【短編】遊んでください先輩!
うまチャン
第1話 遊んでください先輩!
ここは
1学年1クラスしかない小さな高校で、自然の香りが強く漂う静かな学校である。
ということは、学校の生徒もこの空気につられて静かで平穏……というわけには言えるはずもない。
「あははははは! なにそれ面白すぎ! あっはははははは!!!!」
1階しかないこの学校の廊下から、いきなり大笑いする女子高校生の声が響き渡った。
随分と騒がしい教室……そこは2年生の教室だ。
「ねえねえ! じゃーあ、こうしたら……ああ! 崩れちゃったああああ”あ”あ”!」
「きゃはははははは!!!! 莉子の負け〜」
「何その言い方腹が立つんだけど!」
「だって負けたのは莉子でしょ?」
「ぐぬぬぬ……!」
ブロック崩しをして崩れたことで奇声に近い大声を出して、また大笑いする。
その奇声を発する1人の女子高校生、彼女の名前は
校則違反に完璧に引っかかるほどスカートを短く……していない。
髪の毛だっていたって普通のセミロング、おしゃれギャルのように派手というわけでもない。
そう、彼女は身なりはきっちりとしているが、教員を悩ませるスーパー問題児なのだ。
授業中でも休み時間でも、場所に関係なくとにかくうるさい。
身なりはしっかりしているのに問題児という、ギャップがありすぎる人物なのだ。
そんな彼女がふと窓の外を見るといきなり身支度をし始めた。
そして雑にバッグの中に入れ終えると、バタバタと教室の出入り口に向かって走った。
「――――! じゃあ、うちそろそろ帰るね!」
「うん! 莉子じゃあね!」
「じゃあね真彩!」
莉子と盛り上がって話していたのは莉子に続くスーパー問題児、
この学校に入学した時に出会った2人は、お互い昔から問題児ということもあり、同じ仲間だと感づいた。
それもあってか、2人はすぐに打ち解けて仲が良くなるわけだが……。
スーパー問題児とスーパー問題児が合わさったことで、教員たちはさらに頭を悩ませることに。
2人とも問題児だという噂は聞いていたが……噂以上の問題児だった。
もちろん学校の外まで響いているんじゃないかというくらい騒がしく、定期試験の成績もワースト1、2位を争うほど。
ちなみに……2人は定期試験の時期になるとどっちが点数が上か勝負をするが、双方とも結果は10点台前半か2桁すら届かないことも。
そして負ければ言い訳をして喧嘩が勃発しそうになる……本当に頭を悩ませる生徒だ。
そんな2人にはそれぞれ気になる人がいる。
まず、真彩は一年生の男子高校生だ。
「あ、真彩ちゃん!」
「――――拓真! もう待ちくたびれちゃったじゃん!」
「ごめんね、廊下に出た途端女子たちに絡まれちゃって……」
「あはは! 拓真は女子たちから人気なの真彩も知ってるから気にしなくても大丈夫!」
そう言ってぎゅっと拓真に抱きつく真彩。
それに対してそっと抱きしめる彼の名前は
真彩も彼のファンで、いわゆるガチ恋勢だった。
転機は先月の7月だった。
毎日放課後は莉子と大騒ぎしながら遊んでいると、突然教室に入ってきたのは拓真だった。
拓真に連れられ、誰もいない教室で言われたのは……真彩が好きだから付き合ってほしいだった。
校区の関係で出身中学は違うが、近所ということもあって古くから付き合いがあった。
もちろん真彩はすぐにOKを出した。
それ以来、2人は現在も莉子が帰ったらイチャイチャしているのである。
「あれ、莉子先輩は……あ、さっきすれ違って挨拶した。またあの人のところへ行くのかな?」
「そうに決まってるじゃん! 真彩も応援してるんだけど大変そう」
「莉子先輩とは中学校からお世話になってたから僕も応援しているんだけど……。なんせあの人だから難しそう……」
そんなことを言いながら、窓の外を見る真彩と拓真。
窓の外には――――莉子が校門に向かって走っていく姿が映る。
「莉子頑張って……! はい、じゃあ拓真」
「はいよ」
2人向かい合った瞬間、お互いの唇を重ねた。
何度も、何度も重ね合ってお互いの想いを確かめあった。
「はあ、はあ……拓真、大好き!」
「僕も大好きだよ、真彩ちゃん!」
「――――! 早く帰ろって2人とも」
「「――――!? や、
「ったく、そこでそんなことしてるんだったら……!」
「「――――」」
さあ、何を言われてしまうのか?
説教? それとも……。
「5時までならイチャついてて良いからな!」
「「や、柳川先生っ……!」」
何だかんだ生徒思いの
親指を上に突き出すと、そのまま教室の出入り口から
そして、教室でまた2人になった真彩と拓真は、17時までイチャイチャと仲良くじゃれた。
◇◇◇
校舎を出て校門へと走って行く莉子。
足が速い彼女は、あっという間に追いついた。
「せんぱ〜い!」
「――――! げっ!」
「げっ! て……ひどくないですか先輩」
「――――げぇっ!」
「最低先輩!」
莉子が見つければすぐに校舎を後にするほど話したい人物。
彼の名前は
莉子の一つ上の3年生の男子高校生。
身長は167cm、体重は54kgと細身の体型。
穏やかな雰囲気がある。
彼は基本1人で過ごしたいため、莉子のような騒がしい人と関わりたくないのだが……。
「先輩! 今日も、うちと遊んでください!」
「じゃあまた明日」
「ちょぉおっっっと待ってくださーい!」
無視して帰ろうとする勝に、莉子は彼の前に周り込んだ。
そして、両手を広げて通せんぼをする。
彼女の目がキュッと細くなった。
「きょ・う・も! うちと遊んでください! じゃないと……」
「じゃないと?」
「――――本気で泣いちゃいますからね……」
「――――」
語尾が段々と小さくなっていく莉子。
声を震わせる莉子の声を聞いて、これは間違いなく泣きそうになっているのだと気づいた勝。
勝はため息をついた。
「分かった、今日も俺の負けだ莉子。くそっ、何で俺はこんなやつと関わらなきゃいけないんだ……」
「関わらないといけないって言ってるくせに、先輩は何だかんだうちと遊んでくれますよね!」
「――――」
図星だった勝は莉子から少しだけ視線を逸した。
そして、そのまま莉子の横を通る。
「ほら……早く行くぞ。早く行った方がもっと長く遊べるからな」
「――――せ、先輩〜! うちのこと好きすぎじゃないですか!?」
「おわっ! きゅ、急に抱きつくな! びっくりするだろ!」
「びっくりしてる、じゃなくて、『ドキドキしてる』でしょ? せんぱ〜い!」
「――――」
勝は思わず頭を抱えてしまった。
このスーパー問題児の相手をするのは大変なことだ。
否定したらしつこいくらいに攻めてくる、逆に肯定したらしたでいきなり距離が近くなる。
1人で静かに残りの時間を過ごしたいというのに、何故この言うことの聞かない後輩の相手をしなきゃいけないのかという疑問は確かにある。
しかし、勝の心の奥底には違う思いがある。
その思っていることのせいで、彼は莉子と居るとモヤモヤしてしまうのだ。
「先輩? どうしたんですか? 早くいきましょうよー」
「あ、ごめん……」
「もしかして……変なこと妄想してました?」
「ちげーよ!」
小悪魔な笑みを浮かばせながら勝の顔を覗き込んだ。
彼女の顔が映り込んだ瞬間、勝はまた莉子から視線を逸した。
(くそっ! 何で、何でこんなやつに……!)
さらにモヤモヤする勝。
とりあえず、この場から動かないと何も始まらないため、勝はまた歩き始めた。
莉子は少し遅れて歩き出し、小走りで勝に追いつく。
そして、彼の隣をついていった。
◇◇◇
歩き始めて徒歩20分、それなりの距離を歩いた2人がたどり着いた場所は……何故か公園。
すると、莉子は公園についた瞬間真っ先に走っていく。
彼女が行った場所は、子どもたちが集まっている砂場だった。
「――――あ、りこお姉ちゃんが来たぁ!」
「りこお姉ちゃーん!」
「みんなぁ! 今日もりこお姉ちゃんが来たぞー!」
莉子を見た瞬間、遊んでいた子どもたちが一斉に彼女のもとへ集まった。
そう、莉子は地元の子どもたちに大人気なのである。
莉子は昔から子どもたちと遊ぶことが好きで、学校が終われば毎日こうして子どもたちと遊んでいた。
勝はこの光景を初めて見た時、思わず目を疑ってしまった。
あのスーパー問題児と言われている莉子が、ここで秘めた才能を持っていると思ってもいなかったのだ。
(にしても……よく制服で走り回れるよな)
学校帰りのついでにこの公園に来ている莉子は、着替えることもなく子どもたちと遊び始める。
勝は逆に感動していた。
「ねえねえお兄ちゃん。お兄ちゃんもりこお姉ちゃんと遊ばないの?」
「お、俺? 俺は別に良いよ……」
「えー? 楽しいのにー」
1人の男の子が勝のもとへ駆け寄ってきた。
この少年は最近勝を見かけるとすぐに駆け寄ってくるのだ。
勝は子どもの遊びをほとんど忘れていた。
だから、この子の要望に応えたくても、応えられなかった。
「先輩」
「――――! り、莉子!?」
「たかしくんと遊んでやってください。あ、みんなぁ! このお兄ちゃんと遊びたい人、手ぇ上げてー!」
「「「「はーい!」」」」
「り、莉子! お前……!」
「良いじゃないですか先輩。子どもたちがよくやる遊びも、案外楽しいですよ!」
莉子を含め、この場にいる全員が期待して目を輝かせている。
もちろん勝に話しかけてきた少年、たかしも同じだった。
もう逃げ場がない。
勝は諦めるしかなかった。
「分かった! 俺も遊ぶとしよう!」
吹っ切れた勝。
その後、まるで子どもに戻ったかのように子どもたちと遊んで遊んで、遊びまくった勝と莉子だった。
ちなみに、莉子の存在は地元の人たちにも有名で、自然と知り合いになった人も多い。
純粋な心を持つ子どもはありのままに莉子のことを話すため、赤の他人でも安心して子どもたちと遊ばせることができるのだ。
今回は親御さんたちはいなかったものの、稀に公園には息子や娘を見守る母親たちがいる。
莉子は子どもたちだけでなく、その母親たちにも気軽に話しかけるため、すぐに仲が良くなるのだ。
話し方、騒がしさからこの子は間違いなく頭が悪い女子高生だとすぐに判断できるが、話好きな莉子は話題をたくさん持っているし、興味を持って聞いてくれる。
そのようなこともあって、莉子は保護者からも好印象を持っているのだ。
「りこお姉ちゃん、しょうお兄ちゃんまたねー!」
「また明日も来てねー!」
「はーい! また明日も来るからねー!」
公園の時計は午後5時を指していた。
子どもたちは皆帰る時間。
一斉に公園を後にする。
「はあ……楽しかったですね! 先輩!」
「はあ、はあ……俺、体力なくなったな……」
「もう、情けないですよ先輩。あんなにへばっていたら女子から好かれなくなりますよ」
「運動してないから、仕方ない、だろ……はあ、はあ……」
肩で大きく息をしている勝に対して、莉子は全く疲れていない様子。
これも子どもたちと遊んでいるからなのだろうかと思う勝だった。
「そろそろ、帰るか……」
「まだですよ」
「はぁ?」
「まだ日は暮れてないですし……ちょっとだけ砂場で遊ばないですか?」
「俺はもう――――うわっ!?」
莉子に手を引かれ、強制的に砂場に連れられていく勝。
砂場に着くと、莉子はバッグの中を漁り始めた。
「えっと……あった! はい! 先輩はこれを使ってください!」
「えぇ……?」
バッグから取り出したのは、明らかに子どもが使う砂場用のおもちゃ。
小さなバケツとジョウロ、プラスチック製のスコップ、砂ふるいなど砂場遊び用のグッズだ。
「これで何か作りましょう!」
「――――しょうがないなあ……」
「やっぱり先輩は何だかんだ優しいですよね!」
「仕方なくだよ、仕方なく!」
と馬鹿にしていた勝だが、やっていくうちに究極を求めるようになっていった。
しかし、さらさらとしていて崩れやすい砂は思い通りにはいくはずもなく……。
「だああああ! また崩れちまった!」
「どんまいです先輩! でもさっきより上手くなってますよ!」
何だかんだ応援してくれる莉子。
この時、勝は1つ気づいたことがある。
莉子は確かに成績は最悪、そして騒がしいことで有名なスーパー問題児だ。
しかし、彼女は運動神経抜群で、そして実に子どもらしい考えを持っている。
そのおかげで子どもたちから慕われている、そして子どもは純粋な心を持っていると言われるように、彼女も純粋で絶対に嘘をつかない。
(そうか、莉子はスーパー問題児だけど……スーパー問題児だけど、それが彼女の魅力的なところなのかもしれない)
「なあ莉子」
「どうしたんですか先輩?」
「俺――――初めて莉子に話しかけられた時、俺は正直面倒なことに巻き込まれたなって思ってた。特に莉子はスーパー問題児だって俺も知ってたから」
「いきなり真剣な話してどうしたんですか?」
「まあまあ最後まで話を聞いてくれ。俺は最初、莉子に対しては全く良い印象を持っていなかったんだ。でも……莉子に負けて公園に連れられては遊んで、それを何回も繰り返していたら、莉子も案外優しい人なんだなって最近思ってきたんだ」
「な、なんですか急に……。まさか、うちに愛の告白をしてます?」
「ああ、もちろんだ!」
「はぇ!?」
まさかの展開に、莉子は目を大きく開いて驚いた表情を見せる。
からかうために冗談で言ったはずなのに、まさかの急展開になってしまった。
「俺は西城 莉子のことが好きだ! だから、俺と付き合ってください!」
「〜〜〜〜〜!?」
勝はずっと胸の内に秘めていた言葉を放った。
そう、いつの間にか彼女のことを好きになっていたのだ。
そして莉子は……ずっと勝のことが気になっていた。
最初はずっと1人で静かに過ごしている彼を見て、興味半分で話しかけたのがきっかけだった。
しかし、毎日会って話していくうちに大人っぽい勝にだんだんと惹かれていったのだ。
そして今、目の前で告白された。
真剣な眼差しで、でも顔を真赤をしながら勝は莉子を見つめている。
「――――」
「莉子……。お前、その顔可愛すぎないか?」
「〜〜〜〜〜!? せ、先輩のくせに生意気ですね!」
勝は正直に話しているが、莉子からすればまるでからかっているようにしか聞こえなかった。
下唇を噛んで体を震わせているが、彼女の頬は真っ赤に染まっていた。
もう、認めざるを得なかった。
「――――先輩……う、うちも先輩のこと好きです。だから、よろしくお願いします……。うちもそう言いたかったのに……。こういう時だけ男らしくなるのずるいですよ先輩……」
「――――! 莉子!」
「ひゃあ!?」
嬉しさのあまり思わず莉子の手を握った。
驚いて変な声を出してしまった莉子だが、次第のその表情も変化し……恥ずかしそうな表情になった。
砂遊びをしているため手には細かい砂がついて手触りはザラザラしている。
しかし、2人にはそんなことは関係なかった。
「――――あ、これってもしかして教会ですか?」
「そうそう、究極を求めすぎて気づいたらこれが出来てた」
「ふふっ、なんですかそれ。気づいたらこれが出来たって……才能ありすぎですよ先輩!」
「だろ?」
出来上がった勝の作品に目を輝かせる莉子と、そんな彼女を見て笑う勝。
究極を求めていたらこれが出来てしまったというおかしな話だが、莉子はまるで素晴らしい作品を見て興味津々に見る、まさに子どものようだった。
「じゃあ、帰りましょうか先輩!」
「えっ、もう良いのか? いつもならもっとここに居るだろ?」
「良いんですよ先輩。先輩……これからちょっとだけデートしましょう?」
「――――! ああ! 行こうか! あ、あと俺のことは先輩じゃなくて名前で呼んでほしい。あとタメ口で良いよ」
「じゃ、じゃあ……『しょー』で……。これで、い、良い……?」
「な、なんだかいきなり莉子に名前で呼ばれると恥ずかしいな……」
「言わせておいて!? うちだってすごい恥ずかしかったんですからね!?」
「分かってるって。ほら、まだ敬語になってるぞ? それじゃあ、行こうか」
「〜〜〜〜〜〜! そ、そんないきなりは無理ですよ! ま、まあ……ちょっとずつ慣れていこうとは思います」
初々しい空気に包まれながら、2人は手を繋ぎながら自宅へと向かった。
遊びが大好きで勝と遊びたいスーパー問題児、西城 莉子と1人で静かに暮らしたい先輩、船木 勝は新たな関係となり新たな一歩を歩みだした。
そして、2人はこの後も放課後に公園を訪れては子どもたちと遊んだ。
勝は、今まではただ莉子に付き合ってあげていただけだったが、子どもの遊びも案外楽しいことが分かり、最近は全力で子どもたちと遊ぶようになった。
それの姿を見ている莉子は、勝は意外にも子どもっぽくて可愛い先輩と思うようになった。
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