第4話 そーゆーことにしておいてあげる

 //SE 耐水ペーパーで研ぐ音(ジャリジャリ)


「ジャリジャリ。ジャリジャリ~。はぁ~。いい音だよねぇー。石がだんだん綺麗になっていく音、たまんないわ」


「そろそろはーちゃんと交代しよ。六百番のやすりに替えるまで、めっちゃ頑張ったじゃん。手ぇ休ませておきなよ」


 //石の表面を撫でる


「う~ん。まだまだザラついた音がしているねぇ。とりま、石を一旦水につけて、表面に出てきた白い粉を洗い流そっか」//ペットボトルの水に石を浸ける


「どしたん? そんなに焦って。何か紛らわしいこと言ったっけ?」


「はーちゃんが白い粉なんて言ったら誤解される? あんた、はーちゃんのこと心配してくれてんの?」//嬉しそうな声


 //SE 耐水ペーパーで研ぐ音(ジャリジャリ)


「そこまで悪い子じゃないからね」//心地よさそうに、石を研ぐ音に聞き入る


「授業サボるのはよくないけど、教室から抜け出したくなるときはあるくない? あんただって、面倒なときがないって言いきれる?」


「うぐっ。さすが優等生くんは違うなぁ~」//痛いところを突かれ、しどろもどろになる


「別に、夢中になれることがあるのは悪くないし。はーちゃんも、石を見る時間だけは集中力すごいから! ご飯食べるの、忘れちゃうぐらいっ!」


 //SE チャイムの音


「ヤバっ! 今の、予鈴だよね? 授業開始のチャイムじゃないよね?」


「あぶなっ。五分で教室戻るよ」


「草生える。あんた、めちゃくちゃ情けない顔になってるよ」//笑う


「あーね。すぐに完成すると思った訳だ」


「石磨きは昼休みだけじゃ終わんないよ。一日二時間磨いても、数日以上はかかるし。この続きは、またの機会にしよ。今は授業を優先しなきゃね」


「ほらほら、部室の鍵かけちゃうよ。早く外に出てくれん?」


 //SE 部室の鍵を閉める音


「走るよ。はーちゃんの手、しっかり握っといて」//パシッと手を掴む


「ダッシュ、ダッシュ~!」


 //SE 全速力で走る靴の音


「あと何分? ギリギリ間に合うんじゃね?」//靴を履き替えながら、息を整える


「もうひと踏ん張り、いけそ?」


「おっしゃ。ラストスパート行きますか!」//にっと笑う


「よいしょ。よいしょっとぉっ!」//先に階段を駆け上がる


「頑張れー! もうちょいで教室だよ。まだセンセー来てないっぽい」


「ギリギリセーフだね」//ほっとした笑み


「へ?」


「今日の放課後? 暇だよ? バイトない日だし」


「はは~ん。途中でやめちゃったから、もどかしいんだね。だいぶ石が好きになっちゃった的な?」


「いいよ、いいよ。そーゆーことにしておいてあげる。中途半端にするのが嫌なだけなんでしょ。で・も・さ」


「そろそろ認めなよ。新しい沼にはまっちゃったって」//不敵そうな笑みを浮かべる


「あんま布教しすぎると、初心者さんは逆に怖がっちゃうか」//自分に言い聞かせるように言う


「じゃ、放課後に部室で会お。抜けがけは禁止ね!」//教室に入る





「やっと終わったぁ。ホームルーム長すぎぃ~。早く部室行って、ちょっとでも涼しくしとかなきゃ。あいつが熱中症になったら困るし」


「えっ? 職員室にプリントを運ぶの手伝え?」//担任に呼び止められて困惑する


「センセー、プリントは学習課題集と比べて重くないですよ。職員室なら、センセーが帰るついでに持っていったらよくないですか?」//早く部室に行きたい気持ちを抑え、説得を試みる


「三年生の追試を見ないといけないから無理って……センセー! まだ私の話は終わっていませんけど!」


 //SE 教室から出て行く先生に舌打ちする音


「マジか。はーちゃんをパシリに使うとか、ありえないっしょ。貸し一つだって、よーく覚えとけよ。セーンセ?」//小悪魔のように歯を覗かせる


「え。待って。あんた、ほうき持ってるけど掃除当番なんだ? 一人しかいなくない?」


「あんたが部活に入っていないからって、そんなの掃除をしない理由にならないよ。まさか、今までも都合のいいようにこき使われてない? 初めてじゃないよね。もう、いつもバックレるなんてひどすぎ! はーちゃんでもバイトの日は代役を頼むんだから!」


「しょーがないなぁ」//カバンを教卓に投げる


「職員室にプリントを持っていく前に、掃除手伝ってあげるわ。はーちゃんが机運ぶから、あんたはほうきお願い」


「はーちゃんの貸しは高いよ? クラスメイトだからって、安くしてあげないもんね」


「掃除手伝うから、はーちゃんのこと名前で呼んで? それでチャラにしといてあげる」


「遠井さんじゃないし。と・お・や・ま! 名字ぐらい覚えといてよね。同じクラスになってだいぶ経ったじゃん」


「名字ですら覚えられてないのショックだわ。下の名前なんて、絶対分からないよね」//机を動かしながら溜息をつく


「嘘……」//声に出せない驚き


白亜はくあ……だよ? 合ってるけど、どうして覚えてるの? しかも、即答だったし」//小声になる


「白亜紀の白亜から命名されたの、はーちゃんが自己紹介で言ったやつじゃん。ちゃんと聞いてくれてたの、嬉しすぎる」


「やっぱ、名前で呼ぶのなし! 女子の友達がいなさそうなあんたには、ハードルが高そうだもんね。はーちゃんの寛大な心に感謝しといて」

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