第7話 明後日の方向いてどーしたん?

「海で探すと、ベタベタするじゃん? それに、砂浜にクラゲが打ち上がってるの怖くない?」//両腕をさする


「もしクラゲに刺されたらって考えただけでも、背中がぞわぁって来た。シーグラスとか貝殻も拾えるのは海ならではだけど、はーちゃんは無理。サメと会ったら動けない」


「川だと普段聴かない鳥の鳴き声が聴こえるし、空気が美味しいからマジでおすすめ!」//満面の笑みを浮かべる


「電車で移動する理由? これから河原をたくさん歩くんだよ? その分、体力温存しとかなきゃ。上流から下流に向かって探索すると、どれくらいかかると思う?」


「二時間くらいは、あっという間に過ぎるよ。気づいたら昼を食べ損ねてたって、ざらだもん。からかってないからね。ガチ中のガチだし。石のことになるとはーちゃんが熱くなるの、分かってるよね?」


「よしよし、いい返事だね。はーちゃんが撫でてあげる」//頭を撫でる


「電車が来る前に、はーちゃん隊長直々に持ち物検査しちゃお。歩きやすいスニーカー、よーし! 日差しから頭を守る帽子は? 持ってきただけで被ってないじゃん! 今すぐリュックから出して! ちゃんと装備する!」


「よろしい」//腰に手を当て、鼻高々になる


「拾った石を入れるビニール袋はある? 昼ごはんは? おぉー! 優秀じゃん!」


「じゃあ、最後の質問。日焼け止めは持ってきた?」//顔が次第に青ざめていく


「日焼け止め塗ってきてないの? それマ? 死ぬよ?」//カバンから日焼け止めスプレーを出す


「目ぇ閉じて」//日焼け止めスプレーを振り、顔に吹きかける


「まんべんなく塗れてないから、目を開けるの禁止」


「だーめ。隊長命令は絶対なの。忘れ物をしたあんたには、絶対塗らせないから。黙ってはーちゃんに従ってよね」


(ヤバいヤバい。めっちゃナチュラルに触れられたんじゃない? ほっぺも、鼻も、おでこも、今なら触りたい放題じゃん。はーちゃん天才かよ。せっかくだし、もーちょい堪能したいな。ベトベトするけど、こーゆーベトベトならいくらでも我慢できるかも)


「耳もちゃーんと日焼け止めを塗っておかないとね。後で真っ赤になるのやじゃん?」


「ちょ、草生えるんだけど! そんなに目をぎゅってすることなくない? 耳弱すぎん? ぴとっ。すりすりぃ~」//塗りながら笑い声が大きくなる


「笑いすぎてお腹痛い。あんたがそんなに敏感なの知らなかった」


「は? 日焼け止め塗ってくれたお返し……? いらない、いらない! はーちゃんは自分で塗るからいいって!」


(はーちゃんが目ぇ閉じてたら、キスされるんじゃないかってドキドキしすぎて絶対変な顔になる! 触られるのやじゃないけど、ちょー恥ずい……)


「あっ。電車来たよ。次の電車に乗り遅れたら、時間だいぶロスるんだよね。川の探索へいざ、レッツゴー!」


 //SE ドアが閉まる音


「席、空いててよかったね」//座席に腰を下ろす


「あんたの隣に座れるし」


「なーに? 肩、びくってして。はーちゃんの頭が乗るの、そんなにやなの?」


「ふっ」//耳に息を吹きかける


「あはは。ごめんごめん」


「なんかさ、ついついじゃれたくなったんだよねぇ~。世の中のカップルって、こんなじゃれあいしてない? 一緒にいるだけで楽しすぎてさ、じょーしきが抜け落ちちゃうの」//耳元でささやく


「人前を気にしろ? はーちゃんの目は、あんたしか見えてないのに? ほかの人のことも見なきゃいけないの?」//むっとする


「やだなぁ~。そんな顔すんなよ。あんたの照れが伝染りそ~」//笑いながら照れる


「マジで伝染るわ」//小声で言った後、黙り込んでしまう


「到着~」//長い沈黙が嘘だったかのように、元気な声を出して電車から下りる


「見て見て! 改札を出たら目の前すぐ川なんだよ! 石好きにはたまらない立地だと思わん? ま、実際には上流まで十分くらい歩くんだけどさ」


「石探しはお目当ての石を決めなくても楽しめるけど、今日はあえて決めとこーよ」


「石英」


「無色透明。宝石の水晶とは別物。石英と成分は同じだよ? 見た目が白くて濁ってるのが石英だね。角が取れたすべすべの肌は、卵みたいに可愛いんだよ。思わず割りたくなっちゃうんだ」


「ほんとには割らないよ。せっかくの形がもったいないし」


「そんじゃ行こっか。真剣に探しすぎて、首が折れないよーに気をつけてね」


「上流はかくかくってした石というか、岩が多いよね。ここから下流に向かって旅をして、だんだん削れて小さくなっていくの。どんな形になるのか、想像するだけでわくわくする」


「おっ。石英じゃないけど、早速よさげな石を見つけたんだ? はーちゃんに見せて見せて」


「赤茶色の石だからぼたもちみたい? それな! 粒々の模様が餡の影そっくり。この子は今日からぼたもちちゃんだ」


「ぼたもちちゃんは何の種類の石か? 安山岩だよ。安全の安に、山川の山に、岩はそのまま岩。火山活動によって地表に出てきて生まれた石だよ。川に流れてここまでやって来たんだねー」


「米と言えばさ。こっちの石は何に見える?」


「だよねー! はーちゃんも最初見たときに、ゴマ塩をかけたご飯だって思ったもん」


「きなこ餅とみたらし団子も探すって、目的を見失ってない?」//腰に手を当てる


「石英探しはどーしたの? ちゃんと探してよ」


「でも、おもしろそうだから、はーちゃんも探す! 前に川で探したときは、木星みたいな石が見つかったんだよ。灰色がかった縦長の石で、真ん中に褐色の線が入っていたんだ。きなこ餅とみたらし団子も、ありそう!」


「意外と川の中にあるんじゃないかな? はーちゃんの荷物、持っといて」 // スニーカーを脱ぎ、川に入る


「シュノーケル持ってきとけばよかったなー。手探りで探すのしんどっ」//言葉とは裏腹に、声は弾む


「あれあれぇ? 明後日の方向いてどーしたん?」


「ははーん」//理由を答えずに黙っているため、にやにやする


「透けてるの気になるんだ?」


「これ、ブラじゃないよ。み・ず・ぎ」


「どーお? はーちゃんに似合ってる? 新しく買ったんだ。よく見えるように全部脱いじゃお」//水着があらわになる


「真ん中の輪っかがゴールドでおしゃれだよね。ここの谷間んとこと、腰のとこ。輪っかのおかげで、チェリーピンクのビキニが映えると思わん?」


「輪っかに指を引っかけちゃ駄目なの? どうして?」


「こんなんでビキニはちぎれないって。ホックが外れることはアリよりのアリだけど」


「なーに想像してんの? ウケる。顔真っ赤じゃん。唐辛子でも食べた?」


「パーカー着させたいんだったら、あんたが着せてよ」


「そーれ!」


 //SE 水をかける音


「朝のペットボトルのお返し! 涼しいでしょ。頭から全部濡れちゃったねー」


「反撃したかったら、してもいいよ。あんたにはできないと思うけどね」

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