第5話 路傍の石って言ったこと、後悔するんじゃねーぞ

「白亜、白亜って……そんなに連呼すんなよ。はーちゃんの名前が減っちゃったらどーすんの」//下の名前を呼ばれすぎて照れる


「はーちゃんのおかげで、だいぶ掃除はかどったんじゃない? 先に職員室寄ってから部室行くから。後は一人でやってよね」//カバンを取り、教室を出る


 //SE 早歩きの靴の音


「はーちゃんの馬鹿」


「あんな言い方したら、片思いだってバレちゃうじゃん」//溜息をつく


「早起き頑張ってメイクするのは、あいつに可愛いって言ってほしいからだし」


「カラコンは、目つきが悪いの隠すためだし」


「あいつにならジロジロ見られてもいいってゆーか、むしろどんと来い的な……」//独り言で恥ずかしい気持ちが芽生え、声が小さくなる


「高校デビューでギャルになったの、マジで失敗だったわ。クロがいないと、つよつよメンタルを保つの無理だし。クロぉ……あの手触りが恋しすぎる。一週間も我慢させられるとか、禁断症状しか出んのんだけど」


「完璧な仮面で武装しても、中身が陰キャのままじゃ意味ないんだよね。肝心なときに限って逃げたくなる……」


「もしもの話だけどさ」


「あいつがはーちゃんのことを好きになってくれたとして」//顔を赤らめる


「それは明るくて可愛いところに惹かれたってことじゃん? 一生ギャルを続けるの無理ゲーだわ。ただでさえ、一人でいられる時間がないとしんどいのに」


「何ではーちゃんがあいつのことで悩まないといけないの? 顔がよすぎてつらい!」//逆ギレ




 ――それから一週間後の部室。


 //SE 石を研ぐ音(しゅるしゅるしゅる)

 

「飲み込み早くね? 石を削るの、板についてきたんじゃない?」


「八百番のやすりを使ったときは、磨きすぎて石に傷ができちゃったんだよね」


「また一からやり直しってなったときのあんたの顔、マジでウケたっけ。写真撮っとけばよかったなー。間抜けすぎて、ここ最近で一番笑っちゃったんだから」


「下地を丁寧に出したおかげで、だいぶツルツルになったね。まだ満足しないでよ。ざっとツヤ出しの作業をしているだけなんだし。二千番台のやすりで磨いてやっと、立派なコレクションになるんだよ」


「はーちゃんの教え方が神なのは当たり前じゃん」


 //ふわりと笑みを浮かべる


「無言が続くってことは、だいぶ気持ちよくなっちゃったんじゃないの ? お客さん、磨きがいがあるねぇー」


「あんたに話しかけてねーし! 石に話してるの!」//焦る


「勘違いしないでよね! あれだから! 赤ちゃんをあやしていて、赤ちゃん言葉が出ちゃう的な!」//早口でまくし立てる


「……あんたも磨けば化けるかもしれないけど」//ぽつりと呟く


 //SE 石を研ぐ音(しゅっしゅ)


「な、何か言ってよ。反応に困るじゃんか」//ぺちぺちと背中を叩く


「そろそろ下校時間かぁ。あんたといると、時間が経つのいつもより早い気がする」//無理やり話題を換える


「クロを返す? どしたん、急に」


「確かに、はーちゃんが一週間ちゃんと学業に向き合ったら返す約束だったよ」


「さみしいな。結局、あんたに撤回させるのはできなかったんだもん。石を布教するのムズいわ」//力なく笑う


「気にすんなよ。宝石と違って、その辺の石を好きになる人は少ないしさ。あんたのせいじゃないよ」//引き止める言葉が見つからずに俯く


「ごめんね。今日まで付き合わせちゃって」


「ひゃう」//手を握られて固まる


「はーちゃんの手、削った石の粉で汚れてるよ? そんな手を握ったら、あんたの手も汚れるの、分かってる?」


「綺麗? マジで言ってる?」


「あんたにひどいこと言ってきたのに、はーちゃんのこと嫌いにならないでいてくれるの? 友達じゃなくて、彼女として付き合ってくれる……?」


「路傍の石って言ったこと、後悔するんじゃねーぞ。家中の棚が石で溢れかえっても、はーちゃんのこと好きなままでいてよね」

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