第6話 会いたすぎて

 //SE 電車の発車する音


「ううっ」//待合室でカバンを握りしめる


「どーしよ。これで四本目だよ。はーちゃん、早く来すぎちゃったかなぁ」


「二時間前だとドン引きされるの目に見えてるから、一時間前に来ようと思ったんだよね。あいつを待たせるの悪いもん」


「だってあいつ、はーちゃん以外の子と付き合ったことないって言ってたし。デートに遅刻しないように目覚まし時計たくさん準備してさ、待ち合わせ場所に着いてから朝ごはんを食べるんじゃないかなーって、軽く想像できるじゃん?」


「彼氏のこと、心配しちゃうじゃん……?」//溜息をつく


「だから予想できなかったんだ。全然寝られなくて、朝の四時に目が覚めちゃったのは、はーちゃんの方だったってこと」


 //長い溜息


「あいつ、まだ来ないのぉ? はーちゃんが首を長ーくして待ってるの察してよ」


「早く待ち合わせ時間にならないかなぁ」


「会いたすぎて死んじゃうんだけど」


「夏期補習から一週間だよ。毎日電話してても、全然足りない。授業だるいけど、あいつに会えないのはもっとだるい。夏休みがしんどいなんて、今まで知らなかったよ~」


 //SE 蝉の鳴き声


「うへぇ。暑すぎて死ぬぅ。もう蝉が鳴く時間帯なん? まだ八時前じゃなかった?」


「はーちゃん溶けちゃうよ……」//膝の上のカバンにもたれかかる


「ひゃっ」//冷えたペットボトルを頬に当てられて驚く


「驚かせないでよ。待ち合わせまで何十分あると思ってんの? あんまり早く来すぎたら、次の待ち合わせ時間を決めるの悩むじゃんか」


「でも、冷たくてきもちー。ありがとね。生き返ったよ」


「ほんと? このお茶、はーちゃんが飲んでいいの? まだ空けてないからお構いなくって……元々あんたが買ったお茶なんだよね? だったら先に飲みなよ」


「気にすんなし! はーちゃんは、あんたが飲んだ後にもらうから大丈夫」//サムズアップする


(はぁーーー? どこが大丈夫な訳? 問題だらけじゃん! 飲んだ後に分けてもらうってことは、要するに……要するに……さ。間接キスされてもいいって、おねだりしてるってことじゃね? まだキスされてないからって、欲求不満かよ)


 //照れるものの、表情には見せない


「あんたって、ほんと優柔不断だよね。固まったままだと、お茶がぬるくなっちゃうじゃん」


 //待合室の自動販売機で、同じブランドの茶を買う


「はい。冷えた方どーぞ」


(チキンめ、はーちゃんのチキン! 助け舟出さなかったら間接キスできたかもしれないのに! またチャンスが遠くなっちゃったよ。捨てられた子犬みたいな、つぶらな目をさせたい訳じゃなかったんだけどな)


「じゃ、ホームでまとっか。待合室より風が来て涼しいはずだし。扇風機も頑張ってくれてるけど、生ぬるい風だとね~」


「あと、電車が来る前に線路の石を見たい」


「はぁ~~! 石の断面たまらん」


「さすがに盗まないってば。でもさ、この子らがはーちゃん達の生活を支えてるって思うと、すごくない?」


「線路に石を敷いているから、レールが沈まないんだよ。石がないと、電車の音を吸収してくれるものがなくなるし。石のおかげで水はけの問題も解決してくれるんだ」//語尾に音符マークがつくくらいの上機嫌になる


「あの色だからいいんだよ。灰色とか茶色は目の保養じゃん?」


「今日は線路の石を布教したいんじゃなくて。いや、あわよくば、はまってほしいけどね?」


「川の石のよさを紹介したいんだ」

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