人が付き合って今も仲が良い理由が分かった気がした。
「しょー、今日も楽しかったね!」
「ああ、砂山崩しはずる賢く考えられる遊びだから楽しいな」
「でしょでしょ!」
満足した莉子はぴょんぴょん飛び跳ねながら歩く。
そんな彼女を見て、勝は思わず笑ってしまった。
「――――? しょー急に笑ってどうしたの?」
「いや、莉子って本当に楽しそうだなって」
「ん? 何で?」
「莉子ってさ、いつも楽しそうにしているよな」
「うん、じゃないとうち生きていけない。楽しくなかったら死んじゃう」
「死んでしまうのか……。それで、莉子ってそうやって笑って楽しんでいるのが一番似合ってるなって。それが莉子らしいなって思った」
「それは当たり前!」
そう言って、莉子は勝の目の前まで駆け寄り、上目遣いをして微笑みながら勝を見つめた。
勝の心臓がうるさいくらいに鳴り響く。
「だって笑っていたほうが良いってよく言われるでしょ? うちはそれを大事にしてるの。確かにうちは学校からスーパー問題児って言われちゃってるけど、それでも、うちはこれからもずっとこのスタイルで行くって決めてる! 自分でもこれが一番似合ってるって自覚してるから!」
満面の笑みで莉子はそう言った。
勝は彼女のこの表情を見て、また心臓の鼓動が早まった。
(そう、だから俺は莉子のことが好きになったんだ。彼女の笑顔をもっと守りたいって思ったからだ)
「莉子……。俺はその笑顔を守っていきたい。莉子の一番の魅力は毎日楽しそうでいつも笑っているところだ。だから俺は莉子のことが好きになったんだ。だから……俺はこれからも莉子の傍にいる!」
「〜〜〜〜〜っ! も、もう急にかっこいいこと言わないでよ……」
「あ、あと俺と2人きりでいる時だけ俺に甘えてくるのとデレるところも好きだな!」
「恥ずかしいから言わないで! だ、だって嬉しいし……うちが一番大好きな人、しょーにもっと甘えたいから……」
「よしよし、じゃあ今日はとことん甘えて良いぞ!」
「――――! じゃあ今日はいっぱいしょーに甘える! しょー大好き!」
そう言って勝に思い切り抱きつく莉子。
勝も莉子を優しく抱きしめた。
そしてお互いに見つめると……唇を重ね合わせた。
遊ぶことが大好きな後輩女子高生、西城 莉子と、静かに1人で過ごしたい先輩男子高校生だった2人だった。
しかし、今は『遊ぶことが好きな仲良しカップル』となり、学校が終われば公園に訪れては子どもたちと遊んでいる。
今日も2人は、公園で子どもたちと鬼ごっこをしている。
【短編】遊んでください先輩! うまチャン @issu18
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